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あれー、おかしいな

 近所にゲームセンターがオープンした。
 近年まれにみる規模の大型ゲームセンターである。

 物珍しさから、仕事が休みの娘と一緒に朝から出かけてみることにした。

 ずらりと並ぶキャッチャー台、体感ゲームに見たこともないようなハウス?フロアを回るだけで軽く30分はかかってしまった、見るだけで疲労感を呼ぶ、この恐ろしい空間よ。
 気を抜くとあっという間に娘とはぐれて自分のいる位置がわからなくなる、久々に己の方向音痴をひしひしと感じるありさまだ。なんだか遊び方が全然分からないものがやたらあるなあ、なんか未来の世界に突然放り込まれたような戸惑いがすごいんですけど。

 ここは2021年の現代日本で間違いはございませんか、もしや200年ほどすっ飛ばしてはいませんかってね……。ラスベガスを思わせるド派手なコインゲームコーナーを抜け、少し奥まったところに目を向けると、うん…?

 あ れ は ! ! 

 遠い記憶の彼方にひっそりと佇んでいた、見覚えのあるフォルム!!!
 私の中に刻み込まれている、魅惑のゲーム筐体の姿が!!!!

 …フットパネルを踏むやーつ!!!

 久しぶりに見たぞ、ショッピングセンターのゲームコーナーじゃ見かけなかったから、もうとっくの昔に衰退したとばかり思っていた。なに、まだ稼働してたんだ…わりとかなり相当懐かしくて感動している自分がいるぞ。

 大昔、この手のゲームが人気だった際に、ドはまりしていた時期がですね。
 大喜びで遊びまくって、お小遣いが吹っ飛んでいた時代がですね。
 はりきってプレイして、体重をぎゅうぎゅうと絞りまくっていた奇跡がですね。

 ……うおお!!やりたい!!!

「ねえねえ、あれやりたい、やっていいっていうかやろ♡」
「なに、めっちゃ張り切ってるし!!イイよ!!」

 100円を二枚投入して、筐体のボタンを押す…っていうか、何これ、よくわかんないコマンドが山のように並んでいるぞ、きょうびフィットネスゲームには最初の設定にこうも細かく口出しができるというのか、親切そうに見えて初心者に厳しすぎやしないか、なにがなんだかさっぱりだ…しかも曲数がハンパなくて全然選べないぞ、昔は10曲くらいしかなかったのにー!!!なんだPOPSにボカロ、グぬぬ、昔踏みまくったタイトルが全然…見つからん!!

「ヤバイ!早くしないと秒数が!お母さんどれにするの、あたしわかんないから早く選んで!!」
「ああーもういいや、これで!!」

 適当に知っている楽曲を選んでプレイスタート…意外とシーケンスが早くて目玉が付いて行けない、だがしかし昔取った杵柄、なんとかくらいついて…く、クリア!!!

「わー、これ面白いね!!つぎこれにしよ!!」
「うんうん、イイねえ!」

 ワンクレジットで三曲かあ、昔は一曲のゲーセンもあったというのに、ずいぶんリーズナブルになったな…。

「ああー、これ懐かしい、昔よくやったわ!」
「見て、今から…ほら、よく見ておこう。」
「次俺たちもやろうぜ!」
「大丈夫だって!あのおばあ…前の人もやってるし、大丈夫だよ、できるできる!」

 三曲目を選んでいるあたりで、背後がやけに…げえ!!

 観客がいつの間にか・・・わんさかおるがな!!!

 ついさっきまでだれも見向きもしていなかったのに何この集客!!!
 うぐぐ、重量級が二人でステップを踏むと、辺りに騒音をまき散らして実に人々の興味を引き付けるとみえる、くそう、なんてこった。

 少々恥をかいたものの、大喜びでステップを踏み、大満足ののち帰宅し、興奮冷めやらぬまま晩御飯の準備をしていたら…のっしのっしと重量級の響きが足元から伝わってきてですね!!旦那のお帰りだー!

「お姉ちゃんから聞いたよ!!ゲーセン行ってきたんだって?ずるい!俺も行きたかったのに!!」
「まあ、次の休みに弟も併せてみんなで行けばいいじゃん…。」

 旦那はぶよぶよしているがクレーンゲームの腕は確かで、実にスマートに景品をゲットすることで名を馳せていたりする。クレーンの親玉みたいなユニック車を常日頃操っているので、この手のものは得意らしい。
 鼻高々に自慢されるのも些か腹立たしいし、でかいお菓子ばかり取って家中食べ物だらけになるのもやや不愉快というかさあ。

「DDRやったんだって?お母さんまた足踏み外すよ!!も~年なんだからやっちゃダメ!」
「踏み外してないし!!!そもそも踏み外したのは20年以上も前のたった一回じゃん!なんでいつまでも覚えてるのさ!!失敬な奴だな!!!」

 私はずいぶん前に旦那とゲーセン巡りをしていた頃、たった一度だけ、ゲーム筐体の端から足を踏み外し負傷したことがある。その時たまたま厚底サンダルを履いていたこともあって、わりとディープに足をねんざしてしまったのだな。

 普段落ち着き払って行動している私はですね、なかなかこういう失態を晒すことなくスマートに生きているのでね、旦那はたった一度の失敗を、ずーっとしつこくそれはそれは大げさにえぐってくるのである!!

 たった一度の失敗を、さもいつも出歩くたびにやらかしていたような扱いにするのはやめていただきたいわけなんですけれども!!!今は厚底なんか履かないし、年齢を重ねたこともありおっちょこちょいも鳴りを潜めてずいぶん落ち着き払って……。

「あれ!!おかあさんこれご飯炊けてないじゃん!!保温になってる!何このぬるい生米!ウケる!!」

 できあがったおでんのにおいを嗅ぎ付けた娘が、ごはんを盛ろうとジャーのふたを開けたところで、やたらテンションの高い笑い声が!

「あれー、おかしいな。ちゃんとたしかにボタンを押したはずなんだけど!」
「もー、なにやってんの!今から炊くとご飯がー!!!まあいっか!おかずだけ食べとこ!!!」
「ごはんはデザートにする。」
「あたし後でふりかけごはんにしよ!」

 ああ、繊細な私は、老いた身で若者用の体力を使うゲームなどに手…いや、足を出して、疲労困憊してしまったらしい。注意力散漫とは、実に珍しい事だ。いつもならこのようなミスはしないというのに……無理は禁物だな。

 今日はもう働くのをやめて、穏やかにごはんを食べて、愉快に酒を嗜み、静かに眠りにつこう……。風呂掃除も後片付けも全部任せて、疲れを癒さねばなるまい。

 私は、炊飯器のスイッチを入れ直して、冷蔵庫のアイスワインを取り出したのであった。


なお、次の日の朝、激しい頭痛と筋肉痛で目が覚めた模様(。>д<)


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たかさば
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