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【読書メモ】2つの知のサイクルが共振する共同研究:服部泰宏著『組織行動論の考え方・使い方』[第12章]

良質な読書経験とは何でしょうか。

目から鱗が何枚も落ちるインプットの心地よさもあるでしょう。他方で、読んだ後に一歩踏み出す行動へと至るアウトプットに誘われることもあるのではないでしょうか。

本書は、両者を兼ね備えた一冊です。組織行動論の領域における各理論の歴史的な流れとそれぞれの関連性が丹念に述べられ、時間軸と空間軸の地図を持つことができます。

個人的には、常々探究したいと思っていたテーマと、実践上の課題とが繋がる感覚を持ちました。気づいた今となっては自明のことなのですが、実践と研究をつなぐという著者の強い意図と丁寧な解説は、少なくとも私を一歩の踏み出しへと促しました。先日、ある先達の方にご相談して、探究の第一歩が始まっています。

実践と研究とつなぐ行動に促されたのは、カール・ポパーの科学理論と、科学史家のトマス・クーンの主張とを組み合わせた科学的探求のサイクルの解説を読んだためでした。一部、私の理解のために加筆していますが、以下のモデルをご覧ください。

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このサイクルは問題の発見(Problem1)から始まります。面白いのは、「科学的探求のサイクル」と呼ばれながら、問題は必ずしも科学的に発見されるとは限りません。ポパーも科学のスタート地点にある非科学的な要因を重要視していると言われます。

問題を解決するために暫定的な理論(Tentative Theory)設定(A1)し、この仮説は検証(A2)を経ることになります。検証されて得られるものは既存の理論・概念・測定ツールにより経験的世界が写像(Research)です。

その後、確認(A3)によって誤りが排除(Error Elimination)され、修正/却下(A4)されることでより練磨された新たな問題(Problem2)が見出されます。この一連の流れが、反証可能性に開かれた科学アプローチです。

興味深いのはTentative TheoryからProblem1/Problem2への矢印です。これは、社会的な課題意識が、私たちが発見する課題を生み出すという理論負荷性(A0)と呼ばれるものです。社会的意識が問題を生み出すという発想は、クーンのパラダイム理論を思い浮かべればわかりやすいでしょう。

服部先生の議論が面白いのは、この科学的探求サイクルから研究者と実践者との共同調査へと議論を進め、両者がお互いに科学的探求サイクルを回しResearchが媒介になるとしています。つまり、共同調査の場面はResearchの現場ですが、その背景にある仮説と問題意識とを共有しなければ、同床異夢になってしまうということではないでしょうか。

反対に言えば、仮説と問題意識が共有できている共同調査はパワフルなものになります。研究者と実践者とは同じ事象でも見出すものが異なるものなのでしょう。違いを悪とするのではなく、課題意識を隠すのでもなく、お互いに対話して理解することで、自分たちが思っていなかった価値を見出すことが共同調査の意義なのではないでしょうか。

一個人として研究と実践をつなぎたくなると共に、それを自分だけに閉じず、先達の科学的探求プロセスとつなぐオープンな社会的意義のある学びへと一歩を踏み出したくなる。このような清々しい読後感を得られる素敵な書でした。


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