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アカデミー賞ノミネート発表とキネ旬ベスト・テン
第94回アカデミー賞のノミネートが発表された。
「ハウス・オブ・グッチ」がレディー・ガガの主演女優賞でもジャレッド・レトの助演男優賞でも無視され、メイクアップ&ヘアスタイリング賞のたったの1部門でしか候補に上がらなかったことと、同じリドリー・スコット監督作品の「最後の決闘裁判」が1部門にもノミネートされなかったことを除けば、それほど想定外なことななかったのではないかと思う。
まぁ、賞レース向きの作品を同時期に2本も発表してしまったこと。そして、パワフルな女性を描きつつも、その女性が決してクリーンではない(というか、「ハウス・オブ・グッチ」は完全にダーティー)存在として扱われていたので、ポリコレ至上主義の今の米エンタメ界では評価されるのは難しいと思うしね。女性や黒人に対しては批判的なことを言ってはいけないというのがポリコレだからね。
「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の作品賞ノミネートを期待する声は高かった。コロナ禍になって最大のヒット。それどころか全米興収7億ドルを突破する記録的大ヒット。
コロナ禍で苦境に立たされる映画館を救ったという意味で作品賞にノミネートしてあげてもいいのではという声もあるだろうが、過去に作品賞にノミネートされたアメコミ原作映画の「ブラックパンサー」や「ジョーカー」に比べれば、政治的メッセージが薄いから、作品賞候補にならなかったのは当然といえば当然。
作品賞にノミネートされた10本に関しては、多くの映画ファンの予想通りになったのではないかと思う。
現時点で日本公開済みの作品が5本
「ドライブ・マイ・カー」
「DUNE デューン/砂の惑星」
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
「ドント・ルック・アップ」
「Coda コーダ あいのうた」
(公開順)
アカデミー賞に合わせてノミネート発表後の2月中旬から授賞式が開催される3月下旬にかけて公開される作品が4本
「ウエスト・サイド・ストーリー」
「ドリームプラン」
「ナイトメア・アリー」
「ベルファスト」
(公開予定順)
4月以降だが日本公開が決まっている1本
「リコリス・ピザ」
というラインナップだ。
前年度は、8本の作品賞候補のうち、ノミネート発表時点で既にアマゾンプライムで配信されていた「サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-」とワーナー作品「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」の日本劇場公開が見送られていた。
前者はその後、アカデミー賞2部門受賞をうけて劇場公開されたが(Netflixの「ROMA/ローマ」と似たパターン)、後者に関しては同じく2部門で受賞を果てしたのにもかかわらず、DVDレンタル先行という形で日本では紹介され、劇場では未公開のままとなっている。
それと比べると、今回は前年度より候補作品が2本も多いのにもかかわらず、全てを映画館で見られることになるのだから、映画ファンとしてはホッと一息といったところだろうか。
それにしても、配信映画が多い。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と「ドント・ルック・アップ」は配信に先駆けて劇場で限定上映されたネトフリ映画だ。
これでネトフリは4年連続で作品賞候補を送り出したことになる。しかも、2作品が作品賞候補となるのは3年連続だ。今回の作品賞候補のラインナップを見ると、史上初となる配信映画の作品賞受賞もありえそうだ。
また、日本ではギャガの配給で普通に劇場公開されているが、「コーダ」はApple TV+のオリジナル作品だ。
さらに、ワーナーは20年末から21年いっぱいにかけて、劇場公開作品を(日本ではローンチされていない)HBO Maxで同時配信したので「DUNE」と「ドリームプラン」も広義では配信映画となる。
10本中5本が実質配信映画なんだからね…。
コロナ禍で曖昧にされたままだが、そろそろ、配信映画の扱いをどうするのかはっきりと決めた方がいいような気はするかな。
個人的には、アニメーションとかドキュメンタリー、国際映画、短編映画のように、劇場公開作品とは別に配信映画というカテゴリーを作るべきだとは思うが、映画マニア以外の人からすると、そんなカテゴライズはどうでもいい感じになっているんだろうな…。
となると、限定上映でエントリー資格を得るということをしなくても、今後は作品賞など各賞にノミネート可能というシステムにならざるをえないのかな?
日本では「ドライブ・マイ・カー」が日本映画として初めて作品賞にノミネートされ、しかも、それ以外にも監督賞や脚色賞、そして、こちらは元々、可能性が高かった国際映画賞にもノミネートされたことから、おそらく、日本では他の候補作の存在を無視した報道が続けられると思う。
レディー・ガガも「スパイダーマン」も候補にならなかったし、長編アニメーション賞のノミネートに日本作品はなかったから、完全にそういうモードになりそうだな。
個人的には、「ドライブ・マイ・カー」が欧米の映画祭や映画賞で評価される理由はよく分かるんだよね。
性的な描写や喫煙シーンの多さは最近のポリコレ思想に毒された欧米では嫌われる要素だけれど、それ以外の描写は欧米の意識高い系の人が好きそうな要素だらけだしね。
まず、アカデミー賞などの主要映画賞って、クリエイティブ職の者を描いた作品が評価されやすい。それは、業界関係者が選ぶにしろ、批評家が選ぶにしろ、記者が選ぶにしろ、選ぶ側がクリエイティブ職の人間だからだ。
本作の主人公は舞台俳優兼演出家だから、そのキャラクター設定でまずは一歩リードしている。
さらに、本編のストーリー進行と劇中劇の展開がリンクする話というのも評価されやすい。評論家やシネフィルはこういうのが大好きだからね。
しかも、扱われるのが「ワーニャ伯父さん」や「ゴドーを待ちながら」という欧米のインテリ層なら知っていて当たり前という作品。
そして、その劇中劇である舞台は多言語で上演されている。その言語には手話まで登場する。それは、英語圏の白人男性の健常者だけがこの世の全てではない=マイノリティ差別をなくそうと主張する現在の欧米エンタメ・アート界のポリコレ思想とも合致する。
ついでにいえば、原作者の村上春樹の知名度は欧米でも高いから、そりゃ、日本映画でありながら脚色賞にノミネートされるのも当然といえば当然なんだよね。原作を知っている人が多いんだからね。
もう一つついでにいえば、「ドライブ・マイ・カー」というタイトルも欧米人に見てもらいやすい要素だと思う。
本編では使うことはできなかったけれど、ザ・ビートルズの“Drive My Car”は欧米の業界人なら知っていて当たり前の楽曲だしね。
まぁ、今回はノミネート枠が最大10本ではなく、条件なしの10本に拡大されたからノミネートされたという部分は否定できないと思う。
すぐに3年連続で、アジアが評価されたと言ってしまう人もいると思うが個人的にはこの考えに対しては懐疑的だ。
確かに、ここ何年か黒人監督作品を評価しなくてはいけない。女性監督作品を評価しなくてはいけないという風潮がある。
そして、その流れでアジア人(アジア系)監督作品も評価しようという動きがあるのも事実だとは思う。特にアジア人(アジア系)に対する差別というのは黒人がやっているケースが目立つので、黒人ばかりを評価すると公平ではないと思われてしまうから、アジアにも目配せしようという流れはあるとは思う。
2年前の「パラサイト 半地下の家族」はたまたまそういう流れになった時にピッタリはまるエンタメとアートが融合した作品がアジアから出てきたから高評価されたという面はあると思う。多くのアジアの映画ファンが思うように、決して、「パラサイト」はポン・ジュノ監督のベストではないと思うしね。
前年度の作品賞受賞作「ノマドランド」は監督は中国出身でも、作品自体は米国のアート系映画だったし、同じく前年度作品賞ノミネートの「ミナリ」は台詞の多くは韓国語だけれど米国を舞台にした米国映画だった。だから、いずれも純粋なアジア映画の評価ではない。
もし、今回のノミネート枠が条件なしの10本でなく、例年の8〜9本のノミネート枠だったとしたら、落選していた可能性は大だと思う。
おそらく、本作と「ドント・ルック・アップ」、「ナイトメア・アリー」あたりが、従来のノミネート枠なら当落線上だったのでは?
ところで、映画ファンはキネマ旬報ベスト・テンの結果に対して保守的だとか、日本アカデミー賞の結果に対して大手映画会社の持ち回りだとか言ったりすることが多い。
日本アカデミーなんかは最近の最優秀作品賞受賞作が、政権批判的な発言の多い是枝裕和監督作品の2年連続受賞(「三度目の殺人」、「万引き家族」)のあと、実名は出てこないものの、政権批判の代表格的新聞記者である望月衣塑子の著者をもとにした「新聞記者」、LGBTQを題材にした「ミッドナイトスワン」と左寄りのものが続いていることから、ネトウヨには反日なんて呼ばれていたりもする。
その一方で、その「ミッドナイトスワン」は実際のLGBTQではなく元SMAPメンバーの草彅剛がLGBTQの人物を演じていることや、女性に対する暴行を働いたとされる上にネトウヨ思想全開でもある村西とおるを伝説の人物のように描いたネトフリのシリーズ「全裸監督」を手掛けた内田英治がメガホンをとっていることなどから、パヨクやリベラルと呼ばれる人たちからも批判されている。
要は思想を問わず、キネ旬や日本アカデミーなんてクソだと思っている映画ファンが多いということだ。
でも、2000年以降のアカデミー国際映画賞(旧外国語映画賞)にノミネートされた日本映画を見てみると、「たそがれ清兵衛」、「おくりびと」(受賞)、「万引き家族」、そして、今回の「ドライブ・マイ・カー」と、4作全てがキネ旬ベスト・テンの日本映画1位に選ばれているんだよね。
また、日本アカデミーでも今回の最優秀作品はまだ発表されていないので、「ドライブ・マイ・カー」の結果は保留だけれど、それ以外の3作品はやはり、最優秀作品に選ばれている。
映画ファンには保守的とか老害とか色々と批判されるキネ旬や日アカだが、こうして見ると、結構、国際感覚はあるんだよね。
結局、キネ旬や日アカの結果に文句を言っている人って、自分が推している作品や俳優、監督が評価されないから不満なだけなんだろうね。
ただ、今回のキネ旬ベスト・テンだが、選考委員、読者どちらのベスト・テンにも日本映画では「花束みたいな恋をした」、外国映画では「ラストナイト・イン・ソーホー」が入っていたけれど、そこまでの映画じゃないよね。
結局、キネ旬ベスト・テンに投票するような人たちって、地方出身のサブカル厨が多いんだろうね。どちらの作品も地方出身者が都会でサブカル厨になる話だしね。
本家のアカデミー賞の話に戻るが、今回、日本のアニメ映画がノミネートされなかったのは納得。
基本的には、技術的に特筆すべき点がある作品か、政治的・社会的メッセージが強い作品しか選ばれないからね。
技術面に関してはいまだに保守的なアニオタに媚びて手描きアニメをやっているから日本アニメのノミネートは難しいし、メッセージ面に関してもネトウヨ思想のアニオタに媚びてポリコレの逆を行く内容の作品ばかりだから評価されにくいしね。
「竜とそばかすの姫」はルッキズム差別や子どもへの虐待問題が描かれていたから、かろうじて当落線上にはいられたけれど、ポリコレ色の強いディズニー作品3本(ピクサー含む)ほどテーマは明確ではない。
そして、難民問題を描いたデンマーク作品「Flee」なんて、アニメーション作品なのに、長編アニメーション賞だけでなく、国際映画賞や長編ドキュメンタリー賞にまでノミネートされてしまった。
アニメーションでありながらドキュメンタリーなんて、アニオタに媚びた作品ばかり作っている日本のアニメ業界ではとてもではないが作れるシロモノではないからね(まぁ、故・高畑勲とかパヤオあたりならできるかもしれないが)。
アカデミー長編アニメーション賞にノミネートされた作品はジブリを除くと、細田守の「未来のミライ」しかないというのは、日本アニメには演出面でもメッセージ面でも強いものがないからなんだよね。
日本アニメは世界最高と思っている人はいかに世界を知らないかを悟った方がいいと思う。
大抵、アニオタって海外作品をロクに見たことがないんだよね。
※追記
「DUNE」の作品賞ノミネートって何か納得いかない…。これからってところで終わっているしね…。まぁ、「ロード・オブ・ザ・リング」と同じで、過去の映画化作品が興行的・批評的に失敗している長大な原作を、きちんと原作ファンにも納得のいく形で映画化し、尚且つ、現代にも通じる内容にアップデートしたっていう評価なんだろうね。
※追記2
70年代
「ジョーズ」
80年代
「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」
「E.T.」
「カラー・パープル」
90年代
「シンドラーのリスト」
「プライベート・ライアン」
00年代
「ミュンヘン」
10年代
「戦火の馬」
「リンカーン」
「ブリッジ・オブ・スパイ」
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
20年代
「ウエスト・サイド・ストーリー」
スティーブン・スピルバーグ監督作品がアカデミー作品賞にノミネートされるのは、これで6ディケイド連続だ…。
こんなに長期にわたってコンスタントに賞レースをにぎわす作品を送り出していることに驚いてしまう…。
スコセッシはまだ20年代になってから新作を発表していないので、スコセッシも新作を発表すれば、スピルバーグに次ぐ6ディケイド連続で監督作品を作品賞候補にした監督になる可能性はあるけれどね。
※追記3
「ミラベルと魔法だらけの家」から歌曲賞にノミネートされたのは、 何故か世界的には大人気でも日本ではイマイチな「秘密のブルーノ」でもなければ、「増していくプレッシャー」でもなく、「 2匹のオルギータス」なのか…。