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オアシス:ネブワース1996
はっきりとしたコンセプトを持つアルバムがリリースされるようになったのは、1960年代後半あたりからだろうか。そして、アルバムを出して、そこからシングルを次々と切って、アルバムの売り上げを伸ばしていくという手法が確立されたのが60年代末から70年代初頭といったところだろうか。
しかし、2000年代後半以降、ダウンロードやストーリーミングといったフィジカルを伴わない音楽鑑賞が一般化し、アルバムという概念の存在意義は再び薄れていった。
60年代末から00年代前半だろうと、ダウンロードやストリーミング時代になろうと、既発のシングルをまとめたものに新曲を足しただけのものを“オリジナル・アルバム”としてリリースする手法を取り続けている邦楽にはあまり関係のない話かもしれないが、洋楽に関していえば、この60年代末から00年代前半にかけて活躍し、ヒット曲や名曲、ライブ定番曲を連発したアーティスト、特にバンドの多くに共通したアルバムに関する概念があると思う。
それは、ほとんどのバンドの代表作と呼べるアルバムは2枚に集約できるということだ。
デビュー作と2枚目、メジャーデビュー第1弾と第2弾、ブレイクした作品とその次のアルバムといった感じだ。
名盤と呼べる作品を3枚でも4枚でも出しているバンドはいくらでもいる。
でも、収録曲からそのバンドの代表曲となるようなヒット曲が連発されるアルバムを複数持つバンドとなると、そんなに多くはない。思いつくのは、ソロ・アーティストばかりだ。
70年代でいえば、エルトン・ジョンやスティーヴィー・ワンダー、ロッド・スチュワートなど。
80年代組でいえば、マドンナやホイットニー・ヒューストン、プリンス(時々、バンド名義になるが)、ジェネシスとしてのメンバーとしてもヒット曲を連発したが、その人気のベースにはソロ活動があったフィル・コリンズ。そして、マイケル・ジャクソンとジャネットの兄妹だ。
マイケルは多くのシングル・ヒット(6曲以上)を生んだモンスター・アルバムを3作も送り出しているアーティストでもある。
『スリラー』からは7曲の全米トップ10ヒット、『BAD』からは7曲の全米トップ20ヒット(うち6曲がトップ10入り)、『デンジャラス』からは7曲の全米トップ40ヒット(うち4曲がトップ10入り)を放っている。
妹のジャネットも、モンスター・アルバムを3作生みだしている。
『コントロール』からは6曲の全米トップ20ヒット(うち、5曲がトップ5入り)、『リズム・ネイション1814』からは正式にシングル・カットされた7曲全てかトップ5入りした上に、米国ではアルバム・カット扱いだった第8弾シングルもエアプレイ・チャートではトップ5入りしているし、『JANET』からも6曲の全米トップ10ヒットが生まれている。
90年代から00年代前半組でいえば、マライア・キャリーとかセリーヌ・デイオン、R.ケリー、アッシャー、ブリトニー・スピアーズ、クリスティーナ・アギレラ、エミネムなども複数のヒット曲を生んだアルバムを3枚以上輩出したアーティストにカテゴライズできると思う。
でも、バンドではそういうアーティストは少数派だ。
70年代前半までにデビューしたバンドはまだ、アルバムが年に1作リリースされる時代を経験しているから、3枚以上の代表作と呼べるアルバムを持っているバンドはいるが、80年代以降ではそうはいかない。
80年代組でいえば、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースは『スポーツ』と『FORE!』ってことになってしまうし、ボン・ジョヴィだって、『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』と『NEW JERSEY』の2作に絞られてしまう。
デフ・レパードのように、『炎のターゲット』、『ヒステリア』、『アドレナライズ』と3作あげられるバンドはまれだ。
HR/HM系のバンドが続いた流れで、他のメタルやラウド系、オルタナ系についても言及するが、メタリカなんかもシングル・ヒットを連発したアルバムということでいえば、『ブラック・アルバム』だけになってしまうかもしれない。
パール・ジャムも一時期、MVの制作を拒否していた時代があるから、そう考えると、『ten』が唯一のヒット曲満載のアルバムということになるのだろうか。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズなら『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』と『カリフォルニケイション』。
スマッシング・パンプキンズなら、『サイアミーズ・ドリーム』と『メロンコリーそして終りのない悲しみ 』って感じ。
名盤は多いかもしれないが、代表曲となるヒット曲満載ということでいえば、R.E.M.ですら、『アウト・オブ・タイム』と『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』の2作になってしまう。
まぁ、U2のように、80年代の『ヨシュア・トゥリー』、90年代の『アクトン・ベイビー』、00年代の『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』と3ディケイドにわたって、代表曲満載のアルバムを出したバンドもいるし、グリーン・デイは『アメリカン・イディオット』、『21世紀のブレイクダウン』のロック・オペラ2作に加えて、メジャー第1弾の『ドゥーキー』もあるけれどね。
だから、この持論はこじつけもいいところなんだけれどね。
でも、90年代に一世を風靡したUKバンドによる“ブリット・ポップ”のムーブメントに関しては、ブームの期間が短かったということもあるが、バンドについてアルバム2枚で語れるという説は通じるのではないかと思う。
ブラー最大のヒット曲といえば、日本のロッキング・オン信者には認めがたいかもしれないが、“ソング2”であることは紛れもない事実だと思う。というか、米国基準でいえば、唯一、UKバンド好き以外の一般にも認知されているブラーの曲かも知れない。米国ではブラーよりもデーモン・アルバーンの覆面プロジェクト、ゴリラズの方が人気あるしね(日本は言うまでもなく逆)。
でも、アルバム単位として考えると、“ソング2”収録の『ブラー』はそんなにインパクトはない。
UKチャートでの成績で考えても、ブラーの代表作というのは、その前の2作『パークライフ』と『ザ・グレイト・エスケープ』になるのではないだろうか。
まぁ、『ブラー』が出た頃には“ブリット・ポップ”のブームが去ったというのもあるし、この2作が出た頃がちょうど、“ブリット・ポップ”という言葉が至るところで聞かれた時期だったというのもあるが。
なので、ブラーと並ぶ2大ブリット・ポップ・バンドだったオアシスも1996年までの活動が全盛期とされるのは仕方ないことではある。
そして、この期間にリリースされたアルバムが1st『オアシス』(1994年)と2nd『モーニング・グローリー』(1995年)の2作しかないのだから、オアシスに関する評価が、この2枚のアルバムに集中するのも当然といえば当然でもある。
ただ、この時期のオアシスがすごかったのは、このアルバム2枚だけではなく、この2枚の間にリリースされたオリジナル・アルバム未収録のシングル“ホワットエヴァー”、さらにはアルバムからカットされたシングルのカップリングに収録された一連のアルバム未収録曲と、いずれも名曲揃いだったことなんだよね。実際、この時期のB面曲を集めた裏ベスト盤もリリースされたくらいだしね。
そして、1997年リリースの3rdアルバム『ビィ・ヒア・ナウ』の辺りからはカップリング曲についてはほとんど語られなくなってしまったし、アルバムやシングル・カット曲自体の評価も下がってしまったしって感じになったからね…。
だから、最初に出たベスト盤は収録曲のほとんどが最初の2枚の時期の楽曲になってしまったんだよね。
そのオアシスの人気、実力がピークだったとされる96年8月に行われた大規模野外コンサートに題材を絞ったのがこの映像作品だ。
ぶっちゃけ、こんなにしっかりとしたドキュメンタリー作品だとは思わなかった。せいぜい、ライブ前とライブ後にちょこっと、ドキュメンタリー的な要素が入るだけだと思っていた。
なので、音楽作品として見ると物足りないとは思う。
ワンコーラス程度しか流れない楽曲がほとんどだし、中にはほんのちらっとしか流れない曲もある。日本とフランスでは異様に人気があるという(一体、日本ではこれまでにいくつのCMに使われたんだ?)“ホワットエヴァー”はドキュメンタリー・シーンのBGMとしては長々と流れているけれど、ライブ・シーンではちらっとしか出てこないしね。
フルコーラスで流れた“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”だって、途中で当時を振り返る人のコメントがボイスオーバーが入ってしまう。
なので、当時のライブ映像をたっぷりと見たいという人からすれば、中途半端でしかないと思う(音響効果は良かったけれどね)。
それから、オープニング・アクトのうちの1組として登場したザ・プロディジーがすごかったと言及され、メンバーの顔も映っているのに、ライブのシーンが流れなかったのはなんだかなって感じだったかな。まぁ、許可が取れなかったんだろうが。
それから、“ワンダーウォール”について作中で何度も触れながら、なかなか出てこないっていう演出はなんだったんだろうか?
大勢の観客がいるので、後方の観客にも楽しんでもらえるように大型モニター、つまり、ワンダーウォールを設置したというコメントが入ったのにかからない。
→25年後にどう評価されるかを考えないで作った意味不明な歌詞だといった感じのコメントが入ったのに、ファンが歌う様子が流れるだけでかからない。
→“ワンダーウォール”と“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”がほぼ同時期に作られたなんて、今考えるとすごいよねみたいなコメントが入ったのにかからない。
→で、やっと、ラストのまとめ的な部分で“ワンダーウォール”の演奏シーンが流れる…。
「トップガン」で、主人公とヒロインの感情の高まりに合わせて、“愛は吐息のように”がじらすような使われ方をしていたけれど、それを思い出してしまった。
それにしても、25年前とはいえ、洋楽のライブ映像を見ていると、もう日本ではロック系洋楽アーティストのライブを開催するのって無理なんじゃないかって気もしてくる。コロナが終息しない限りね。
音楽フェス「スーパーソニック」(これって、絶対、オアシスのデビュー曲を意識したネーミングだよね?)で、出演をキャンセルした洋楽アーティストがいたけれど、それって、やっぱり、洋楽ってシンガロング文化だからだよね。
MIXとかコールなどの文化があるアイドルやアニソンは別だけれど、一般の邦楽ではアーティストが“歌って”と言わない限りは、観客がシンガロングしてはいけないという暗黙の掟があるし、アーティストの中には堂々と“歌うな!”と言っている人もいるしね。
でも、洋楽ではシンガロングするのが当たり前だからね。欧米ではツアー活動を再開するアーティストが増えてきたけれど、それでも、日本公演を行うアーティストがほとんどいないのは、ワクチン接種が欧米より遅れているというイメージ(最近はそうでもないんだけれど)があることに加えて、日本の会場では観客の発声禁止(場合によっては着席鑑賞も)義務付けられていることが多く、アーティストとしては、そんな盛り上がらない状況ではライブなんかしたくないってのもあるんじゃないかなって気がする。
それにしても、このドキュメンタリーでは当時のファンの振り返りコメントがボイスオーバーされたり、再現映像がやたらと出てきたが、その内容を見聞きして気になったことがあった。
ライブに参戦した人たちが、当時は“ライブのチケットは今みたいにネット購入はなくて、並んで買うか、電話で買うしかなかった”とか、“SNSもなかったから、スマホで撮影することもなくて、みんな、ステージに集中して見ていた”とか語っていたし、現場には行けなかったものの、ラジオの中継を聞いていた人が“今の若い人は知らないだろうが、カセットテープでラジオを録音する時に収録する面を素早く裏返すコツがあるんだ”みたいな話をしていた。
結局、それって、今のアラフォーからアラフィフくらいのオアシスのデビュー当時から、このネブワース公演までの頃をリアルタイムで知っている世代が、当時は良かったよねって懐かしんでいるだけなんだよね。
つまり、エリートになれなかった。というか労働者階級出身で、いわゆる“親ガチャ”のために、エリートになるチャンスすら手にすることができなかった現在アラフォーからアラフィフの人が10代、20代の頃はまだ希望があったよねと懐古モードに入っているだけってことなんだけれどね。
そして思う。結局、英国だろうと日本だろうと、世界的に(少なくとも先進国やそれに準じた国では)この世代って、貧乏くじを引かされているんじゃないかって気がするんだよね。
この作品の舞台となっている1996年の頃は、アラフォーからアラフィフになれば、自分は偉くなっていると思っていた。
でも、世界的に50代、60代になっても現場を退かない人が増えたから、いつまで経っても自分たちは下働きのまま。
そして、デジタルネイティブの若者とは違って、自分たちは思春期の頃まではアナログ生活だった。だから、若者のように簡単にデジタル機器を使いこなせるわけでもない。でも、下働き生活だから新しい機器の使い方を常に学習しなくてはいけない。指示しているだけの上の世代のようにはいかない。
そんな世の中が変動していく過渡期に社会人になってしまったために苦労が多かった世代が最後に青春を楽しめたのが、90年代半ばだったってことなんだろうね。
そして、そういう世代の中では数少ない発信力を持つことができた人、たとえばマスコミとか音楽業界で働く人たちが、自分たちが最後に青春を謳歌できた90年代のエンタメを再評価するムーブメントを起こすようになったって感じなのかな?
90年代の洋楽の世界では、オルタナやヒップホップ、カントリー、エレクトロニカなんてあたりが主流になり、80年代洋楽に比べると、暗いとか、メロディがないとか言われていたけれど、最近は結構、再評価されるようになってきているような気もする。
洋楽ではオリヴィア・ロドリゴとかビーバドゥービー、邦楽では羊文学とかPEDROといった90年代オルタナの影響を感じさせる若いアーティストが多数出てきているのもその流れなんだろうね。
それにしても、改めてこの96年のオウェイシス(わざと言ってみた)のライブで披露された楽曲を聞いてみると、本当、きちんと歌詞を覚えていないものもあるものの、ほとんどの楽曲をなんとなく歌えるんだよね(コロナ禍なので頭の中で歌う感じにはなるが)。
ダウンロードやストリーミングが主流になった2000年代後半以降の洋楽ヒット曲や、ダウンロードやストリーミングに逆行する形でガラパゴス状態でCDが売れている00年代後半以降の日本のジャニーズや秋元系アイドル、アニソンでは25年後になんとなく歌えるヒット曲なんてないからね。
ダウンロードやストリーミングはイヤホンで聞くことが多いし、日本で今売れているCDというのは、あくまでもグッズとして買われているだけで実際には再生されていないものがほとんどだからね。
やっぱり、再生機器のスピーカーから出たものが空気を伝わって耳に届いた音楽というのは、聞いた人の頭に残っていくけれど、そうでない音楽はあっというまに消費・消耗して終わりってことなんだろうね。
ちなみに私が好きなオウェイシス曲トップ5は以下の通り。
①ドント・ルック・バック・イン・アンガー
②ワンダーウォール
③ホワットエヴァー
④アクイース
⑤カモン・フィール・ザ・ノイズ(カバー)
結局、このネブワース公演ではないが、オウェイシスの名曲・名演を選ぶと、96年までになるんだよね。要は最初の2枚のアルバムまでの時期の楽曲ってこと。