良質な教科書=先行研究の宝庫:『はじめての経営組織論』(高尾義明著)を読んで。
ある現象を探求する上で、論文を読み込むことは大事ですが、ともすると、視野が狭くなってしまいます。そこで、本書のような良質な教科書はほんとうにありがたい存在となります。自身の取り組む現象の隣接領域や広い領域の中での位置付けがわかるからです。また、先行する論文を羅列するのではなく、どのように整理するかの示唆も得られます。
本書は、経営組織におけるダイナミズムを初学者がわかるように噛み砕いて丁寧に説明がなされています。組織を取り巻く事象に興味・関心がある方にオススメの一冊です。
組織文化の位置付け
教科書を読む際には、何がどこに置かれているかに着目すると興味深い気づきがあるのではないでしょうか。私はいま組織文化に関心があるので、そこに至るプロセスに着目して読みました。
著者は、第5章で役割の意味づけとしての組織構造を説明し、続く第6章の前半で人と人との関連づけとしての社会的ネットワークに触れた後に、組織文化を論じています。組織構造からの流れは、先日の坂下(2006)のレビューで触れた通り、役割の体系から意味の体系へという位置付けでしょう。
個人的に面白いのはその間にある社会的ネットワークです。これは、2000年代以降のキャリア理論でも扱われる弱い紐帯・強い紐帯をはじめとした理論です。坂下(2006)以降のネットワーク理論の流れを踏まえて組織文化論へと橋渡しが為されています。こうした関連性を理解できるのが、良質な教科書を読む効用の一つです。
組織文化のもたらす効果
では組織文化が組織に対してもたらす効果とはなんでしょうか。本書では123頁で端的に三つの点を指摘しています。
(1)組織内での意思決定のばらつきが減る
(2)不確実な状況で迅速な調整が可能になる
(3)自律性が高まることで仕事に対する貢献意欲の向上に寄与する
もちろん、非連続的な変化が求められる状況においては強い組織文化が組織に対して逆機能的に作用するという側面もあります。本書では「長期的適応の足枷」という表現が為されており、古くはDECの事例等を想起すれば良いでしょう。
組織文化から組織社会化へ
組織文化が何に影響を与えるのかと考えるときに、私が興味があるのは組織社会化です。組織社会化は、職業的社会化、文化的社会化、役割的社会化という三つの下位次元に分けられることは本書でも指摘されています。
この中の文化的社会化に組織文化が影響を与えます。中途入社のケースで言えば、ある社員が新しく職場に入り、その職場における文化をどのように受け容れるのかということです。多様な経験を持ち、高いスキルを有していても、組織文化を受け容れられないと活躍できません。
他方、組織側の立場に立てば、新しい社員が早く適切に社会化する支援をしないと採用およびその後のOJTに掛かるコストが無駄になります。「お手並み拝見」状態で傍観するのではなく、文化的社会化をいかに促すかが、転職者本人にとっても受け容れる職場にとっても喫緊の課題となるのです。
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