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二日目昼~三日目午前中。ICE,ケルン大聖堂、ミュージアムなど。

爆速! ICE!



 電車はひた走る! 一番速い“ICE”というやつに乗った。300km/hくらい出るらしい。日本で言う「のぞみ」だろうが、気になったのはこの“ICE”にせよ、もう一段遅い(車両の性能ではなく、ダイヤ上での区別。日本で言う「こだま」)“IC”にせよ、日本の新幹線とは違って特別な線路幅ではないということだ。昔イタリアでも同じようなやつ(トレニタリア・フレッチャロッサ)に乗ったが、それも同様だ(調べると1435ミリのいわゆる「標準軌」だった)。おそらく、世界標準で見れば日本の在来線が狭軌なのであって、同じ国で線路の幅が異なる日本の方が特殊事情なのだろう。けれども、高速鉄道といえば在来線と違って覆い付きの高架の上を走るものだと思い込んでいる日本人からすれば、普通のまっさらな地べたの上を300キロで爆走されると、ちょっと驚きである。

爆速!


メカ好きドイツ人の性故か、現在時速が表示される笑

 ICEには指定席と自由席の区別はなく、誰かが予約した席から予約されて埋まっていく。乗車券しか持っていない人は、予約されていない席か、予約席でも区間外で空いている席に座ることができる(席の近くに、“この席は〇〇駅から〇〇駅まで予約されていますよ”という表示が出るのだ)。
俺は万が一座れなかったら嫌なので、先に日本で席を予約していた(追加料金がちょっとかかる)。ちなみに俺の隣席は途中から予約になっており、果たして途中から身軽な感じの老婦人が座ってこられた。窓際に座られるのだなと思って席を立ったら、ころころと笑いながら「いやお前の席が窓際だよ」と言われちゃった。間違えていたぜ。でへへ。

 老婦人は優しく俺の間違いを指摘してくれた時もドイツ語だったので、ドイツ語しかお話しにならないのかなと思っていたら、バリバリ英語の本を読んでおられた。分厚い歴史の本のようだった(バルカン戦争についての章だった。盗み見失礼)。
 そういえば、日本の電車で隣に座った婆ちゃんが歴史の本を読んでいたことはない。ドイツでは婆ちゃんの歴史好き割合が高いのか、ドイツでもレアな歴史好き婆ちゃんと偶々席を同じくすることになったのかは、分からない。
 40分ほど後の駅で婆ちゃんはICEを降りた。ハイキング用かとも思われる実用的なリュックに手早く荷物をまとめられ、軽く「チュース」(じゃあね)と挨拶し、きびきびとした動作で電車を降りて行かれた。今回の旅行では様々な人に会ったが、殆ど会話を交わさなかった人の中では、かなり印象に残っている素敵な人である。

それから程なくして最終目的地へ。

ケルン!

ケルンだ!

 歴史好きの俺としては、ドイツ史上特別な位置を占めるこの街には寄っておきたかった。高校世界史では、神聖ローマ帝国皇帝を選ぶ権利を持ついわゆる“選帝侯”の一つとして、ここの大司教が登場する。だが、俺にとって「ケルン」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、歴史書でも教科書でもない。槙野半端ないさんが所属していたケルンFCでもない。青池保子先生の漫画『修道士ファルコ』なのだ。
 ドイツ漫画と欧州史漫画において何の心配も要らない名手である先生が手掛けた“ドイツの歴史漫画”(つまり最強)であるところのこの小品(白泉社文庫一冊分)を、他の多くの名作と共に母親の本棚で発見したガキの頃の俺は、繰り返し穴が開くほど読んだ。中世、ケルン近くの僧院で、信仰に生きる元騎士の修道僧とその仲間たちをテーマにした作で、歴史ものではなくコメディタッチの時代活劇なのだが、ドイツの寒さ・「シト―修道会」という言葉・カトリック修道院の雰囲気・都市ケルンの活気といったものの強い印象を俺に残している。
 また今改めてケルンの歴史を調べてみると、アルベルトゥス・マグヌスやトマス・アクィナス、ドンス・スコトゥス、果てはマイスター・エックハルトといった中世哲学史のヒーローたちがこの街で学んだり教鞭を取ったりしているということが目についた。俺は大学院で哲学を学んだけれども中世哲学は専門ではないから、彼らの哲学については教科書的な理解すらおぼつかないけれども、この名簿を見るだけでも、中世末ヨーロッパにおけるこの街の重要性は推察することができる。しかも、彼らの一人としてケルン出身ではなく、ヨーロッパ各地からはるばるこの街にやってきたということを無視すべきではない。哲学者でさえそうなのだから、いわんや他の学問や経済・文化においておや。あらゆる意味においてヨーロッパ大陸の中心であったわけだ。

ICEはケルン中央駅ではなく、その隣のケルン・メッセ/ドイツ駅で乗客を吐き出した。中央駅の混雑緩和のために設けられた駅で、市の中心街とはライン川を挟んで対岸にある。トラムでも行けるが、歩きで川を渡ることにした。

ライン川。橋(歩いて渡るにはそこそこ長い)


面白い形のビルが遠くに見える

 凄い! 今俺はライン川を渡っている! その高揚感が、どんよりした天気にも、引きずるガラガラの重さにも負けずに心を浮き立たせた。古来ローマ帝国の国境として機能し、今日までフランク人(フランス)とゲルマン人(ドイツ)の境となり、数えきれないほどにわたり争われ、歴史の舞台となってきた川だ。
うひょー。ぼんやりした顔で傘をさしているそこの兄さん! 次はどのスポットを巡ろうかな、じゃないのよ! 「ここにいる」ことにもっとバイブス上げて行こうぜ!?!?

 というハイテンションも、実はそれほど長続きしない質である(歴史好きだが歴史スポット好きでは然程ない)。クソ広の川の真ん中くらいまで歩いた頃には、「やっと半分だ~、これでようやく上り坂終わり……。あ、UberEatsみたいな人発見。ケルンにもいるのね……」くらいに。

 そして、川を渡るころからずっとヤツが見えている。デ、デカい。盛期ゴシック様式の傑作で、完成に数百年かかったという、ケルン大聖堂だ。


そそびえたつ大聖堂。対岸からも目立ちすぎ。

 早く訪れたいが、はやる気持ちを押さえてまずは宿へ。繁華街にほど近い宿で、受付のお兄さんも非常に親切だった。Wi-fiも強くて嬉しい笑。

この旅で一番良き宿であったと思う。50ユーロ程度とちょっとお高め(安い宿が無かったのだ……)
なぜか、カードキーなのに、明け方に別室のおばちゃんが「ガチャリ!」と俺の部屋の扉を開け、”Oops, Sorry!”といわれる、というハプニングはあったが笑

荷物を置いて、いざ大聖堂へ!


デカい! 説明不要!


これがゴシック様式の特徴の一つ、交差リブヴォールトだ!


有名なステンドグラスも見事。


可愛いヤツら笑。視線の先には磔刑像があった。

 いやー物凄い。Twitterでも言ったが、人間があれほど高い位置に天井を置けるとは。フィレンツェのドゥオモも感激したけれども、あちらは意外と内装がシンプルなことに驚いたのを覚えている。ローマ・ヴァチカンの絢爛な聖堂群を見た後だったこともあるが、そのシンプルな、それでいて配色の行き届いた設計に、メディチ家の質実剛健さとセンスの良さを感じた。一方、こちらはやはり圧倒的な高さ。有名な尖塔は中から登れるタワーでなく、完全に外観重視の設計だ。中に入ってもこの天井の高さと壮麗なステンドグラス。トマス・アクィナスの精緻な哲学がこのゴシック建築によく喩えられるが、山内志朗先生がご著書で、むしろガンのヘンリクスの哲学こそそれにふさわしい、と書かれていたのをふと思い出した。俺はその違いは全然詳しくないんだけれども。

 ともかくも、ドゥオモだってゴシック様式っちゃゴシック様式なんだけれども、ゴシックというのは何と言ってもやはりフランス以北の北ヨーロッパにおいて主要な様式であり、イタリアでは(バランスの取れない野蛮な様式だと見なされたこともあるらしいが)ゴシック色がさほど強くない。僕が生で初めて見たゴシック建築が、この大聖堂だったわけで、それは衝撃的だった。

何より、無料だしね!! (流石にちょっとお布施しました笑)

コロンバミュージアム

その後、まだ時間があったので、「コロンバミュージアム」へ。

 ここも凄かった!! 何しろケルンだし、他にも(ホーエンシュタウフェン朝時代のケルン・アーヘンの遺物がじゃんじゃかある博物館とか)目玉は沢山あるのだが、ちょっと歴史・遺物モノの展示に食傷気味になっていたので、少し別枠で行こうと思ったのだが。

 非常に面白い建築で、ローマ時代の遺跡の上に博物館を建て、1F(当然ヨーロッパ式なのでドイツではグラウンド・フロアと呼ばれるが)は丸々遺跡が残っている。あまり写真を撮らなかったのが残念だが、この遺跡は空調が無く、めちゃめちゃ寒かった。例によって、博物館ゆえ上着も預けているので、寒い。寒いせいか誰もいない。ぶるぶる。流石に戻ろうかと思って重い扉を推そうとしたら、閉まっている!? 「と、閉じ込められたのか!?\(◎o◎)/!」と慌てた一幕があった(めちゃめちゃ力を込めないと開かないようになっていた。流石ドイツ)

 しかし、ここでそれ以上に感涙したのは、その展示方法。それこそ、ケルン華やかなりし頃の中世の遺物と、最先端の現代アートが、同じ部屋に展示されていたりするのだ。ここを監修しているキュレーターさんには、本当にあっぱれと言いたい。しかも、一切の展示物に余計なキャプションを付けず、入館者には分厚いリーフレットを渡して、気に入った展示の前で適宜読んでもらうという配慮。フランクフルトの博物館でも感じたが、ここはやはり芸術を大切にしている国であると同時に、日々自由な発想でもって芸術の”見せ方”を工夫している国でもあるのだ。


一番良いと思った展示室。コンクリの壁に最小限の展示(それも中世の遺物と現代アート・マティス風絵画のリミックス)。自然採光もグッド。なんだかすごく気に入ってしまって、四回もこの部屋を訪れてしまい、スタッフのお姉さんに「あなたここが気に入ったのね」と言われてしまった笑。


博物館を出てからは、夕方のケルンを散策。


謎の(ケルンの?)キャラ。 いっぱいいた。


石畳がオシャレ


ライン川を望む。

 繁華街も楽しかった。H&Mみたいなお店から、ハイブランドのお店までが軒を連ね、ちょっと河原町通っぽい。ライン川も鴨川っぽい雰囲気だったし。どこか京都に似た街だと感じた。京都も、ケルンも、時代に合わせて支配者を変えながらも、町衆(独立自営業者)の力が強く、民衆の力で自治を行ってきた街だという所が共通していると思う。宗教・神学・哲学の拠点であった所も。
京都に慣れ切った僕には、居心地のいい街だった。

夜ご飯は節制して、近所のスーパーでお総菜を買い、お部屋で食べた……。


翌朝


 起きたぜ! 今日のICは結構早い。チェックインを爆急ぎする必要は無いが、博物館などに寄っている暇はない。




ホテル前。お洒落なビルが並ぶ


大聖堂の目の前、ケルン中央駅から出発です


朝ごはんのサーモンベーグル! うまうま。


今回はICEではなく、IC。車両もちょっと古い笑



大聖堂に別れを告げ、いざ次の街へ。

ケルン、もう二泊くらいしても全然よかったな。また行こう。






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