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欧米受けが良さそうな「SAND LAND(サンドランド)」

週刊少年ジャンプを定期的に購読していた時期は飛び飛びだったので、本作の原作を連載時に読んだかどうかの記憶は定かではない。だから、「Dr.スランプ」でも「ドラゴンボール」でもない鳥山明作品ってつまらないなと思った作品が本作の原作なのか別の作品なのかの記憶も曖昧だ。

まぁ、とはいえ、これまでアニメ化されていなかったということはそれほど人気はなかったということなのだろうか。
もっとも、単行本全1巻で完結している作品なので、だいたい1クールが単行本3巻分くらいの内容になるテレビアニメには向かなかったというのはあるとは思うが。
かと言って、人気や知名度があるわけでもないから、いきなり劇場用オリジナル作品として出すのはリスクが高いとして躊躇していたということなのだろう。
実際、本作はこれまでの鳥山明原作作品のアニメ化(「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」)のように東映作品として発表されていない。配給は東宝だ。

じゃ、何故、東宝はリスクを取ってまで知名度の低い鳥山明作品を劇場用オリジナルの長編アニメとして映画化したのかということになるが、実際に本編を見て納得した。これは今、見るべき作品だと思う。
ぶっちゃけ、全編マスターベーションの連続で非常につまらない宮﨑駿の最新作「君たちはどう生きるか」よりも欧米の映画賞のアニメーション部門にノミネートされる可能性は高いのではないかと思う。

まず、干ばつにより水が不足した社会というのは、今夏、というか年々、酷くなっている世界各地の猛暑と重ね合わせてしまいたくなる。
と同時に、水不足というのは、ウクライナ情勢の影響を受けてエネルギー不足となった最近の世界情勢を想起させる。
そして、その資源不足を裏でコントロールしている為政者の姿は、ロシアやウクライナのみならず、G7やG20に含まれる国々の指導者を思い浮かべてしまう。

その上でこうした描写の背景には、環境保護や戦争反対というメッセージが込められている。

平和を訴えるメッセージに関しては、チャールズ・チャップリンの名作「殺人狂時代」でおなじみの戦場での殺害は殺人扱いされないことを皮肉った台詞も出てくる。

第二次世界大戦中を舞台にしていながら、その必要性をほとんど感じないパヤオの新作よりも反戦のメッセージを感じることができた。

それでいて、娯楽映画として成立している。荒廃した世界を舞台にしたアクションということで言えば、「マッドマックス」シリーズにも通じるし、人間と悪魔、さらには異星人が共存する(仲は良くないが)世界というファンタジー要素もある。全く飽きを感じないとまでは言えないが、今夏公開された「インディ・ジョーンズ」や「ミッション:インポッシブル」といったハリウッドのアクション系大作シリーズの新作に比べれば遥かに面白いと思う。

また、日本のアニメ映画は進歩を嫌い、技術革新を手抜きと考える老害ネトウヨのオタクに媚びて依然として手描き作品が多いが、こうした手描き作品は世界的には古くてダサい一部のオタクが好むものと思われているフシがある。でも、本作は手描きにも見えなくはないCGアニメーション技術であるセルルックの手法を導入しているから、手描き至上主義の日本の老害にも、手描きを古くさいと思う海外の観客にも受け入れられやすい。

労力や構図の美しさはともかく、技術的には海外視点では評価されにくいパヤオの新作より、本作の方が受けはいいだろうしね。

そうした様々な要素を考慮すると、本作は欧米で評価されやすいのではないかと思う。

個人的には、「ドラゴンボール」映画にバトルを延々と繰り広げているだけの内容のないものが多いことから、どうせ、本作もそんなものなんだろうと思いほとんど期待せずに鑑賞に臨んだが、予想を上回る良作だった。

作中のニュースを伝えるシーンはニュース関係の仕事をしたことがある者からすると非常におかしな描写だけれど、本作の舞台は日本でも米国でもないし、それどころか架空の独裁国家の話だから、まぁ、それはよしとしよう。

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