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文化を認識する四つのアプローチ:『制度と文化 組織を動かす見えない力』(佐藤郁哉・山田真茂留著)を読んで。

一読しても興味がわかなかったのに、読み返すと面白く読める本があります。というか、そうした「本がある」というのではなく、読み手の興味・関心によって本に読み取る意味合いが変わるということなのでしょう。構築主義的な考え方が少しは身についたから本書を面白く読めたということもあるのかなと。

本書では、組織および組織を取り巻く文化へのアプローチとして、①企業文化論、②組織文化論、③組織アイデンティティ論、④新制度派組織理論という四つの類型に基づいて説明がなされます。それぞれの理論が出てきた背景や相違を中心に見ていきます。

①企業文化論

企業の独自な文化が社員全体に統一的に浸透させることで企業組織の強みを創り出すと提示するものです。ピーターズとウォーターマンによる『エクセレント・カンパニー』の立論を想起すればわかりやすいでしょう。

組織が文化を用いて社員を管理しようという強い文化の考え方を取ります。そのため、組織における人々の多様性に対する視点が弱まるという副作用が生じます。

②組織文化論

企業文化論が企業の中で画一的な文化の落とし込みが求められたのに対して、組織文化論では企業の内部における多様な文化(下位文化)の存在を前提とします。文化の統合・分化・分裂といった動的なプロセスに焦点が当たっていると言えそうです。

この視点からの発展として組織シンボリズム論と新制度派組織理論へと進展しています。社員側から組織側へのアプローチである前者については本書のスコープではないので、以前まとめた坂下先生の論文レビューをご参照ください。後者については④で見ていきます。

③組織アイデンティティ論

①②が次元のレベル感の差はありながらも価値観があってそれを社員が受け入れるというアプローチでした。それに対して、組織アイデンティティ論では、共同体がまず存在し、その共同体の成員が価値を共有するという真逆のベクトルを取ります。

文化が多様であったとしても、「私たち」という成員性を共有している限りにおいて、「私たちの会社」という組織レベルのアイデンティティを共有し、まとまりを形成して組織行動を取れる、という考え方です。

④新制度派組織理論

①〜③が企業(組織)内部の文化に焦点を当てているのに対して、新制度派組織理論は組織を取り巻く文化的・制度的環境の影響に焦点を当てています。企業が異なっても組織形態が似ていたり、特定の戦略や慣行が流行現象として生まれることに着目をして提示された理論です。

ISOの導入を進め、SDGsをKPIとして設定するなど、新制度派組織理論の要諦を「組織は流行に従う」(206頁)という言葉で端的に示しています。この考え方を突き詰めると、ともすると組織における独自性はおろか、そこで働く社員の独自性もないものかのように見做す傾向も新制度派組織理論は有していそうです。

それぞれの類型が見ようとしている領域と見方に自覚的になって、理論を道具として使っていくことが最後の章で提示されています。こうした抑制的な態度で、道具に自覚的になって取り組むのが良さそうですね。


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