変化の時代を生きるための動的プロセス型キャリア開発論入門(1)
『「働く居場所」の作り方』(花田光世著)を基にキャリア開発論について扱います。著者は、私の学士・修士時代の恩師であり、慶應キャリアリソースラボで働いていた際には「上司」に当たる方です。今でも定期的に近況報告し、キャリアチェンジの際には相談にも乗っていただいています。
恩師の書籍を扱うのは独特な緊張感がありまして、2019年9月20日に行ったLearning Barでのセッションでも柄にもなく緊張してしまいました(笑)。このブログでは、セッションの内容を本書の章ごとに編集しています。
先生はプロローグでポイントを10個にまとめて書かれています。あの先生が、導入から結論を書かれるなんて、まあ珍しい(笑)。きっと編集者のご意向もあったのではと邪推してしまいます。しかしながら、不肖の弟子が生意気を申せば、このポイントがなんと分かりづらいこと。それぞれワンセンテンスにして「一つ目は第1章、二つ目は第二章でそれぞれ解説します」というような「分かりやすい」構成にはなっていません。
先生の理論を学んできた身としては内容を理解できるのですが、初読の方々には難しいでしょう。というわけで、花田研関連のみなさまからお叱りを受けそうですが、東京から遠く離れた京都の地から、私なりの要約を五文でまとめたのがこちらです。
二つに分けて説明します。上の二つが先生のキャリア理論の前提で、それを受けた下の三つがキャリアをすすめる上での態度・行動です。
前提(1)社会の変化
(1)は社会の変化とそれに伴う職務およびその環境要因の変化を述べています。言い古された言い方になりますが、社会の変化は予測不可能であり、その速度は上がる一方です。それに伴って、職業自体が変化しますし、当然、職務に求められる要件も変化します。
前提(2)個人の変化
他方で個人はどうでしょうか。(2)では、まず個人の価値観は多様であるとしています。私たちは、自分自身の価値観を唯一無二の元に絞り込むよう強制されることがあります。しかし、多様な他者との多様な関係性と対応して自分自身の価値観は多様に存在するものと言えそうです。
さらに、ある時点での価値観は固定的なものではありません。逆境の中で新たな行動を少しチャレンジしてみる、あまり興味がなかったものにトライしてみる、といった行動の結果として、気づいていなかった自分の新たな価値観が開発される、ということはあります。
前提(3)遠い将来からの逆算はできない
ここまでで述べてきた社会の変化と個人の変化を合わせて考えてみましょう。すると、長期的な将来を所与として逆算式(リバース・エンジニアリング)で今以降のアクションプランを合理的に考えることの不可能性に気づけるのではないでしょうか。なぜなら、自分も仕事も組織も社会も予測できない変化をするのですから。
こうした前提に立ち、先生は、私たち普通のビジネスパーソンがキャリアをすすめる上で役に立つ考え方や行動様式を三つ述べています。
ポイント(1)オープンマインド
頑なにならず他者に対して開くこと、そしてその「他者」も多様であること。とりわけ、社会ネットワーク理論の領域でスタンフォード大のグラノヴェッターが1970年代に述べた弱い紐帯(weak ties)の概念も示唆的でしょう。
ともすると私たちは、親しい知人・友人や家族といった「強い紐帯」との関係性ばかりを重視しますが、そうした方々は、現在の私が変わることの抵抗勢力ともなりかねません。したがって、弱い紐帯も含めた多様な関係性を耕しておき、そうした人々からの多様なフィードバックに自分自身を開いておくことが大事になるわけです。
ポイント(2)アンラーニング
私たちは現在保有する知識・スキルを大事にします。なぜなら、努力と苦労を重ねてようやく手に入れたものなのですから。ましてやそれを捨てるとは何事かという感覚を持つことは自然でしょう。
しかしアンラーニングを「学習棄却」とするのは、誤訳とは言わないまでもミスリードでしょう。そのイメージとしては、得られたものを一旦脇に置き、未開発の知識やスキルにチャレンジしてみるという感覚がよろしいかと思います。
ポイント(3)ストレッチング
先ほど長期的な将来からの逆算が機能しなくなったことを述べました。しかし先生は、キャリアをすすめるアプローチとして逆算自体を否定するわけではありません。ここは大事なポイントです。
ストレッチングのポイントの一つは、短期的な将来からの逆算にコミットすることです。たとえば、目の前の仕事の中で工夫をしてみる、未開拓のネットワーク構築にエネルギーを注いでみること。こういったアプローチによって、自分自身の価値観や職務の役割を開発することが、将来におけるチャンスを呼び込むことに繋がると考えられます。
あとがき
これでも分かりづらいですか?それは本書の著者が悪いのでしょう、なんてね(笑)。冗談はこれくらいにして、次週以降は一章ずつじっくりと見ていきましょう。
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