アントマン&ワスプ:クアントマニア
本作「アントマン&ワスプ:クアントマニア」は去年7月公開の「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」以来となる日本の映画ランキングで首位に立った洋画作品だ。
「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」も「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」も1位になれなかったのに、続編ものであるということも、ディズニー配給作品であるということも同じなのに、トップに立てたのは本作だけなんだから、本当、日本というのは特殊な市場なんだなというのを改めて実感する。
とはいえ、オープニング興行収入は「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」の方が上回っているし、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」はコロナ禍になってから日本公開されたディズニー配給作品では最高となる興収42億円超をあげている。だから、本作が特別ヒットしているというわけではないんだけれどね。
2000年代半ばより日本の映画興行は邦高洋低となっているというのもあるが、それを抜きにしても日本の映画ランキングというのは邦画が上位に来やすいようになっている。
それは世界的にはスタンダードである興行収入ではなく観客動員数で発表されているからだ。
90年代まで日本は映画のヒットの度合いを興収ではなく、配給収入という非常に曖昧な数字で発表していたから、興収ベースのランキングを発表できなかったというのもあったとは思う。
配収はチケット売り上げの総額である興収から興行サイド(映画館)の取り分を除いた配給会社が得る収入のことだ。
一般的に配収は興収の6割程度と言われていたが、明らかに数字を操作しているのではないかと思われるケースも見受けられた。
90年代前半までは東京23区など大都市では1本立て、地方では2本立てという形式で公開される作品が多かった。
普通に考えれば、2本立て公開された地域での配収は単純に2作品で2分割されるべきだと思う。だから、大都市部であげた数字がいくら大きいとはいえ、片方の作品が配収50億円超の年間1位レベルのヒットになり、もう片方の作品が数億円も稼げない大コケ作品になるなんてことはありえない。でも、そういう数字で発表されている作品があったんだよね。
また、日本には東宝・東映・松竹など配給と興行の両方を担当している映画会社も多い(興行部門は子会社が担当としている会社もあるとはいえ実質的には同一企業と言っていいのでは)。つまり、極端な話、興収の全額を配収にすることだってできるんだよね。
そんな不透明な配収ベースでヒットの度合いを発表されても信頼性に乏しい。というか、週末にあげた興収を興行側と配給側でどのように分配したかなんて月曜日には確定しないから速報できない。だから、毎週のランキングは配収ではなく観客動員数で発表するようになったのではないかと推察する。
そして、2000年度からヒットの度合いを興収ベースで発表するようになったが、何故か、毎週のランキングは観客動員数ベースのままで継続されることになった。
その背景にあるのは観客動員数で発表した方が邦画をヒット作に見せられるからだと思う。
一般的に洋画、特にハリウッド大作の観客は娯楽系だと中学生〜50代、ドラマ系だと20〜60代が中心となる。これに対して邦画はファミリー向けアニメは小学生以下とその保護者、それ以外のアニメやジャニーズなどアイドル出演映画は10〜30代、時代劇や文芸ものは40代以上がコアな観客層となる。
つまり、邦画は小人料金や学生料金、シニア料金など入場料の安い観客の方が多いということだ。興収ベースだと一般料金の入場者が多い洋画が有利になってしまう。
なので邦画がすごいと粉飾をするために観客動員数ベースのランキングが続けられているのだと思う。
とはいえ、洋画がヒットしなくなっているのも事実ではある。だから、今回、「アントマン&ワスプ:クアントマニア」がランキング首位に立てたのは、邦画に強力なライバルがいなかっただけのような気もする。
独走状態だった「THE FIRST SLAM DUNK」は年末年始モードが終わったのにあわせて下降態勢に入ったし、「レジェンド&バタフライ」はキムタクファン中心の典型的な初動で稼ぐタイプの興行だし、「鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」は所詮、テレビシリーズ3話をスクリーンでかけただけのイベント上映だからロングラン上映するものでもない。
「ドラえもん」や「シン・仮面ライダー」といった邦画の話題作が公開される3月までの繋ぎの時期だから、隙間をぬって首位を獲得できたというような気もする。
というか、「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」と本作の間でランキング1位となった邦画実写作品は「レジェンド&バタフライ」しかないんだね…。結局、洋画だろうと邦画だろうと実写作品はヒットしにくいってことなのかな。
そんなわけで、久々のナンバー1洋画となった本作を見た。
一言で言うとつまらない作品だった。
というか、ここ最近のマーベル映画はどれもつまらない。それは、マルチバース(多元宇宙論)を扱ったものが多いからだ。アニメーション映画の「スパイダーマン:スパイダーバース」やマーベル・シネマティック・ユニバースにカウントされるソニー・ピクチャーズ作品「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」はメタな要素も含めてよく練られた構成の作品となっていた。
しかし、その後のディズニー配給のマーベル映画におけるマルチバース要素はシリーズを続けているうちに矛盾が出てきた設定やスタッフ・キャストの変更による違和感などをごまかすために、要は単なるシリーズ延命のためにやっているようにしか思えないんだよね。
というか、本作って「アントマン」を名乗る必要性のほとんどない作品だよね。
人間やクリーチャー的な人種、機械系の者などが共存したハイテク社会を舞台に、支配層と反乱軍的な者たちが戦う話って「スター・ウォーズ」シリーズにしか見えないんだけれど…。
というか、ディズニー作品になって劣化したエピソード7以降の「スター・ウォーズ」シリーズ(「ローグ・ワン」を除く)をさらに劣化させたような酷い出来だ。
しかも、ディズニー版「スター・ウォーズ」シリーズは出来は酷くてもポリコレ脳の連中にはある程度、気に入られていたけれど、本作はそうした人たちにも酷評されるタイプの作品になっている。悪役は黒人だしね。何がやりたいんだかって感じだ。
ポリコレと言えば、アジア人に対する差別的言動が問題となったビル・マーレイが、まるでそんな問題などなかったように普通に出ているのは何故?
もしかすると、ディズニーの連中というか、ハリウッドの連中の言うポリコレの対象は、黒人であり、アジア人は関係ないってこと?
アジア人に対する差別的言動が問題視されたビリー・アイリッシュの件もいつの間にかなかったことになっているしね…。
本当、腹立つ!