第94回アカデミー賞
今回のアカデミー賞で思ったことを3つのテーマにわけて列記したいと思う。
【受賞結果】
●「CODA コーダ あいのうた」が作品賞受賞
前哨戦終盤戦の戦績を見れば納得の結果だが、正直なところ、アカデミー賞は配信映画には作品賞を与えないのではないかと思っていた。
だから、配信映画でなく、しかも、現在の世界情勢を彷彿とさせる描写もある「ベルファスト」が有利だと思っていた。
ウクライナのゼレンスキー大統領の演説を授賞式に盛り込めなんて話もあったが、結局、やらなかったということは、アカデミー側としては、ロシアの軍事行動には反対するけれど、ウクライナに一方的に肩入れすることもしないよというアピールなんだろうね。
確かに、欧米のゼレンスキーに対する支持の仕方はプロパガンダに近いものがあるしね。
彼がユダヤ人で、しかも、芸能界出身だから、欧米では政界、経済界のみならず、芸能界も支持している面が大きいと思う。
最近のアカデミー賞は、BLMやMeTooといった運動の影響もあってか、ユダヤ人差別ものよりも、黒人やアジア系、ヒスパニック、女性、LGBTQ、障害者の問題を扱った作品の方が評価されやすいから、ユダヤ人のプロパガンダにつながりかねないウクライナ情勢とは距離を置こうというスタンスなのかな?
だから、現在の世界情勢を彷彿とさせる「ベルファスト」ではなく、障害者を巡る問題を描いた「CODA」を作品賞に選んだということなのだろうか。
日本ではギャガの配給で全国公開されているから、「CODA」を普通の賞レース向け映画だと思っている人が多いけれど、これって、Apple TV+の配信映画なんだよね。
まさか、史上初となる配信映画の作品賞受賞が、4年連続で作品賞にノミネートされているNetflix作品でも、前回ノミネートされていたAmazon Prime Video作品でもない、アップル作品が受賞するとはね…。そんなにネトフリって、嫌われているのかな?
まぁ、今回はアップルの本作以外にも、ネトフリの2作品(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と「ドント・ルック・アップ」)、米国ではHBO Maxで同時配信されたワーナー映画2作品(「DUNE デューン/砂の惑星」と「ドリームプラン」)も作品賞候補になっていたから、つまり、10本の作品賞候補のうち半分が配信映画だから、もう、配信映画に作品賞を与えるべきか否かという論争をしている場合ではなくなったということなんだと思う。
また、本作はフランス映画のリメイクであり、「ベン・ハー」や「ディパーテッド」などわずかな作品しか達成していないリメイク映画による作品賞受賞作品となったが、これも、作品賞候補10本のうち本作を含めた4本(他は「DUNE」、「ウエスト・サイド・ストーリー」、「ナイトメア・アリー」)がリメイク作品となっている状況を考えれば、リメイクの是非なんて議論しても仕方ないってことなんだろうね。
●「ドライブ・マイ・カー」国際長編映画賞受賞
作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞とノミネートされた4部門のうち、受賞の可能性があるのは国際長編映画賞だけというのは、批評家や映画ファンなら誰でも分かっていたことだ。でも、それを口にすると非国民扱いされるから、“受賞を期待する”とか、“原作の村上春樹の国際的知名度が高いから脚色賞はいけるのでは”などと答えていた人が多かったのではないだろうか?
個人的には、国際長編映画賞の受賞すら難しい、つまり、無冠に終わるのではないかとすら思っていた。それは、本作においてロシアの作家・チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」が作品のストーリー展開とリンクする劇中劇として描かれているからだ。
最近、欧米では、ロシア人音楽家のコンサートが中止となるケースも目立っている。政治や社会情勢と芸術・エンタメを別腹で考えるという思想がなくなってしまい、キャンセル・カルチャーというものが蔓延しているので、正直、受賞は難しいと思っていた。
しかも、この部門にはロシアを離れたユダヤ系移民という、まさに、ウクライナ情勢とリンクせざるをえない監督が手がけた「FLEE フリー」がノミネートされている。
この作品は、外国語映画であると同時にドキュメンタリーでもあり、アニメーションでもあるために、国際長編映画、長編ドキュメンタリー、長編アニメーションという3つの作品賞に同時にノミネートされる快挙を果たしたが、ドキュメンタリーやアニメーションでの受賞は米国産の強力な作品があるので難しいから、ウクライナ情勢を鑑みて国際長編映画賞を与えようという考えが起きてもおかしくなかったんだよね。
結局、「FLEE」が無冠となったのは、ウクライナ情勢とは距離を置こうというアカデミー会員の姿勢を反映したものということなのかな。
●「DUNE」最多6部門受賞
今回、2番目に獲得した部門数が多かったのは作品賞を受賞した「CODA」だが、こちらは3部門だから、その倍の6部門を制した本作はすごいとしか言えない。技術系の部門は強いだろうという予想はあったけれど、ここまで強いとはね…。
まぁ、作品賞を受賞できなかったのは当然といえば、当然だよね。いいところで=中途半端なところで終わってしまっているからね。
そういう意味では、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の1作目、および2作目に通じるものがあるかな。「DUNE」と「ロード・オブ・ザ・リング」に関しては、過去の映画化作品が失敗していて、それを見事に原作ファンも納得する傑作に仕上げたという点でも共通しているけれどね。
それにしても、本作でハンス・ジマーが作曲賞を受賞したけれど、受賞は「ライオン・キング」以来27年ぶり2回目なんだよね。ノミネート常連なのに、なかなか受賞できなかったんだよね。
【授賞式】
●8部門の結果発表を事前収録
映画マニアとしては、この扱いは裏方軽視で許しがたいとは思う。特に作曲賞を事前収録にしているのなんてありえない。今回の受賞者であるハンス・ジマーの音楽にどれだけ作品が救われていると思っているんだよ!彼が手がけた(共同だけれど)“彼こそが海賊”というテーマ曲がなければ、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズがあれほどの人気になったかどうかも分からないしね。
まぁ、短編系の3賞に関しては特別賞扱いにして、中継番組中で結果を伝えるだけでいいとは思うけれどね。
視聴率(正確には米国では視聴率ではなく視聴者数を重視)を上げるために、映画マニア以外は興味を持たない技術系の部門の結果発表に割く時間を極力減らしたいという気持ちは放送局のビジネスとしては至極真っ当なものだと思う。
日本アカデミー賞だって、金曜ロードショー枠で録画中継される際には、技術部門はそんな扱いだし、音楽だけれどグラミー賞なんて、80以上の部門があるのに、授賞式の中継番組では主要4部門プラス、その年で話題になりそうな候補がいる5部門くらいしか放送されない。
しかも、技術系の賞とか短編系の賞というのは、ノミネート対象者が複数いることが多いから、その人たちに一言ずつしゃべらせたら時間を食って仕方ないし、しかも、大抵は関係者の名前を羅列するだけだから、視聴者としては見ていても全然面白くない。
ぶっちゃけ、映画マニアでない一般視聴者が興味を持つ部門って、作品・監督・主演男優・主演女優・助演男優・助演女優・歌曲・長編アニメーションくらいしかないと思うんだよね。
国際長編映画賞なんて、完全にアメリカ国外の映画ファンやマスコミに話題にしてもらうための部門だしね。何しろ、米国で公開されていなくてもエントリーできるくらいだしね。
また、そうした“不人気”部門を事前収録にした背景には中継番組の放送時間をダラダラと長くしないことを目指していたというのもあるのではないだろうか?若年層は長時間同じものを見るのが苦手と言われているしね。でも、結局、4時間放送しているんだよね。全然、短縮できていない。
事前収録したとはいえ、ノミネート振り返りはあるし、受賞者のスピーチも見せるから、結局、受賞者が発表されて、その受賞者が壇上に向かうまでの時間と、スピーチを終えて壇上から去るまでの時間をカットしただけなんだよね。だったら、わざわざ、事前収録する必要はなかったのでは?
それから、会場がドルビーシアターに戻り、出席者もノーマスクになったとはいえ、やっぱり、会場の画を見ると、出席者数を絞っているように見えるんだよね。実際、作品賞ノミネートの「ウエスト・サイド・ストーリー」の主演女優が招待されないという事態にもなっているしね。
そうした人数制限も理由の一つであるなら、技術系や短編系の賞も含めて、ノミネート対象者は代表1人にする。もしくは、名前は列記するけれど、スピーチできるのは1人のみにするとか、そういうシステムにすれば良かったんだよ。
●意味のない追悼パフォーマンス
不謹慎な言い方かもしれないが、追悼コーナーってアカデミー賞授賞式の人気コーナーだと思うんだよね。でも、最近はただ、物故者の写真や映像を流すだけでなく、歌唱パフォーマンスを伴うようになっている。
それ自体は否定しないけれど、どうも、最近はパフォーマンスの方に重きを置きすぎている気がする。
パフォーマンスの全体像を見せたいからという理由でヒキの画にすると、後方に映し出されている故人の画像や動画が見えにくくなってしまい、名前なんてかなり小さくなってしまうんだよね。
はっきり言って本末転倒だと思う。パフォーマンスなんてなしで、画面トリキリでいいんだよ。まぁ、テレビマン的発想で画面トリキリじゃ、視聴者が逃げると思ってしまうんだろうけれどね。
●ウィル・スミス暴力騒動
ウィル・スミスはいじっていいみたいな風潮があるのは事実だと思う。いつも笑顔のイメージだしね。でも、今回のプレゼンターであるクリス・ロックの発言は、ウィル・スミス夫妻を侮辱していたと思う。そりゃ、怒るのも当然だ。脱毛症に悩む夫人のジェイダ・ピンケット・スミスに対して、“G.I.ジェーン2に出れば?”と言うのは、彼女に対してのみならず、彼女と同じ症状に悩む世界中の人を侮辱したことになるわけだしね。
とはいえ、ウィル・スミスが壇上に駆け寄り、クリス・ロックを叩き、放送禁止用語を叫んだことは容認できるものではない。全世界に生中継されている番組の放送中にすることではないよね。
だから、その後、ウィルが主演男優賞を受賞しても、全然、感動できないんだよね。ザ・フレッシュ・プリンス名義でラッパーとして活動していた頃から注目していた人がやっとオスカーを手にしたのだから、本来ならもらい泣きするはずなのにできなかったからね。
●歌曲賞パフォーマンス
何故か、「ミラベルと魔法だらけの家」からノミネートされたのは、全米ナンバー1ヒットとなった“秘密のブルーノ”でも、全米トップ10ヒットとなった“増していくプレッシャー”でもなく、“2匹のオルギータス”だった。おそらく、ポリコレ的配慮でスペイン語歌唱曲のこれを選んだ人が多かったんだろうとは思う。
でも、一般視聴者からすれば、聞きたいのは“ブルーノ”だから、番組スタッフとしても、視聴者数増加を考えれば、“ブルーノ”のパフォーマンスをやろうとなるのも当然だとは思う。
でも、それをやったら歌曲賞というカテゴリーの否定になってしまうよね。
歌曲賞にノミネートされていない楽曲をパフォーマンスするなんて、何の意味もないしね。
しかも、歌曲賞ノミネート曲は5曲あるのに、授賞式では4曲しか披露されなかった。“ブルーノ”に割かれた時間をこのカットされた曲に与えるべきだったと思う。
●DJによるBGM
黒人が出てくる時にTOTOの“アフリカ”を流したり、ヒスパニック系が出てくる時に、ロス・デル・リオの“恋のマカレナ”やマドンナの“ラ・イスラ・ボニータ”を流したりというステレオタイプな選曲はポリコレ的にNGでは?
あと、プレゼンターにゾーイ・クラヴィッツがいるからって、レニー・クラヴィッツの“イット・エイント・オーヴァー・ティル・イッツ・オーヴァー”を流すってのも安易すぎる選曲でしょ。しかも、ゾーイが映っていない場面で使っているし。
【WOWOWの中継】
●ジャニーズや日本人俳優のコメントは不要
ジャニオタには推しのために出費を惜しまない信者が多いから、ジャニーズのタレントをWOWOWの中継番組の日本側ゲストとして出演させれば、彼女たちがWOWOWに加入してくれるという考えはビジネスとしては間違ってはいないと思う。
でも、映画に対するリスペクトは欠けているとしか言えない。
彼女たちのほとんどは普段、洋画なんて見ない人たちだ。彼女たちは推しが出ているからWOWOWを見ているだけで、海外の俳優や監督には興味なんてない。
ここまで酷くなくても、同じく日本側ゲストとして出演している日本の俳優に関しても同じだと思う。
WOWOWの中継番組のスタッフにとっては、授賞式会場にいる海外の映画人やWOWOWを見ている映画ファンよりも、日本側ゲストやそのファンの方がプライオリティが上なんだろうね。
だから、本来なら現地CMタイムの穴埋めでしかない日本側ゲストのトークが優先され、現地のCMタイムがあけて授賞式が再開されても、現地の映像に戻らず、日本側のスタジオを見せているんだろうね。
授賞式を見せない授賞式の中継番組って意味ないだろ!
こんな映画をなめくさった連中にアカデミー賞授賞式の中継番組を担当する資格なんてないよ!
本当、年々、WOWOWの中継は酷くなっていく!
日本側スタジオの出演者は、ウザいけれどジョン・カビラと、フリーアナウンサー、それと町山智浩だけで十分!
●オリジナルのエンドロールをカット
これもありえない!
これまでは、授賞式エンディングのエンドロールは、WOWOWではリアルタイムでは流さずに、日本側スタジオのMCやゲスト陣による受賞結果の振り返りが一通り終わり、中継番組が終わる際に録画されたエンドロールを流していた。
ところが今年はそれがなかった。
投票システムの説明トリキリだけを流して終わってしまった。
日本側スタジオのスタッフは長々と流すのに、本来の現地の授賞式番組のスタッフのエンドロールは流さないっておかしいだろ!
本当、WOWOWの中継番組のスタッフ連中は映画に対する愛がない!
アカデミー賞授賞式を単なる素材としか思っていないんだろうね!
もう、WOWOWで中継するのやめてほしい!
●回線トラブル多発
町山智浩の話だと、米国では回線トラブルはなかったらしい。ということは、これはWOWOW側の問題ということになる。
1度くらいのトラブルならめくじら立てたりしないけれど、何回もあったからね。ジャニーズや日本人俳優にギャラを払う金があるなら、そんなのに使わないで、きちんとした回線を引けよ!
やっぱり、アカデミー賞授賞式はNHKのBSで放送していた時の方が良かったな。
《追記》
「ドライブ・マイ・カー」の結果と、ウィル・スミスの騒動しか放送しない日本のテレビ番組にアカデミー賞の報道をする資格はない!
作品賞受賞作について語らない映画賞の報道なんて、よろしくない表現だが片手落ちもいいところだ!
メジャーリーグの報道でも日本人選手の結果しか伝えず、チームの勝敗が分からないことも多いし、オリンピックでも日本人選手の結果しか伝えないから、金メダルを取ったのが誰か分からないなんてこともあるけれど、本当、日本のマスコミってマスゴミだよね。
あと、「ドライブ・マイ・カー」のこれまでの受賞した賞の数のカウントの仕方けれど、アカデミー賞などの映画賞にカンヌ国際映画祭の結果を混ぜるのは違うと思う。
一定の基準を満たした作品全てが対象となる映画賞と、主催側が出品作品を選ぶ映画祭は意味合いが違うからね。
結局、映画をよく分かっていないヤツが視聴率目当てで原稿を書き、映像を編集するから、こういうクソ報道になるんだよね。