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NOPE/ノープ

海外と日本での人気格差が大きいコンテンツ、俳優、ミュージシャンなどというのはいくらでもいる。

日本発のコンテンツ「ソニック」の映画最新作は世界的には大ヒットとなったのに、日本では大コケ状態で公開開始から数週間で既に都内では字幕版での鑑賞が不可能になってしまった(事実上の打ち切り)。

カナダ出身のラッパー、ドレイクはBillboard HOT 100内へのチャートイン楽曲数のみならず、TOP10、TOP20、TOP40内への最多ランクインも記録している。でも、日本ではアルバムがオリコンの総合チャートの50位内に入ったことは一度もない。

本作のメガホンをとったジョーダン・ピール監督もそうした内外人気格差が大きいセレブの1人と言っていいと思う。

日本では黒人映画監督作品の人気がないというのは確かにある。
スパイク・リーはシネフィル、映画マニアなら知らない人はいないが、ライト層でも知っている作品なんて皆無なのでは?多分、「ドゥ・ザ・ライト・シング」や「ブラック・クランズマン」ですら知らないという人も結構いると思う。
故ジョン・シングルトンなんて尚更、知られていないと思う。「ワイスピ」シリーズの1本を監督しているのにね…。
コメディ系のタイラー・ペリーの監督作品なんて、日本では1本も劇場公開されていない…(俳優として出演した作品は何本か公開されているが)。

唯一、男くさい映画を得意とするアクション系のアントワーン・フークア監督作品はコンスタントに日本公開され、日本でもファンが多いけれども、それでも、「イコライザー」シリーズや「マグニフィセント・セブン」などは興収3億円台しかあげていない(「キング・アーサー」が興収21億円と大ヒットしたのは、フークア監督の作風というよりかは、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーの作風が支持されただけだと思う)。

ジョーダン・ピール監督作品はこれで3作目だが、アカデミー作品賞にノミネートされた2017年の1作目「ゲット・アウト」も2019年の2作目「アス」も1億円台の興収しかあげていない。

勿論、これには日本では洋画ホラーがヒットしないというのも影響しているとは思う。
「IT」シリーズとか「シックス・センス」が例外中の例外であって、日本では洋画ホラーというのは当たらないんだよね。「エルム街の悪夢」や「スクリーム」シリーズですら、日本での劇場公開が見送られた作品があるくらいだからね。

なのでピール監督作品は、黒人監督映画、ホラー映画と日本では当たりにくい要素が重なっているのだから、ヒットしなくても仕方ないんだけれどね。

それでも、ジョーダン・ピール節というものは徐々にではあるが認知されているのは確かであり、どうやら、本作はピール監督作品初の興収2億円突破となっているようだ。、

まぁ、衝撃的なオチが待っているピール作品は、かつて、「シックス・センス」などのどんでん返し作品で人気となったM・ナイト・シャマランのアップデート版みたいな受け止められ方なのかな?でも、シャマラン作品ほど日本ではヒットしていないから、やはり、黒人監督による黒人キャスト中心の作品というのは日本での興行においては不利なのかな。

まぁ、「ゲット・アウト」はそれなりに面白いと思ったけれど、「アス」は風呂敷を広げすぎて、ダラダラした映画だなという感じだったので、そんなに期待せずに本作を見ることにした。

しばらくは、“一体、自分が見ている映画はなんなんだろうか?”と疑問だらけだった。

主人公兄妹が映画などの撮影用の馬を飼育する牧場を経営しているという設定はいるのか?
元人気子役のアジア系が経営するテーマパークを舞台の一つにする必要はあるのか?
しかも、このアジア系が子役時代に経験した大惨事(シットコムの撮影現場でチンパンジーが出演者を殺害するというもの)の場面を長々と描く必要はあるのか?

といった具合に見ていて、頭の中は?マークだらけになった。
ちなみに、この元子役が「ミナリ」のスティーヴン・ユァンで驚いた。でも、このキャラの扱いはかなり酷かった…。

さらに、予告などを見た限りでは、UFO(最近はUAPと呼ぶらしいが)に襲われる話らしいというイメージだったので、シャマランの「サイン」の黒人版みたいに思っていたが、このUFOなりUAPなりに見えるものが実は生物で、しかも、目があったものを攻撃して食べるという設定だということが明かされたので驚いてしまった。
これって、音をたてたら襲われてしまう「クワイエット・プレイス」と同じじゃん…。

それから、「ゲット・アウト」や「アス」同様、今回も人種差別ネタを前面に出してくるのかと思っていたが、実際はそうでもなかった。

妹がレズビアンらしいということは台詞であっさりと言及されるだけだし、テーマパークの経営者がアジア系であることにもほとんど触れられていないし、兄妹と協力して謎の生命体と戦うことになる技師がヒスパニックらしいことに関しては(どうやら、演じた俳優はヒスパニックのみならずフィリピン系の血も引いているらしい)完全に語られていない。

それどころか、終盤には白人、しかも、年のいったカメラマンまで兄妹や技師の仲間に加わっている。過去2作のように黒人差別問題を前面に出していないことは明白だ。
せいぜい、ハリウッド黎明期から現場には黒人がスタッフ・キャストとして参加していたというエピソードが繰り返し言及されるくらいだ。

というか、この映画は人種差別問題よりもコロナ禍で困窮した映画界、エンタメ界へエールをおくることを目的として作ったのではないかという気もする。
終盤、白人カメラマンがすごい映像を撮ることと謎の生物を倒すことという両方の目的を達成するために命を賭して行った作戦なんて、“映画バカ”と言いたくなるような行動で、映画ファンなら感動せずにはいられないしね。

また、ゴシップ系メディアTMZの記者の描かれ方の酷さを見ても、そうした映画界、エンタメ界を守ろうというメッセージを感じることはできる。

まぁ、ポリコレ要素が全くないわけではないけれどね。主人公と思われた兄貴ではなく、レズビアンと思われる妹が“怪物”を倒したのは明らかに、ポリコレ仕様だと思うしね。
というか、この妹がバイクに乗っているシーン、「AKIRA」をオマージュしていたよね?

そして思った。国や人種が違っても、兄妹って複雑な関係なんだなと…。
兄妹って、兄弟や姉妹、姉弟とは明らかに違うギクシャクした関係になりやすいんだよね。
女性の方が一般的に男より精神年齢が高いとされることも影響しているんだろうけれど、妹はどうしても、兄貴を幼稚なもの、ダサいものと見てしまうからね。本作でも、自信のない兄貴と、自己PRに余念がない妹みたいなキャラ設定だったしね。
だから、妹萌えのアニメとか兄妹の近親相姦を描いたAVなんてありえないんだよね。

それにしても、ジョーダン・ピール監督作品って既成楽曲をおどろおどろしく使うの好きだよね。
本作でも、停電などによって音楽が途切れたりする描写があったけれど、音楽の使い方が相変わらず上手いなと思った。

まぁ、コリー・ハート“サングラス・アット・ナイト”が流れたのには驚いたが…。


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