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感謝の言葉を上手く使おう
こんにちは、産婦人科医の高尾美穂です。
今日も頂いたレターをいくつかご紹介しながら考える時間を作りたいと思います。
先生は感謝についてどう感じますか?
私は50代、環境や体調の曲がり角を迎えた30代頃からでしょうか。
愚痴や悩みを両親に話す度に感謝が足りないと言われてきました。
先日、少し足を延ばして初めての場所へお花見に夫と出かけました。
それは素敵な里山の風景で、最近抱えている職場の悩みが頭から離れ、晴れ晴れとした気持ちになりました。
早速、撮った写真などを父にLINEで送りました。
返信は、◯◯は本当に幸せだね。
感謝しなさいでした。
この文面に嫌な気持ちになりました。
今日は仕事休みだよと言えば、「幸せだね、感謝しなさいです。」
日々、当たり前のように過ぎていくことに感謝することは大切だと思いますし、お風呂に入ったときなど、「ああ幸せだな、ありがとう」と心の中でつぶやいたりします。
先生は人から感謝しなさいと言われることをどう捉えますか。
ありがとうってスルーできない私に、先生のお考えをお聞かせ頂けたら幸いです。
感謝をするということについての捉え方
50代の女性がお父さんから感謝をしなさいと言われて育ってきたのかなと思います。
そして、日常生活の中でご自身がつぶやくこととして、ありがとうという言葉が自然に出てくる方という風に見てとれます。
まず、この感謝の言葉というものが、簡単に言うと自然に出てくる言葉を口にするのが普通だよねということなんです。
ですので、感謝しなさいと言われてするものでは決してないということです。
では、この方のお父さんがこのお嬢さんを育ててくる間、もしくは今50代になってもそういったお返事が来るということは、常日頃から感謝をすることは大事だと育ててきてくれたお父さんだったということになると思います。
そしてこの方は、お父さんが返信してきたLINEの文面を見て、「幸せだね、感謝しなさい」という文章に対してすごく嫌な気持ちになったと書いてあります。
しかし、そもそも50代の女性が、お父さんに桜の景色本当にに素敵だったとLINEを送るかといえば、そうでもないと思います。
私自身も父と仲が良く、LINEが来たりもします。
テレビに出演する時間を聞かれたりなど実務的な内容が結構多いです。
そんな中で、たまに母の写真を送ってきてくれることもあります。
しかし、私の方から心が動いた景色などの写真を送ることがあるかというと、まずありません。
なので、この方の家族はすごく仲がいいのではないかと思います。
綺麗な桜の写真と共に、おそらく何かしらメッセージも添えて送ったのではないかと思います。
そして、幸せだね、感謝しなさいという返事、その言葉は、お父さんにとってもうすでに口癖になっているのだろうと思います。
お父さんの書いてくれた文面を見て嫌な気持ちになったという事ですが、そもそもお父さんととても仲がいい人ですよね。
この事を、まずご自身で理解していただきたい。
その上で、お父さんが常日頃から感謝しなさいと言ってきた人だから、お風呂に入ったときに「あぁ、幸せだな、ありがとう」って思うのではないでしょうか。
私は、お風呂に入ってすごく気持ちいいなって思ったときに、幸せだなとは思いますが、ありがとうとは思わないです。
私が生活の中の1つのアクションに対して、ありがとうと思うのかと言えば、お風呂のお湯に対してありがとうと思うわけでもなく、シャンプーやリンス、ボディーソープに対してありがとうと言うわけでもありません。
そう考えると、このレターをくださった方は、私よりもっと幅広い範囲のモノやコトに対してありがとうという感謝の気持ちを抱ける人に育ったのではないかなと思います。
それが何のおかげかと考えてみると、お父さんが今までずっと感謝しなさいと言ってきたおかげだと言えたりもすると思います。
今回のレターにおいては、感謝しなさいと他人から言われることについてどう思いますかというご相談なのだと思います。
しかし、私たちが感謝をするという行動を起こすベースには、私たち自身の心が動いて、そしてその出来事などに対して、感謝の気持ちを自分が示したいという自主的な心の動きと行動なので、他人から言われてするものでは決してないわけです。
ただ、感謝しなさいと言われ続けてきたことで、感謝をするというアクションを起こしやすい人に育ってきたいうことも言えるのではないでしょうか。
ですから、お父さんが返信してくれたLINEに、ありがとうで全然良いのだと思います。
これも別に言葉のやりとりとしてそのように返せばいいのではないかと私は思っていて、すごく感謝するわけでもなかったりする。
ただ、何に感謝するのっていう話になりますよね。
まずはおそらく、一緒にずっといてくれるご主人に対してという意味合いだったり、あとは綺麗に咲いてくれている桜に対してだったり。
お休みをとって、2人でちょっと離れた里山に行けるようなご自身たちの環境など、そういった状況をすべてに感謝しなさいというお父さんの言葉なのだろうなと思います。
今までそうやって育ててきてくれたお父さんの言葉だとしたら自然ですよね。
この「感謝しなさい」は、言葉で言うと命令形になるわけですが、この命令形というようなニュアンスで育てられてきたから、感謝しやすい、感謝できる人になってきましたね、よかったですね、というまとめになるのではないかと感じます。
多くの人が自分から主体的に気持ちが動いて、感謝の言葉を伝えるというような社会の中でなっていくといいなという思いはあるわけですが、やはり色々なものに対して不平や不満などの気持ちは抱きやすいです。
今ある状況に対して感謝できる人は、そこまで多くはないのではないかなと思います。
そう考えると、感謝するという気持ちが自然に生まれることは素敵なことですよね。
お父さんが感謝しなさいと今まで言ってくださってきたことが、まさに実践の形でこの方にも染み込んでいる状況なのではないかと思います。
本当に素敵なお父さん、そしてその言葉を聞きながら、感謝の言葉を自然に口にできる人に育ってきたことは最高じゃないですか!と私は思います。
すみません→ありがとうへの変換
もう一つ、レターをご紹介させてください。
現在、私は47歳。
パートで働きながら小6になるハンディキャップのあるひとり息子と、近所に住む認知症の親を介護して日々過ごしている主婦です。
更年期世代にも入っており、時折とても疲弊してしまい、なるべく意識的に用事のない時の休息や睡眠、適度な運動など意識はしていますが、気持ちの落ち込みから抜け出せない時があります。
落ち込む要因は色々なことが重なっていると思いますが、大きな要因の一つに子供や親が周りにご迷惑をかけることも少なくなく、すみませんと謝罪を続けていることがあると最近自覚しています。
助けてくれる方々にありがとうという気持ちももちろんありますが、ルールからはみ出した行動をした時は、やはりすみませんが円滑に行くために謝罪が多い日々です。
自分自身は悪くないのに謝る日々に疲れている時に、特に落ち込みやすくなるのではと考察しています。
疲弊していなければそこまで落ち込むこともないため、自分のための時間が物理的にあまり取りにくい方へ、高尾先生の考えるリフレッシュ方法を教えていただけたら嬉しいです。
この方はご自身が疲れていなければ前向きに過ごせるので、疲れないためにリフレッシュの方法を教えてくださいという内容かと思います。
今回取り上げてみたいのは、息子さん、親御さんが、少し周囲にご迷惑な行動をとった時に、ご自身は何にも悪くないのに、謝らなくてはいけないような場面が多いというところが一つストレスになっているという状況ではないかと考えられます。
その場がうまく過ごしていけるので、ありがとうではなく、すみませんを選んでしまうという方なのだと思います。
この自分が悪くないのに、他人のために謝るというような行為。
今回はハンディキャップのある息子さんと、あとは認知症の親御さん、この状態は想像しやすいわけですが、子どもをお持ちのお母さんお父さんであれば、自分が悪いわけではないのに、子供のために頭を下げた経験があるのではないかと思います。
そして、そのような機会がその方自身のキャパや、人間性を深く、そして幅広く成長させていく一つのきっかけになっているのではないかと。
子育てをされている方というのは、私のように自分一人が過ごしていければいいという人生と違い、子供のために自分が謝るということが許容できる。
もちろんできないと社会で過ごしていくのがしんどいから、とりあえず謝るというようなケースも含めて、ちゃんと他人のために謝ることのできる、そういった大人としての成長が見られる人たちだと思っています。
そもそも子供を育てているというだけで、私からすると本当にリスペクトしているわけですが、さらにハンディキャップがあったり、あとは認知症のある親御さんということで色々なことが起こるのだろうと思います。
そんな中で、この方はもう気づいておられる通り、すみませんの代わりにありがとうのという言葉を選べば、そこまで謝っているという感覚はなくなるわけです。
なので、困っていることに対して助けてもらえたとしたら、ありがとうと感謝の言葉を伝えれば、自分自身がそんなに落ち込むことがない可能性が出てくると思います。
しかし状況的に、ありがとうよりすみませんの方が合うというのも正直なところのようですね。
すみませんと言い続けていると、気分が落ち込むということなのだろうと思います。
この方に対するアドバイスとしては、このすみませんという言葉を自分が謝っているという思いをそんなに持たずに、スタンプを押すようなイメージで、すみませんという言葉を使ったらいいのではないかなと思います。
自分がこの立場で謝罪させられているみたいなイメージを持つと、自分が悪くもないのにみたいな気持ちに繋がったりすることがあるのではないかと思います。
でもそうではなく、レターに書いてくださっている通り、この場がうまく回る言葉を選んだら、このすみませんという言葉の意味をそこまで深く考えずに使っていいのではないかなと思います。
もちろんそんな中でしてもらえたご厚意に対して、申し訳ないという気持ちと同時にありがたいという気持ちがあるのであれば、自然とありがとうの言葉が出てくるのではないかと思うのです。
こういうケースは、息子さんのハンディキャップや認知症の親御さんを周りから見ていて、明らかにこのレターをくださった方が悪いわけではないと分かっているケースがほとんどだと思います。
つまり、ルールからはみ出しているのが息子さんだったり、親御さんだったりして、それらはケガや病気のために起こっている状況だということを周りの分別ある大人が見ればわかることです。
この方がそんなに謝る気持ちを持ってないでしょうと、周りが見てて思ったとしても別にそこを責められることもないだろうと思います。
なぜかと言うと、この方が悪いわけではなく、仕方なく起こっていることなんだと周りに居合わせた人たちはきっと思うので、スタンプで押したような気持ちで伝えるすみませんという言葉を、潤滑剤として使うということでいいのではないかなと。
そして、もし選べるのであれば、全体の3割ぐらいをありがとうに置き換えていくことで、自分が悪くもないのに謝らなければならない状況になっているみたいな気持ちが少しずつ減らせるのではないかなと思います。
子どもを持たれた方であれば、育つ過程において広い社会で迷惑をかけるということはいくらでもあると思います。
電車の中で泣くなど全然あり得るわけです。泣いているお子さん、そしてどうしようもないみたいな親御さんの姿を見たこともあります。
でもそれでも、この親子の時間というものは続いていくわけで、それに対してどんなことができるのかなって、私たちは周りで見ていて思ったりするわけです。
けれども、全く見ず知らずのたまたま居合わせた他人からサポートの声をかけられる事ができれば、きっと多くの親御さんにとってありがたいことだろうと思います。
その場で自分たちがそのままでいるということを、今許容されている、OKをもらえているというような理解をすることができるのではないか。
子供が電車やバスの中で泣いてもしょうがないじゃん、そういうような考えを皆んなで持てれば、周りの人たちに受け入れてもらえているという理解につながるのではないかと思ったりします。
すみませんと頭下げるのももちろんありだとは思いますが、そこでありがとうございますという言葉となると、言われた方も気持ちよく、その感謝の気持ちを受け止めることができるのかもしれません。
ただ、今回二つ目のレターをくださったケースは、謝罪の言葉の方が社会がうまく回っていくから、そっちを選ぶという事が想像できるので、それをすべて感謝に変えてはとは思いません。
でも何割かを感謝の言葉に変えていくと、謝らなければならない状況でなく、ありがとうを伝えるというような前向きさを生むことができるのではないかと思ったりもしました。
感謝の言葉の使い方
今回は感謝の言葉をどうやって使ったらいいかというようなお話をしてみました。
せっかくこのありがとうという気持ちが生まれたときには、絶対それを言葉にした方がいいと思います。
例えば、エレベーターのボタンを押して私が乗るまで開けておいて下さってありがとうございますという言葉であれば、間違いなく伝わるわけです。
エレベーターのボタンを押しててくれた人が本当に親切な人だということを認識できているということになりますので、ありがとうという言葉の前にどんな行為に対してどんな気持ちに対してありがとうと思っているのか、ここを足してみることで、うまく世の中が回っていくのではないかと思ったりもしています。
そして、ごめんなさいを含む謝罪の言葉ですね。
すみませんという言葉においても、何に対して謝っているのか、これも実際にどの部分までが理解してもらえているのか。
謝って、いいよって言われたとしても、すべてを理解してもらえているわけではないこともあったりすると思います。
そうなった時に、またさらに面倒くさい状態が生まれてしまうので、まずは何に対してすみませんと思っているのかを、きちんと相手に伝えるということが、物事が前向きに変わる1つのきっかけになるのではないかという気持ちを持っております。
でもね、ありがとうって言われて嫌な気持ちになる人ってまずいないと思います。
だからこそ、ありがとうという言葉。
ぜひ社会の中で、上手に使っていただいたらいいんじゃないかなと思います。
すみませんやごめんなさいも、もちろん必要なときはあると思います。
けれども、それらの言葉をすべてありがとうございますに置き換えたとして、おそらく世の中でそんなに困ることは多くはないのではないかと思ったりしている次第です。
今回はお父さんが感謝しなさいと言って育ててくださった方、
そして、すみませんという言葉が生活、自分の心に重たい影を落としている可能性がある方に、ありがとうという言葉に置き換えたらどうだろうか。
そういう提案を少しさせていただけたらと思ってお話をさせていただきました。
感謝の言葉をうまく会話に挟むことで、非常に円滑にコミュニケーションが巡っていくということも確かです。
是非そんな前向きな言葉の使い方を選んでいただけたらいいのではないかななんて思っております。
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