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歳をとるということをどう考えるか

こんにちは、産婦人科医の高尾美穂です。

今日もいただいたご質問を一つご紹介させていただこうと思います。

以前、講演会でお話しをさせていただく機会がありました。

色々なご質問をいただき、どれもお答えしたいと思うようなものばかりでしたが、そのうちの一つにお答えをするかたちで講演が終わってしまったので、残りのご質問の中で、これはというものについて、お答えをしてみたいと思います。


高尾先生は歳を取るということをどのように考えていますか?

というご質問をいただきました。

なかなか尋ねられることのない内容でしたので、今回は、年を取るということについて考えてみたいと思います。


人生のピークとは


小さな頃から現在に至るまでの間、私たちは、体が変わる思春期や成長期を経験し、運動能力や知的能力などのピークを迎えます。

これがおそらく20代、30代、40代に差し掛かる頃までで、その時期を過ぎると、緩やかに下り坂となっていきます。

そういった中で、何となく社会においても、自分は中心にはいないという風に感じ始める時期がやって来ます。

これは男性、女性に共通して言えることだと思いますが、仕事において、自分が中心にいないと感じ始めるのはおそらく50代の後半あたりからなのではないかと思います。

職種によってピークを迎える年代は異なりますが、私たち医療職なら手となり足となりバリバリ働く年代は、20代や30代がメインです。

ただ、私の年代を含めて中堅と呼ばれるような40代、50代というもの脂が乗り、いわば責任を取る世代と呼ばれるような世代になります。

そして働き方によっては、70代で外来診療などを続けられておられる先生もいらっしゃいます。

公的機関や大学病院などでなければ、定年というものが無かったりするため、ずっと働き続けることもでき、ピークと言われる時期が意外と長い職種であると思っております。

アスリートのように、20代や30代がピークで、その後は引退し、セカンドキャリアに移っていくというような職種もあると思います。

そう考えるとやはり、歳を取るということ自体が嬉しいことばかりではないということも確かです。

だからこそ、歳を取ることをどのように考えているのかというような質問が生まれたりするのだろうと思います。


年齢を重ねる良い点


一方で、歳を取ることが嬉しい場面もあるのではないでしょうか。

どんなことがあり得るかと言えば、例えば、経験や体験などです。

これらは、年齢を重ねれば重ねるほど多くなります。

つまり経験を積み重ねることで、私たちは知識や知恵、視野、ものの見方・考え方などを自分なりに広くしていくことができると思います。

また、経験を積み重ねることにより、起こることにいちいち動じなくなるなど、これも年齢を重ねる良いことではないかと思ったりします。

あとは、学校教育など成長過程では望んでいない教科についても勉強をしなくてはなりませんが、年齢重ねると、自身が望んだ学部にある程度進むことができたり、そこから先、仕事をしながら学ぶという点においては、完全に自分の学びたいことを学ぶことのできる年代です。

そう考えると、したくないことをせずに済む可能性が高くなってくるということも、歳を重ねる良いことと言えるのかもしれません。

そのほか、何かいいことがあるかと考えてみると、自分自身が社会の中でどのような人なのかということもある程度分かってくるのではないでしょうか。

自分がどのような存在なのかを想像するとき、若い頃のその見方は、社会から見る見方とは、ずれがある可能性もあると思います。

表現することが少し難しいですが、例えば、自分はできると思って育ったけれど社会に出ると上には上がいると感じたり、一方で全然できないと思って育った方が本当にできてないかといえば、そうでなかったりもする。

すなわち、経験や体験、もしくは人からの見られ方などを積み重ねることで、自分自身がどんなことができて、どんなことができないのかが段々と分かってくる。


これも歳を重ねる良いことなのではないかと思ったりします。


年齢を重ねる困ること


一方で、年齢を重ねることで困ることもたくさんあります。

まず、体がしんどくなりますよね。

これは間違いないことだと思います。

更に、見た目がだんだんと変化していくことをデメリットと感じる人も少なくないでしょう。

私自身はというと、白髪染めもしませんので、現在の黒い髪の毛と白い髪の毛が混じり合った状態が、いずれは真っ白になったらいいなと思っていますし、こういった状態すら、自然な年齢の重ね方でいいなと思っています。

目尻や口元のしわなども、ある意味貫禄として付いてきた顔の表情だと思っています。

この辺は受け取り方次第なのかもしれません。


私が考える年齢を重ねるということ


残念ながら、体の変化に抗えるわけではないので、年齢を重ねることが、何となく下り坂であるという感覚を持ち、良いことも嫌だなと思うこともあると思います。

人生はよく、登山に例えられます。

登山のゴールは、おそらく頂上にたどり着くことだと思います。

ただ、この登山に例えられる人生が、本当に頂上に行くことだけがゴールなのかと言えば、そうではなく、途中で眺める風景など全てがこの登山の醍醐味なのではないかと感じます。

年齢を重ねることで、能力がどのように変化するかを考えてみると、例えば言語力は若者よりも年齢が高い方の方が優れているというデータがあったりもします。

記憶力や認知力は、落ちていくと想像される方も多いと思いますが、加齢による記憶力の低下は個人差が大きく、高齢になってからの方が記憶力が高い人がいるというのも確かなことです。

認知能力ですら、歳を重ねることで必ず落ちていくという訳ではない。

そう考えると、歳を取ることは、楽しみの一つでもあるのではないかというのが私の答えになります。

つまり、年齢を重ねるということ、年を取るということ、それは私にとっては楽しみです。

言葉がシンプルすぎるので、この「楽しみ」という言葉をもう少し噛み砕いてみると、自分自身が不完全であることを知る、これが年齢を重ねることだと思います。

小さい頃は、無鉄砲に色々なことにチャレンジができると思います。

なぜかと言えば、失敗が怖くないからです。

しかし、私たちは年齢を重ねれば重ねるほど、色々なことにチャレンジすることが億劫になります。

そして、失敗を恐れてチャレンジをしなくなってしまう。

これは本当にもったいないと思っています。

やってみたいと思うことをどんどんやってみる、これが私のスタンスです。


足るを知る


もちろんやってみると、できないことはたくさんあります。

人の方が得意なことが山ほどあることに気づきます。

それに気付くことができる、これも年齢を重ねる楽しみの一つなのではないかと思います。

私たちは、何歳になっても不完全な存在です。

だからこそ前を向いて、自分を磨き続けることが人生の楽しみになっていくのではないかと思います。

歳を重ねるということを、皆さんはどんな風に考えておられますか。

お誕生日を迎えるということを指すのではなく、一つ一つの経験や、人との触れ合い、誰かからもらった言葉や自分の中で生まれた思い、こういったものが全て私たちの齢というものに良い影響を及ぼしてくれるだろうと思っています。

暦年齢と実年齢は大きくかけ離れている人がいておかしくないものです。

それは肉体的にも精神的にもです。

肉体的にもというのは、現代では事前にこんなことをしておくと良いということが分かってきているので、そういったものに気づき、正しく取り入れ、続けていくことによって肉体年齢ですらある程度、暦年齢よりも若く保つことができる時代です。

考え方や前向きさ、感謝の気持ち、ポジティブな感情などにより、メンタルの状態も暦年齢よりも若くいられるという考え方もできるでしょう。

そう考えると、私たちの実年齢と暦年齢はマッチしなくておかしくないものだと言えると思います。

私の場合、自身の年齢を、たまに確認しないと、知らず知らずのうちに年齢をさば読んでいたなんてこともありました。

そのぐらいの気持ちでいてもいいのかなと思いながらも、色々なことを積み重ね、それがどんどん蓄積され、自分のできないことや、自分は何で満たされているのかを知る。

これは、足るを知るという言葉にも繋がるのかもしれません。

ご自身に対しても、周りの方に対しても、いつもありがとうという気持ちを持って、素敵な歳の重ね方をしていただけたらと思います。



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