かみさまのらくがき【童話】
ぼくがうんとちいさいころ。
おかあさんといっしょに、こうえんにいった。
すなばで、おぼえたばかりのもじをかいていたんだ。
「ゆうくんは、もじがとってもじょうずね!」
おかあさんが、ほめてくれた!
おかあさんをみあげたとき、ぼくは、あおいそらに、らくがきがあるのをみつけた。
「おかあさん。そらに、いっぱいらくがきがしてあるよ!」
おかあさんは、ぼくがみあげたそらをながめて、にっこりわらっていった。
「あれはねえ、かみさまが、もじをかくれんしゅうをしているんだね」
「かみさま?」
「そうだね、まだちっちゃいから、いっしょうけんめい、れんしゅうしてるんだね」
かみさまは、ぼくよりもちいさいんだって。
ぼくのほうがおにいさんだから、がんばれって、おうえんしてあげよう!
「かみさまー!がんばってー!」
そのひから、ぼくは、まいにちかみさまのらくがきを、みてあげるようになったんだ。
ぼくは、小学生になった。
神さまのらくがきを見るのが、ぼくのにっか。
今日は、どんならくがきを、するのかな?
おもしろい線をかいていたら、笑って。
まっすぐな線をかいていたら、すごく上手ってほめて。
ぐちゃぐちゃになってたら、どうしたのって、心ぱいしたり。
神さまのらくがきは、神さまからのメッセージ。
文字はまだ書けないみたいだけど、つたわってくる、神さまの気もち。
わかるよ!ぼく、しん友だからね!
青いお空に、神さまのらくがきがいっぱい。
今日の神さまは、ごきげんみたい。
たのしいね!よかった!
ぼくもうれしくなってきたよ!
明日もまた、いっぱいらくがき、みせてね!
僕は、中学生になった。
毎日たくさん書かれていた落書きが、最近あまり、見えないのが気になる。
母さんが言うには、最近空が汚れてきてるんだって。
よくない煙が、青い空をおおって、うす暗い色に変わってる。
週末のよく晴れた日は、神さまの落書きが、見えることもあった。
たまに見せてくれる、神様の落書きは、小さいころに見たものよりも、なんだか元気がなかった。
神様、大丈夫かな。
僕に、できること、あるかな?
僕は、高校生になった。
神様の落書きは、黒い雲に覆われて、見ることができなくなった。
青い空が、見えなくなった。
神様の落書きが、見えなくなった。
神様が、文字を書けるようになるまで、見守りたかったのに。
これじゃ、それを、見届けることができないじゃないか。
僕にできることは、なんだろう。
僕の長年の親友に、僕ができること。
僕は、大学生になった。
神様の落書きを見ることが無くなって、久しい。
僕は、研究を始めた。
神様に、青い空を返すために。
神様に、思いっきり、落書きを楽しんで貰える様に。
僕にできることは、何だってするよ。
君は、僕の、かけがえの無い親友だから。
「先生、お時間ですよ。」
僕の秘書が、時間を知らせる。
ああ、もう、こんな時間か。
「授与式の準備はよろしいですか?」
「僕の身一つあったら、それで良い筈だが…。」
「先生!スーツのボタンぐらい、留めてくださいよ!!」
僕は研究しかして来なかったから、身嗜みには、無頓着なんだよ。
秘書に無理やりボタンを留められながら、僕は空を見上げる。
大きな窓の外には、青空が広がっている。
僕は、やっと、神様に青い空を返してあげることができたんだ。
ずいぶん、待たせてしまったね、僕の親友。
どうだい、青い空の、描き心地は?
このところ、ずいぶん綺麗な線を描くようになったね。
とても上手になったと、僕は感心しているんだ。
君には、長い時間、我慢をさせてしまったよね。
思いっきり、練習していいんだよ。
この、どこまでも続く青い空に、思いっきり落書きをしておくれ。
「お時間ですよ!」
急かされた僕は、大きな窓を閉めようと、手を伸ばした。
青い、青い空に、白い、白い線が何本も見える。
ああ、神様が、落書きを始めたな。
今日は何を描くんだい?
白い、白い線の中に紛れて。
あ
り
が
と
う
神様、文字が、書けるようになったんだね。
大きく、なったね。
ずっと見守ってきた、僕の親友の、成長を心から喜ぶ。
「僕のほうこそ、ありがとう。」
僕は扉を閉め、部屋を出て、表彰式会場へと、急いだ。
今頃、神様は物語がかけるくらいに成長しているかもしれません。