ミッドナイト・スカイ
この数ヵ月に相次いで劇場で先行上映された賞レース向けネトフリ映画5作品を一通り、劇場で鑑賞することができた。
「シカゴ7裁判」
「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」
「Mank マンク」
「ザ・プロム」
そして、本作「ミッドナイト・スカイ」
全作品ともアカデミー作品賞ノミネートのポテンシャルがあると個人的には思った。
この5作品にプラスして劇場で上映されずに6月に配信されたスパイク・リー監督の「ザ・ファイブ・ブラッズ」や、上記5作品同様、秋から年末にかけての配信作品だけれど日本では劇場で上映されないチャドウィック・ボーズマンの遺作「マ・レイニーのブラックボトム」もBlack Lives Matterの機運が高まった2020年の世相と合致する作品なので、アカデミー作品賞ノミネートの可能性はあると思う。コロナの影響で劇場公開作品が減ったということもあってか、本当、今年のネトフリ映画は大豊作だと思う。
ただ、「ヒルビリー・エレジー」は民主党政権(クリントン政権)時代を暗鬱とした時代として描いたことが影響したのか、米国では酷評されているようだ。
また、「ザ・プロム」も“悪役”が黒人でしかも女性だから、リベラル意識というより、民主党が正義という考えが蔓延している今の米エンタメ界では無視される可能性があるかもしれない。
一方で本作「ミッドナイト・スカイ」に関しては、宇宙船クルーの船長が黒人で、彼と深い仲になる女性が白人。また、中年白人男性が若い黒人女性を娘のように思うような描写もある。なので、偏ったポリコレが悪化しているハリウッドでも受け入れられるのではないかと思う。それから、環境問題も描かれているのでリベラル受けも良いのかなとも思う。
だから、冷静に考えれば上記7作品のうち、アカデミー作品賞候補になるのは3~5本ではないかなとは思う。
本作に関しては、内容自体は、多分、合わない人には全然合わない作品だろうなとは思った。ミニシアター公開=映画マニアが集う劇場での上映なのに、上映途中でトイレだなんだで席を立つ人が多かったからね。ミニシアターなので、誰かが上映中に席を立つと、スクリーンに影が映ってしまうので、本当、迷惑…。
まぁ、複数のシチュエーションが何の説明もなく並行して描かれるし、唐突にシーンが変わったりもするし、別のシチュエーションの描写になった後、なかなか、もう一方に戻らなかったりと構成に難は感じたりもしたけれどね。
でも、感動することはできたし、先が読めなかったから、どうなるんだろ?と頭を働かせながら見ることになったので、結構楽しめたと思う。まぁ、謎の少女の正体もだいたい想像の範囲内だったかなという気はするけれど…。
あと、MLBのスタジアムでおなじみの名曲「スイート・キャロライン」の使い方も良かった。
それから、前半はラスト・シーンをベースに、後半は黒味ベースにロール形式でなく、何枚にもわけて出るエンド・クレジットの出し方もちょっと米国映画っぽくなくて面白かった。
とりあえず、一言で言うと、「ゼロ・グラビティ」、「インターステラー」、「メッセージ」などといった批評家筋にも評価されたSF映画をちょっと思い浮かべるような作品って感じかな。
それにしても、ジョージ・クルーニー出演映画を見るのって久しぶりだな…。監督やプロデューサーとしての作品の公開はあったけれど、俳優としての出演作は約4年ぶりだからな。まぁ、本作は監督、プロデューサーも兼任しているけれどね。そして、気付けば、ジョージ・クルーニー監督作品も本作で7作目。まぁ、微妙な作品もあったりはするが、全体としては好調なフィルモグラフィだよなとは思うかな。
そういえば、ジョージ・クルーニーって、本当ハリウッド随一のいい人だよねって思う。世界からちょっとだけ遅れての日本公開となった「オーシャンズ13」と日本公開がかなり遅れた「さらば、ベルリン」の日本での公開時期がほぼ同時期になったことから、キャンペーンで来日したジョージ・クルーニーのメディア向けの取材は2本まとめて(同じワーナー 作品だし)行われることになったんだよね。
それで、同じ媒体で同じインタビュアーというのもなんだしということで、ミーハー向け?というか一般的な「オーシャンズ13」は局社員の番組キャスターが。第二次世界大戦下の話でしかもモノクロ作品という、どちらかといえばシネフィル向けの「さらば、ベルリン」は自分がインタビュアーを務めることになったんだよね。
とはいうものの、ナレーション原稿を書くのも映像を編集するのも自分だし、インタビュー中にキャスターに指示を出したりもするから、自分も先に行われた「オーシャンズ13」のインタビューの取材現場に立ち会っていた。
そして、その後しばらくして、「さらば、ベルリン」の方のインタビュー取材となったわけだが、「オーシャンズ13」の時は自分は取材部屋の端っこにいただけなのに、クルーニー氏は「さらば、ベルリン」の取材が始まり、自分と対面するなり、いきなり、“君、さっきいたよね?”って声をかけてきたんだよね。
これには驚いたな。ただでさえ、取材日には多くの媒体が集まるわけだし、インタビュアーは自らとは異なる見分けにくい人種の人間。なのに、キャスターや芸能人みたいな目立つ人ではないパッとしないテレビ番組制作側の人間の顔まで、その場にいた人間のことをきちんと把握しているんだからね。そりゃ、ハリウッドで彼がアニキ的な存在として慕われるのも納得だよなと思ったかな。
ところで、ネトフリ配信映画の先行上映といえば、ミニシアターやイオン系シネコンなどが相場で都内ではアップリンクがメイン館的な存在になっていた。
去年の秋から年末にかけて上映された賞レース向けの作品はいずれも、アップリンク渋谷で上映されたし、今年も5連発の第1弾「シカゴ7裁判」はアップリンク渋谷で上映された。でも、第2弾の「ヒルビリー・エレジー」からは、渋谷地区の上映館がヒューマントラストシネマ渋谷に変わってしまったのは何故?
アップリンクがパワハラ問題でイメージが良くないから、“外資系”のネトフリはアップリンクでの上映を認めなかったというのであれば理解できるが、「シカゴ7裁判」はアップリンク渋谷で上映されているし、アップリンク吉祥寺では5本とも上映されている。アップリンクのパワハラ問題の被害者には吉祥寺のスタッフもいたのだから、アップリンク外しなら吉祥寺も外すはずなので、パワハラ問題を考慮したものでないのは明らか。
じゃ、何故変えたんだ?確かに、アップリンク渋谷の上映環境は座席にしろ、音響設備にしろ、褒められたものではない。吉祥寺は座席も音響設備も渋谷よりはグレードの高いものだから残されたのだろうか?
確かにネトフリ映画って、配信映画なんだけれど、特にこうした賞レース向けの作品って、PCやスマホで見ては良さが満喫できない。映画館の音響で見てこそ楽しめる作品が多いのも事実だから(本末転倒!)、アップリンク渋谷は外されたと考えるのが妥当なのかもしれないな。
でも、アップリンク渋谷でネトフリ作品が上映された時は1日に3回とか4回とかかけてくれたけれど、ヒューマントラストだと、渋谷に加えて有楽町でも上映されるようになったにもかかわらず、いずれも1日に1回とか2回の上映で、しかも、夜間のみというのも多いから不便なんだよね。上映環境は最悪だけれど、上映回数という点ではアップリンク渋谷の方が便利だったな。
というわけで、今回の5連発。
個人的なお気に入り度は以下の順になりました、
①シカゴ7裁判
Black Lives Matter運動、そして、ハリウッドの反トランプ・キャンペーンと合致した作品だから高評価されているよね。
②マンク
映画業界内幕ものだし、賞レースには有利だよね。
③ザ・プロム
単純に面白かったし、スクール・カースト上位でなかった人間からしたら共感しかない作品だった。
④ヒルビリー・エレジー
俳優陣の演技なら、5作中本作が圧倒的に他作品を上回っている。
⑤ミッドナイト・スカイ
嫌いではないが、構成に多少問題があるからね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?