謝ることが下手な人には問うてみる
こんにちは産婦人科医の高尾美穂です。
今回もレターを1つご紹介させてください。
私は夫と自営で働く40代の女性です。
最近あったことでご相談させてください。
職場の社員が、自身の仕事のミスに対して決定的なミスでないと謝れないタチの人です。
夫は、部下にあたるその男性に対しては、表現をするのが苦手なタイプとして、そっとしています。
すみませんなど、一言でいいのにと思いつつ、私も詰め寄りたくはないので、以前から流していました。しかし、先日も同じようなことがあり、モヤモヤとしています。 それによって、私がお客様への謝罪をする場合がほとんどなこともあります。
彼は、20年来同じ職場で働いてきて、既に形成されていると諦めています。
自分の気持ちの持ち方や、うまくごめんなさいを引き出す方法など高尾先生のお考えを聞かせていただきたいです。どうぞよろしくお願いします。
今回のご相談は、ご自身のご家族で経営されている会社で働いていただいている方に対するご相談。
しかも、もう20年も働いていただいている方が、うまく謝れないタイプの人との事。
そしてこのレターくださった方が、代わりに謝るというシーンが多いというようなお話だと思います。
この謝りベタとでも言いましょうかね、世の中にいるなということはよく私も感じます。
一方で、何でもすぐに謝ってしまうというような人がいるというのも、皆さんもたぶん感じておられる通りだと思います。
「すみません」という言葉
今回のレターでも書いてくださったように、すみませんという言葉は結構使いやすい言葉だと思います。
例えばですが、謝る時にも、すみませんという言葉を使います。
何かお願いをする時、あとは例えばスタッフの方、店員さんを呼ぶ際にも、すみませんと言いますよね。
また、すごく素敵なプレゼントをいただいた時にも、すいませんと使いませんか?
このすみませんという言葉は、すごく一般的でなおかつ汎用性が高い言葉です。
これぐらいの言葉であれば 確かにサッと出てきてもいいかなとは思います。
一方で何か決定的なミスをしてしまった時にはどうでしょうか?
私は、このすみませんという言葉があまり適さないかなというのも感じており、皆さんも感じておられる通りだと思います。
このすみませんというのは、どんな語源かということを考えてみると、
今のままでは済まされません、今のままでは済まされないよねというような意味です。
一方で、この社会の中において謝るのが上手ではない人というのは、おそらく過ごしにくいだろうなということも、なんとなく感じます。
ですから、今回のレターをくださった方と一緒に働いておられる男性も、もしかすると、ご自身なりに、社会の中で自分自身がやりにくいと感じておられると思うのです。
ただご自身の日常的によく出てくる言葉のボキャブラリーの中に、すみませんという言葉がないのだろうなということを思うのです。
そして年代も多分同じような40代。さらには20年同じ職場で働いておられるということで、きっと大きく舵を切るぐらいの変わり方は難しい人なのだろうと推察されます。
感じてもらい問いかけてみる
そんな中で出来ることは何かないかと考えてみた時に、まずこのレターくださった女性が代わりに謝るということが、おそらく多いのだと思います。
それは、ある意味経営者であるパートナーに代わって、この男性の上司の代わりというような形、 謝る立場だからなのかと思ったりするわけです。
そこで、この謝る場に、もし可能なのであれば同席していただくのはいかがでしょうか。
まずあなたの起こした事が、謝罪をしなければいけないようなシーンを生んでいるということを、何度も繰り返し知っていただくというのが、1つ選択肢としてはアリなのかなと。
その際にどれだけ丁寧に謝って、お客様に理解をしてもらっているかということを、まずは一緒に働く仲間として知ってもらうのが必要かなと思います。
そして、もう1つは上司にあたるパートナーのご主人ですよね。
今回のことが起こってしまったときに、普通だったらごめんなさい、すみません、申し訳ないと言ってもおかしくないようなシーンだと思います。
それを言わないという状況について、どう考えているかを聞いてみていただいたらどうかと思います。
多分悪いなと感じていると思います。 だから、20年も同じ所で、働き続けられてきている。
つまり、ものすごく大きな事が起こっているのであれば、きっと同じ所で働き続けてもらえていないと思います。
だから、致命的なミスの時は謝るのだけれども、そうではないときはなかなか謝らないというような表現になっているのだと思います。
致命的ではない時でいいです。
今この状況に対して何を思ってますか?
どう考えてますか?
このような上司の立場から、部下への問いかけの形で、怒るとかではなくて、聞いてみるのはどうかなと思います。
それを聞いてみていただくことによって、きっとその謝罪の言葉というのが、謝れないという男性の頭に浮かんでいると思うのです。
でもその言葉が出てこない中で、どんな言葉が自分の今の思いにふさわしいかということを聞いてみると良いかなと思います。
繰り返しと環境づくり
くどいかもしれませんが、それを繰り返していく事が大切です。
悪かったなと思っているという表現を、できるだけ口に出しやすいような環境をつくる。
つまり、すごく追い詰めたような状況ではなく、その言葉が言えるような環境をつくってみる。
すいませんという言葉が口癖になっている人は、その謝罪自体も軽いものである可能性が高いんですよね。
もちろん、すみませんが口癖の人は、社会でうまく渡っていきやすいように、ある意味口癖が身についた人ということも言えると思います。
しかし、すみませんが口癖になってしまうくらい、おそらく色々な所で、自分が少し心がきゅっと固くなるような経験をしてきちゃったんだろうなということも想像できます。
今回レター下さったご夫婦がきっと優しいから、この20年間ずっと色んなことをカバーされてきたのだと思います。
この男性が、ある意味心が固くなっちゃっている時にも、代わりに謝ってもらえてるっていう状況があるから、同じところで働き続けてこられたんじゃないかななんてことを想像する事ができます。
すいませんが口癖になっている方こそ、今回のケースのように謝るということができずにきちゃった方。
多分どちらにも、今まで心に色々な傷みたいなものはあると思うのです。
謝る言葉が適切に口に出せれば、それがある意味、心のかたくなっちゃった状態というのを、少しだけでも 柔らかくすることができる。
ちゃんと謝れたという意味にことができるのに、それができていないというような状況というのは、本人も辛いのではないかなと思うのです。
そこをうまく引き出せるような問いかけをしていただけると良いのではないかと思っています。
もう1つはやっぱり同席していただく。
この2つを適度に合間に入れて少しずつ理解してもらう。
もちろんお二人がしんどいのはよくわかってますが、追い詰めるような形ではなくて、その起こってしまった出来事がリカバリーできてきたぐらいのタイミングで問いかけの時間を作ってみましょう。
あのことについてどう思ってる?みたいな、普通の会話の中で、ご主人から聞いてもらうのがいいんじゃないかなと。
そこで申し訳ないと思ってるんですけどのような言葉が出てくれば、それを現場でいってくれると、結構うまく回っていくんだけどどうかな?などを、お伝えいただくと、たぶんご本人もそうだなと思っていると思うんです。
でも、なかなかその場ですぐ出てこないという事自体は、その言葉が、ボキャブラリーに入ってないからだと思うのです。
だから、そこをどう少しずつ足していくかです。
もう本当にすみませんでいいんだと思うんですと言ってくださった通り、すみませんで全然いいと思うのです。
すみませんというキーワードを、どうやってそのまま男性のボキャブラリーに入れていくかというようなトライを、ぜひご主人と一緒にしていただければなんて思ってます。
一緒に働いておられる他の方たちも、きっと同じことを思っておられるのではないでしょうか。それがきっかけで、仕事を辞めてしまうということがないことが、やっぱりお二人にとっては望ましいと思うのです。
ぜひこのすみませんという一言を、この男性の声に入れていくというような取り組みをしていただければと思ったりしております。
日常生活の中で、うまく謝罪の気持ちを伝えるということ、1つの社会的に楽に過ごしていけるスキルだと思います。
でもそれが育ってくる過程において、なかなかうまく身につかなかった方。
それが両極端に謝りすぎもあるし、それこそ謝れないもあるし、そういったケースというのは、世の中にあると思います。
そういった方たちも、できるだけ気持ちをちゃんと言葉にできるような取り組みを一緒にしていっていただけるとありがたいなんて思ったりしております。