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【たから語り】Veggie de+「推し農家」をめざして

神戸学院大学現代社会学部の岡崎ゼミは「たからうたプロジェクト」に取り組んでいる。3年生ゼミでは、兵庫県豊岡市の農園Veggie de +を取材した。

Veggie de +では、小川恭弘さん・小川奈美さん夫妻が〈土にこだわり作物に寄り添ってできた誰でも食べたくなる野菜〉を作ることを目指して農業を営んでいる。

二人は野菜を育てるだけでなく、「野菜アート」の遊びやキッチンカーでの販売にも取り組んでいる。豊岡市出身の恭弘さんは、大学進学で豊岡を出たが、いったん離れてみると、自分が地元についてなにも知らないことに気づいたという。そこで改めて調べると豊岡の良さに気が付くことができた。そして、豊岡に戻って初めて自分が作った作物を「おいしい」と言ってもらえたことがきっかけで本格的に農業を本格的に始めた。

――農業をするうえで苦労したことは何ですか?

「一年間を通して収穫できるようになるまで2~3年かかりました。まず、作ることの難しさに直面しました。次に、売るという難しさに直面しました。その時々で値段に上下があって収入が安定しない。みんなの収穫が良いと安くなったりもする。知ってもらうのも難しい。良いものが作れても知ってもらえないと売れない。段階ごとにいろんな壁があったのかなと思います。」

キッチンカーでの販売など野菜作り以外のことにも取り組んでいる小川さん夫妻。しかし根本にある思いは一つだ。

「美味しいものを作りたい気持ちがやっぱりあって。そこは絶対にぶれないようにと思ってます。うまく作れても来年はもっとおいしいものをっていう感じで、つねに研究しながら、考えながらやってます。」

――なぜキッチンカー、マルシェ、収穫体験など様々なことに挑戦されているのですか?

「野菜を売るだけで生活するのが本当に難しくなってきたので、いろんな部門を作って、売り方を変えて、付加価値を付けて単価を上げていくっていうやり方をして、ちょっとでも収入を増やそうと考えたからです。市場に出る野菜には規格があって、規格外の野菜は売りにくかったり、値段が取れなかったりします。でも規格外でも食べれるものっていっぱいある。ロスをなくすためには加工品にしていくのがよいと考えて、調理・販売部門ができていってるっていう感じかな。」


――農業体験の機会も提供されていますが、やりがいは何ですか?

「この田舎でも、子育て世代が農業に携わる機会が薄れてきています。周りは農業してるんだけども、農業かかわりたいなと思ってもなかなか関われないっていう状況が増えてきて。こんな身近にある職業なのに薄れてきてると思うと、たとえ儲からなくても農業体験は続けなあかんなと思いました。絶対にそこは崩さずに。身近な人にも来てもらって、農業に触れてもらう機会を少しでも作りたいなって思いでやってます。」

農業体験を通して野菜のことを知ってもらい、農業について考える時間を増やしてほしいと恭弘さんは語る。

「農業の入り口が広がればいいかなって思ってて、美味しさもその一つだと思う。野菜アートとかもしてるんで、例えば野菜の絵を描いて楽しいとかでもいいと思う。ちょっとでもこの農家の野菜が食べたいとか、地元のものが食べたいって思ってもらえると嬉しいなと思います。そのきっかけの一つとなるような農業体験が提供できればいいなと思ってます。」

Veggie de+をここまで発展させてきた小川夫妻だが、夢は大きく、地域活性化のためのさらなる展開を目指しているという。

「農業って軸がありながらも、そこからいろんな形で発展させていきたい。まだ分からないこともいっぱいあるんだけど、可能性もいっぱいあると思うので。農業を軸にした発展形の一つとして道の駅みたいな農業の複合施設を作りたいなとも考えています。でも、地域あっての農業なので、まず地域を活性化させないといけない。建物を建てて周りの方と連係しながら地域を巻き込んだ農業をしたいなと思ってます。」

恭弘さんは野菜の値段にもこだわりを持っている。野菜の値段が変わらず、ずっと低価格のまま現状は、日本中の農家を苦しめている。この現状を当たり前のものにせず、値段を本来の適切な価格にするための努力を欠かさないことが重要だと恭弘さんは語る。

「価値観とかみんなの知識が深まってきて、『野菜ってもっと高くてもいいよね』って思ってもらえるようになってきたら、本当に嬉しいなと思います。値段どうこうより、ここの農家さんが作ったものだから買おうとか、この野菜好きだから買おうとかかっていう感じでみんなが思ってくれたらいいんだけど、やっぱり大半の人は値段だけ見て買っちゃってる。そうじゃなくて、もっと『だれが作ってる野菜か』とか『どこで作られてる野菜か』とかを考えて買ってもらうと、値段にも反映されると思う。今後もしかしたら農業する人が減って生産量減ってきたら野菜自体が珍しいものになってくるかもしれない。例えば、自分の〈推し農家〉があるとか、この農家さんいいよって言えるとこがある人はいいなと思う。みんながそうなるように、スーパーに行ったときに『どこの産地かな』くらいでいいので、ちょっと野菜について考えて、値段以外のものを見てくれたら嬉しいなと思います。」 

人をつなぐ農業

次に、私たちは妻の小川菜美さんの話を聞いた。菜美さんは結婚するまで農業の経験はなかったという。
 
「田舎で育ったんですけど、大根を一本も抜いたことはなかったです。建築の仕事がしたくて工業高校を卒業して、そのまま設計事務所と工務店で建築の仕事しかしてなかったんです。そのあと、出産があって、スイミングのコーチになって、旦那と出会って、農業を始めました。」
 
未経験の農業に対する不安はなかったのだろうか。
 
「不安はなかったです。自分が夫よりも一回り年上なので、なんか子どもみたいに思っているところがあって、『好きなことやってみたら』っていう気持ちでした。自分は自分の力で生きていく。彼は彼で自分の好きなことやってみたらどうかなって最初は思ってました。けれども、だんだん途中から農業は儲からなくてしんどいし、何回も辞めようかっていう話もしていました」
 
菜美さんに豊岡という地域の良さについて尋ねてみた。
 
「地元の良さは、どこに行っても知り合いが多くて、何か始めたいとか、そういうときにすごく協力してくれることです。色んな情報をくれたり、声をかけてくれたり。景色はもちろんですが、人とのつながりとか付き合いとかが良いなって思ってます。」
 
地元のみんなが優しいと菜美さんは語る。人のつながりや助け合いが、困難を乗り越える力となっている。とはいえ、あらゆる地域がそうであるように、すべてが良いというわけではない。「病院とかが少ないんで、何時間待ちとかになる。そこが嫌なところです(笑)」 子育て世代にとって、病院が少なく、待ち時間が長いことは苦労の種になる。では、農業と子育てを両立させるうえでは、どんな苦労があるのだろうか。
 
「多分、昔は明るくなったら仕事して、暑い昼間は休んで、また夕方になったら仕事するっていう感じだったと思うんですけど、今はずっと仕事しています。夫は朝早いんですけど、私は子どもを保育園に預けてのんびりできるし、休みたい時に休めるんで、割と自由は効くかなと思っています。」

Veggie de +は、新鮮な野菜を使った料理をキッチンカーで販売している。キッチンカーの導入には、フードロス解消などのメリットがあるが、それだけではない。
 
「SNSのフォロワーさんと、ネット上で会話するんですけど、実際に会ったことなくて、アカウントの名前とアイコンでずっと覚えてて。その人に会えた時の感動は半端ないです(笑)。なんかずっと前から知り合いだったみたいな感じで、なんかやっと出会えましたねってハグしたりとかすると、農業をやってて良かったなと感じます。」
 
Veggie de +は、インスタグラム、フェイスブック、さらにはTiktokでも情報を発信している。SNSのフォロワーとキッチンカーを通じて直接出会うことで感動が生まれる。菜美さんは、農家、料理人、他の業種の人たち、SNSフォロワーのみなさんを巻き込むことで、もっと面白いことが将来できたらいいなと語る。
Veggie de +が見据える未来には新しい農業と地域の可能性が輝いている。
 
2023年度岡崎ゼミ3年生
(辻賢人/山際飛奈太/北里優花/勝田雄心/前田朱里/白井晴菜)

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