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相性を司るもの #夜更けのおつまみ
たまに相性について考える時がある。
大抵そんなことを考える時は、酒場を数軒はしごした帰り道の電車の中で、酔いの回った頭でその夜を振り返りながら「あぁ、あの人とはまた飲みたいな」と思うのだ。
特段話が面白かった訳でもない。共通の趣味があった訳でもない。大体その人とどんな話をしていたかも思い出せない時もあるし(大抵酔っているのだ)、何をしている人かもわからない時もある。そもそも名前すら思い出せないことだってある。
だから後日ランチやお茶に誘って話をしたいかと言えばそうでもない。ただただ、もう一度飲み屋で酒を飲み交わしたいと思いを馳せることになる。
不思議なものだ。しかしながらそうゆう人はたしかにいて、「相性がいい」という言葉でしかその人を形容できないのだ。
僕ももう大人の作法はそれなりにできる年齢になった。酒が入れば陽気に振る舞えるし、話もちゃんと聞ける。宴が終わる頃には誰とでも笑顔で別れることができるし、「楽しかった」と思いながら帰途につくことだってできる。
それでも、そういった「楽しさ」とは関係なく、どうしようもなく相性の良さを感じてしまう人がいる。
さてそれはどんな人なのか。記憶の霧に覆われた数々の宴を、シラフである今なら思い出し共通項を見つけることができるかもしれない。
しばしコーヒーを飲みながら考えてみる。
◎
とはいえ簡単なことではない。「また会いたい人」たちを並べると、あまりにも性格や人格の違う人だらけなのだ。
しかしコーヒーを飲み終える頃になって、ようやくたったひとつだけ共通点を見つけることができた。
それは「お酒や食事が供されたら、まずは目の前の食事に興味を向け味わえる人」である。
ひとつの宴を例にとってみる。
先日飲みに行った友人は、2軒のはしごの後、終電間際の夜更けの時間になって、「締めのカレーが絶品なんだよ」と言って僕をバーに連れていった。
ウイスキーのロックをちびちびと飲みながら食べたそのカレーは、スパイスが程よく効き、酔いが回ってパンパンに張った頭を少しほぐしてくれるようだった。何よりとても美味い。僕は二口目から完全にこのカレーの虜になり、しばらく言葉も出さずに黙々と味わっていた。
気付けば目の前の友人も同じようにして、額に汗を浮かべ「うまい」と小さくこぼしながらカレーと向き合っていた。
そういう瞬間はとても心地がいい。初めて行った場所であろうと、その人と会って数時間であろうと、ホッと安心するのだ。
その理由については、こじつければいろいろとひねり出せると思う。ただここではあまり意味がないように思うからこれ以上は深掘りしない。「目の前の食事に向き合う人」が僕にとって相性がいいということがわかればそれで十分ではないか。
◎
そろそろ一年の中で最も慌ただしい季節を迎える。それでも「よいお年を」と声を掛け合って互いの幸せを小さく祈るような気持ちで宴を終えることができるいい季節でもある。
夜更けの時間にはどんなおつまみと向き合うのだろう。どんなおつまみであれ、その時は、しばしおつまみと向き合い、互いに「美味しいね」と言い合っては1年を締めくくりたい。
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