あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第5章:大学生のリーダーシップ開発〜
今回は、舘野泰一先生が執筆された第5章:大学生のリーダーシップ開発を扱います。
目次
(1)なぜ大学生のリーダーシップ開発が必要なのか
(2)リーダーシップ開発の三つのポイント
(3)大学におけるリーダーシップ開発
(4)大学での取り組みが企業に与える示唆
(1)なぜ大学生のリーダーシップ開発が必要なのか
変化が激しいビジネス環境においては、一人のトップによるリーダーシップの発揮だけでは限界があります。むしろ、様々なところで人々を巻き込むユビキタス・リーダーシップとでも形容するようなリーダーシップが求められます。
そのため、近年の企業におけるリーダーシップ開発では、①リーダーシップ開発を行う時期の早期化と②リーダーシップが必要となる層の拡大という二点の傾向が見られると舘野先生は指摘します。実際、早期に人財を発掘して集中的に開発と抜擢を図るファスト・トラックや、リーダーシップ・パイプラインを整備する施策も増えてきています。
この二つの傾向のうち、①の早期化は、より早い時期からのリーダーシップ開発を目指すために入社前におけるリーダーシップ開発まで繋がります。実際、第4章で見てきたように、大学生時点におけるキャリア意識や主体的な学習行動が、入社後における革新行動に影響を与えます。
また、企業の視点から大学の視点に移せば、大学におけるリーダーシップ行動は大学における学びの質を上げるためにも重要という先行研究を舘野先生は指摘しています。こうした点からも、大学における学生の主体性を高めるためのアクティブラーニングが着目され、それが企業にも輸入されつつあるという流れにも注目する必要がありそうです。
(2)リーダーシップ開発の三つのポイント
ではリーダーシップはどのように開発されるのでしょうか。舘野先生は、リーダーシップ研究がリーダーシップ開発研究に与えた影響として三つの点を指摘しています。詳細には入らず、ポイントだけ見ていきましょう。
第一に、リーダーシップは先天的な資質に拠るものではなく開発可能なものであると認識されるようになりました。だからこそ、リーダーシップを開発するということが企業でも大学でも重視されるようになったわけです。
第二に、限られた人のみに必要なものではないと見做されるようになりました。リーダーシップは、肩書きや資格によって生まれるのではなく、環境的な側面や個人の意思によって自然発生的に生まれるものと認識されるようになったのです。
第三に、個人の内面的資質に着目されるようになりました。誤解してはいけないのは、内面的資質によってリーダーシップの発揮の有無が判断されるのではありません。そうではなく、リーダーシップ行動を生み出す源泉として、個人の内面や価値観への関心が高まったということです。
(3)大学におけるリーダーシップ開発
プロジェクト型の授業におけるポイントは、①多様なフィードバックを組み込むことと、②振り返りをこまめにデザインすること、の二点と言えそうです。
こうした授業の結果として、授業前と後におけるリーダーシップ持論のアウトプットの質が変化したことが本章では挙げられています。授業の前の時点では「意見」や「アイデア」といった個人に資する内容がリーダーシップの持論として取り上げられていたのに対して、プロジェクト型の授業を受けた後においては「共有」「雰囲気」「目標」といった他者やチームへの影響を意識した内容の記述が増えたという点は示唆的です。
アクティブラーニングが流行する中で、プロジェクト型の教育が増えてきています。しかし、義務教育課程の中で「総合学習」が導入された当初のように、ただ単にお題を学生に提示してあとは学生に任せるだけでは放置になり、時間の無駄になってしまいます。そうではなく、上記のポイントをデザインし、丁寧に実装することが求められます。
(4)大学での取り組みが企業に与える示唆
こうしたアクティブラーニングは企業におけるリーダーシップ開発施策にとっても示唆的と言えるでしょう。従来のMBA的な内容のインプットや、管理職研修の焼き直しが機能する時代ではなくなったのではないでしょうか。
むしろ、対話、フィードバック、振り返り、といったアクティビティをデザインすることで、個々人の主体性を涵養し、リーダー候補人財同士の関係性の強化に繋げられると言えるでしょう。
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