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変化の時代を生きるための動的プロセス型キャリア開発論入門(6)

花田先生のキャリア理論の意訳的解説のシリーズは今回でおしまいです。最後に取り上げるのは『「働く居場所」の作り方』の第5章「自然に、多様に、今を生きる」です。

本書の章ごとのタイトルは抑制的なものが多い印象ですが、本章だけは先生がこだわってつけたのではないかと思える、花田ワールド全開なもので、個人的には気に入ってます。働く個人に寄り添う、先生らしい言葉遣いです。

「自然に」「今を生きる」という言葉に対応してまず先生が述べているのは、自己効力感(セルフエフィカシー)と対比した自己肯定感(セルフエスティーム)の重要性です。

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対比的に捉えているために自己効力感を高めることが有効ではないと誤解される方もいらっしゃると思いますが、そうではありません。自己効力感と自己肯定感には高い相関関係があることも十分に予測されます。

他方で、相関はあれども相互に独立している関係でもあるというのが先生は述べておられます。端的に言えば、自己効力感を伴わなくても自己肯定感を高めることは可能であるという主張となります。

外部の価値基準が静的で、将来の予測可能性が高い環境であれば、将来からの逆演算方式で合理的な行動を取り続けることができれば自己効力感を高める結果になりやすいでしょう。日本における大学受験をイメージしていただければわかりやすいかと思います。

しかしながら、これまでの章でも繰り返し提示されてきた通り、価値基準が常に変化し将来の予測可能性が低い環境においては、逆演算方式で合理的な最適解を導き出してもすぐに変化してしまいます。そうした状況下では、自己効力感に委ねることは一時的には有効ですが、長期的には自己肯定感を持つ方が健康的と言えそうです。

ではどのように自己肯定感を高めるのでしょうか。その際のヒントとなるのが、章タイトルの二つめの要素である「多様に」であり、具体的には自分自身の内側にある多様性です。

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老子を嚆矢とする「自ずから然り」としての自然の重要性を、先生はキャリア論において援用されています。その上で、私たち自身の自然な状態として、顕在化されていない内なる多様性までを対象として拡げ、開発の可能性やその可能性を高めていくコミットメントを重視しているのです。

さらには、「明らかに極める」という仏教用語としてのあきらめるという言葉を付け加えています。重度の障がいを持たれる方々への支援を若い自分から継続してこられた先生がこの言葉を使うことの意味合いは重たいものがあります。

私自身は、恥ずかしながらそうした経験がないためにどこまで先生がおっしゃりたい含意を理解できているかわかりませんが、「自分の限界を極め、知り、受け入れ、そこからどうすれば、その部分を補完できるかを真剣に考えること」(137頁)の重要性を意識したいものです。

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多様性とは内なるものだけではなく顕在化した多様性という意味合いもあります。むしろ、一般的には後者の方が広く膾炙しているとも言えそうです。内・外を包含したダイバーシティ開発の進化のプロセスをまとめたものが上図です。

個々人の持つ内なる多様性が開発され、そうした個々人が相互交渉を行うことによって組織としても多様な考え・意識・行動傾向を持つしなやかさを持つことがダイバーシティ開発という考え方です。外的な属性に基づく多様性を担保しようとする、多くの日本企業の取り組みに対する警句とも捉えられ、襟が正される想いもします。

第6章以降は、第5章までの論旨をキャリア理論として説明されていて重複する箇所が多いので割愛します。しかしながら、キャリア理論を位置付けた以下の内容は、これまでとの重複はあれども重要と言えるので総まとめとして提示しておきます。

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従来の外的キャリアと内的キャリアと対比して、ダイナミックプロセス型キャリアを位置付けています。

外的キャリアとは、履歴、職歴、スキル、報酬、責任の大きさ、部下の数など客観的なものでありアップ・ダウンが生じるものです。現代においてもその有効性は否定できませんが、将来の予測可能性が高い社会においてはこのキャリア観だけでは個人としての対応は厳しいことはこれまで見てきました。

その後、外的キャリアに対するカウンター理論として、内的キャリアが重視されるようになってきました。この考え方は、個人の主観性を大事にしており、仕事への向き合い方、仕事から何を獲得し学んだかといった要素が重視されます。しかし内的キャリアを重視しすぎると、今の時点における内的な価値観と現状の職務とをマッチングさせ、それに満足してしまい、その後の主体的な変化の創り出しを阻害する懸念があります。

こうして、外的・内的キャリアの重要性を含みながら、変化する環境と変化する内なる可能性を所与として、ダイナミックな対応でプロセスにコミットするダイナミックプロセス型キャリアという考え方が生まれました。端的に言えば、日常の職務の中で自分自身で主体的に工夫を行し、相互支援・相互啓発で他者および自分自身の潜在的な可能性に対してオープンに対応するという考え方です。

本シリーズはこれでおしまいになりますが、いかがでしたでしょうか。難解極まる花田キャリア論をなるべくわかるように噛み砕いたつもりではありますが、私自身が先生のお考えと近すぎるのでどこまで初学者の方にとってわかりやすいかはいささか心配です。本ブログにおける文責はすべて私自身にあるので謹んでわからなさへの責任は甘受いたします。最後まで読み通してくださったみなさまに感謝します。


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