「中之島文楽」。2つの「道行」から変らぬ愛のカタチを見つけて
今月14日(金)と15日(土)の2日間、大阪市中央公会堂1階大集会室で
「中之島文楽」が開催される。
10月21日(金)日本橋の国立文楽劇場で発表記者会見が開かれ、太夫の竹本織大夫さん、三味線奏者の鶴澤燕三さん、人形遣いの吉田玉男さん、吉田一輔さんが出席した。
8回目となる中之島文楽は「初心者にも人形浄瑠璃文楽を身近に感じてもらおう」と企画されたもので、3年ぶりにコロナ禍前の規模に戻して開かれる。
光栄にも幕間のトークコーナーの司会を拝命した。直木賞作家の大島真寿美さんをスペシャルゲストに迎え、1日目は竹本織大夫さんと、三味線の鶴澤燕三さん。
2日目は人形遣いの吉田玉男さん、吉田一輔さんがそれぞれ参加。
終演後のフォトセッションタイムもあり、気軽に楽しく鑑賞できるプログラムだ。
トークコーナーについて、人形遣いの吉田一輔さんは「喋らなくて良い人形遣いを選んだのに。2日目はお喋りが得意でない2人でトークします。」と会場の笑いを誘った。
三味線奏者で友人の鶴澤寛太郎くんもそうだが、技芸員さんにはお喋りが達者な方が多い。芸にまつわるアレコレや、文楽の楽しみ方など生の声を聞くことができるのは貴重な機会だ。
演目は恋路を描いた「道行」の名作2本。
「道行」とは、登場人物が目的地まで行く道のりを文学的に表現した物語のこと。三味線奏者と太夫がずらりと並んで、華やかに演じられることが多い。
1本目は「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」から「道行 恋苧環(みちゆきこいのおだまき)」。
時代もの、特に王代ものの名作で、舞台は大化の改新。蘇我入鹿を倒すために力を尽くす藤原鎌足・不比等(淡海)親子と、その一派の活躍を描く。
求女(もとめ)という男性に恋をした橘姫と酒屋のお三輪の恋のバトルが繰り広げられる。苧環の白い糸と赤い糸が交錯する三角関係。2人の女性の恋心を弄ぶ求女の正体とは!?
そして迎える結末を知りたい方は、国立文楽劇場での公演もご覧いただきたい。
2本目は言わずと知れた名作「曾根崎心中」。「天神森の段」は、お初と徳兵衛が心中するまでの道中を名文で描く。
暗い天神の森は、追い詰められた2人の終着の地。死へと向かう「道行」は、悲しくも美しい愛の逃避行だ。
中之島の中央公会堂は非常に音響が良く、西洋劇場でありながら和楽器の演奏が美しく聴こえる。
この空間に燕三さんの繊細な三味線の音色と、竹本織大夫さんの淀みない美声が響き渡れば、吉田玉男さん、一輔さんが操る人形たちは、だんだんと表情豊かに、自分の意思を持って動いているように見えてくるはずだ。
1つの公演の中で、同じメンバーが2つの道行を上演するというのは珍しい。太夫、三味線の演じ分けも聴きどころ、見どころだ。
「旋律の美しさ、三味線の手数の綺麗さ、太夫の美声、淀みの無い声を楽しんでほしい。」と三味線奏者の鶴澤燕三さん。
人形遣いの吉田玉男さんは「分かりやすいように、少し大きめの振りをするかも。」と初心者への配慮を忘れない。
吉田一輔さんは「音楽的にも美しいし、華やか、例え内容が分からなかったとしても引き付ける力がある演目。」とした上で「師匠(吉田蓑助)が引退されてから1年半ですが、師匠が遣った時の動きがより鮮明に浮かんでくるようになった。」と、華やかで可憐なお初を演じた三代目吉田蓑助さんへの思いを口にした。
そして竹本織大夫さんは「道行はオペラで言うところのアリア。中之島中央公会堂という西洋劇場で人形浄瑠璃を観るのは魅力的。
初めてご覧いただくお客さまにもお楽しみいただける演目だと思う。
物語に続く前の話に興味を持って、国立文楽劇場にも足を運んでいただきたい。」と意気込みを語った。
中之島文楽は10月14日、15日の2日間、中之島の大阪市中央公会堂で開かれる。
14日は午後6時開演。15日は午後2時開演。
料金は前売り¥1,800(当日券¥2,000)。
高校生以下は前売り¥500(当日¥700)と大変お得なお値段となっている。
中之島の公会堂から、ちょっと歩けば曽根崎のお初天神。御堂筋を真っすぐ行けば、道頓堀にも出られる。
芝居小屋が立ち並び、色とりどりの幟が揺れていた江戸時代の大阪に思いを馳せつつ、令和の今も変らない愛の形を見つけにいらしてみてはいかがだろうか。