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2020年 俺的上半期ベスト・アルバム(その2)

前回に引き続き、2020年上半期ベストの残り10枚を紹介していきます。今回も「まずはこの曲!」と思う動画も貼っておきますので、気になったらアルバム単位で聴いてみてください。

● 「All in One」  Jaunt

カナダはトロントを拠点に活動する、男女混合6人組によるデビュー作。最初に「Nostalgia For The Present Moment」を聴いて、男女混声ボーカルの絡みがとにかく心地よく、シネマティックな曲構成なども含めてどこかプリファブ・スプラウトを彷彿とさせつつ、シンセサイザーのキッチュな使い方はメトロノミーっぽくもあるなあと、つまりは俺の好きな要素てんこ盛りやん!と思ってアルバムを聴いてドハマリしました。

オープナーかつ表題曲「All in One」の夢見心地な展開も、まさにプリファブ。その後も、オクターブ・ユニゾンや対位法、平行ハモリなど駆使しながら進んでいくボーカリゼーションが身悶えするほど最高です。しかも、ただポップなだけじゃなくてチープなエレポップ、テクノポップっぽい曲なんかもあって、全体的にはポール・マッカートニーの『McCartney II』的な宅録ポップ要素もある(「True Affections」とかアコースティック版「Wonderfull Christmas」みたい)。つまりは俺の好きな要素てんこ(以下、無限ループ)。

● 「Beginners」 Christian Lee Hutson

クリスチャン・リー・ハットソンは、カリフォルニア州ロサンゼルス出身のシンガー・ソングライター。最初のキャリアはパール・チャールズと結成したザ・ドリフトウッド・シンガーズで、そこでは今よりももっとルーツ寄りのアメリカーナ・サウンドを奏でていました。

今作は2014年に『The Hell With It』でソロ活動をスタートした彼のサード・アルバム。先行シングル「Northsiders」は、フィービー・ブリッジャーズがプロデュースを務めて話題になりましたが、今作でも10曲中4曲で彼女がコーラスを担当しています。しかも、「Get The Old Band Back Together」と「Single For The Summer」ではルーシー・ダカスもコーラスで加わるという。それもそのはず、クリスチャンはボーイジニアスのアルバムにも参加していて、アルバム最後の曲「Ketchum, ID」にはソングライターとして名を連ねていたんですよね。ちなみに上で紹介したPVには、フィービーもチョイ役で出演しているので確認してみてください。

で、内容なんですが最高としか言いようがない。アコギの弾き語りを基調に、最小限の楽器で支えたサウンドスケープは、フィービーやスフィアン・スティーヴンス、メロディラインはジョン・ブライオンあたりを彷彿とさせます。あと個人的にはPredawnの『Absence』も思い出しました。特に「Lose This Number」の大太鼓の入り方、アコギのアルペジオなど、Predawnの「Autumn Moon」と響き合うものがあると思います。

● 「Fantasize Your Ghost」 Ohmme

シカゴを拠点に活動する、シーマ・カニンガムとメイシー・スチュワートによるプロジェクト。7拍子のトリッキーなリズムの上を漂う、呪術的かつ幽玄なコーラス・ワークがラッシュ(コクトー・ツインズのロビン・ガスリーに見初められ、4ADからデビューした男女混合4人組バンド)を彷彿とさせます。本作2曲目「Salling Candy」のパンキッシュな雰囲気とか、ラッシュの「Downer」を思い出したのは僕だけでしょうか。かと思えば「The Limit」の幾何学的なコーラス・ワークはダーティー・プロジェクターズ以降の感覚と言えなくもない。ポップだけど、どこかアヴァンギャルドな姿勢は、キング・オブ・ルクセンブルクことサイモン・ターナーがプロデュースを手掛けた、él Recordsの肝いりデュオ、バッド・ドリーム・ファンシー・ドレスなども連想しました。話は逸れますが、上で紹介した「Ghost」のPVに出てくるオバケは、ルーニー・マーラが主演した映画『ア・ゴースト・ストーリー』のオバケっぽいですよね。

● 「Punisher」 Phoebe Bridgers

オバケといえば、ファースト・アルバム『Stranger In The Alps』の“オバケ・ジャケット”で知られる(?)フィービー・ブリッジャーズの新作も素晴らしかった。上で紹介したクリスチャン・リー・ハットソンをはじめ、イーサン・グルスカやブレイク・ミルズら、今年に入って良質なアルバムをリリースしているアーティストが参加し、ベター・オブリビオン・コミュニティ・センターでのコラボでもお馴染みコナー・オバーストが作曲クレジットに名を連ね、ジム・ケルトナーやウォーペイントのジェニー、ヤー・ヤー・ヤーズのニック・ジンナーなども客演するめっちゃ豪華な内容です。

とはいえ前作よりも、グッと渋みを増したソングライティング&サウンドは聴くほど味が出そう。これを書いているのは本作がリリースされた直後なのですが、すでにリピートしまくりです。フォークやカントリーに根ざしたアコースティックな楽曲を基調としつつ、ホーン・セクションを導入した躍動感あふれる「Kyoto」や、ヴェルヴェッツばりにローファイな「I See You」みたいな曲もあり、ベター・オブリビオン・コミュニティ・センター、ボーイジニアスを経て進化した、フィービーの「今」が封じ込められています。アルバム最後に収録された、クリスチャン・リー・ハットソン、コナー・オバースト、マーシャル・ボアとの共作「I Know The End」も圧巻です。

ちなみに今回、BLMで全米が揺れる中リリースをしたことについて本人はこんなツイートをしていました。

それからPitchforkに掲載された、「本作に影響を与えた10の事柄」も興味深かったです。ASMR動画から影響を受けたミュージシャンは少なくないはず。

● 「En Garde」 Ethan Gruska

姉バーバラとのポップ・デュオ、ザ・ベル・ブリゲイドでの活動でも知られるイーサンのソロ第2作。前作『Slowmotionary』(2017年)は、ピアノの弾き語り中心のソング・オリエンテッドな内容でしたが、上に紹介したフィービー・ブリッジャーズをはじめ、モーゼス・サムニー、リアン・ラ・ハヴァスが参加した本作は、ポール・マッカートニーやスフィアン・スティーヴンスにも通じるメロディ・センスはそのままに、よりコラージュ感が増しためくるめくサウンド・プロダクションがとにかく楽しくて。ポップネスとエクスペリメンタルな要素のバランスが絶妙なんですよね。1曲の中でジャンルを横断しながらプログレッシヴ/サイケデリックに展開していくアレンジなど、強いていえば、前回の記事で紹介したナムディの『BRAT』に通じるかも。うーん、ちょっと違うか。個人的にはジョン・ブライオンの幻の傑作ソロ『Meaningless』(2001年)を思い出しました。

あ、あとフィービーが出演している上の動画最高なんで是非見てみてください。

● 「I Was Trying to Describe You to Someone」 Wednesday

1曲目「Fate Is...」のギター・サウンドでヤラレました。2017年にKarly Hartzman(Vo, Gt)とDaniel Gorham(Gt)により結成され、現在はMargo Schultz(Ba)とAlan Miller(Dr)の4人組、ノース・カリフォルニア州アシュヴィル出身のウェンズデイによる、現ラインナップでは初のアルバム。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ソニック・ユース、ダイナソーJr.、ピクシーズあたりを彷彿とさせる正統派シューゲイズ〜オルタナ・サウンドと、ファルセットと地声を巧みに使い分けながらエモーショナルに歌い上げるヴォーカルがとにかくグッときます。特に「November」という曲は切なくて最高。

それと不思議なのは、ボーカルのKarlyがSpotifyに上げている「Winter」というタイトルのプレイリスト。ギャラクシー500やヨ・ラ・テンゴらに混じって、Asa-Chang & 巡礼はまだ分からなくもないのだけど、なぜかWinkや早見優の曲までセレクトされてるんですよ(笑)。どういうことなのか、いつか機会があればインタビューしてみたいです。

● 「Saint Cloud」 Waxahatchee


ケイティー・クラッチフィールドのプロジェクト、ワクサハッチーは前作『Out in the Storm』が最高で、ピクシーズの遺伝子を感じさせるバンドを紹介したこちらの記事でも紹介したのですが、今作は前作に比べてレイドバックしたというか、よりフォーク〜カントリー色の強い内容となっています。レコーディング・メンバーも一新しているので、これは意図的な方向転換でしょう。前作のオルタナな感じが大好きだったのですが、これはこれで悪くない。というか、ケイティーの声質やメロディセンスがより前に出ていて長く聴き込めそう。

モリー・マタロンが撮影したアルバム・ジャケットも大好き。ちょっとスティーブン・ショアやウィリアム・エグルストンを彷彿とさせますね。上で紹介している、ミツキの「Nobody」やジェイ・ソムの「One More Time, Please」なども手掛けたアンドレイナ・バーン監督によるPVも素晴らしいので観てください。

● 「Song for Our Daughter」 Laura Marling

クロスビート誌に寄稿した2017年の年間ベストでは、彼女の前作『Semper Femina』を入れたのですが、今作も素晴らしい。60年代、マーティン・ルーサー・キングとともに公民権運動に参加した詩人/ 作家/ 女優のマヤ・アンジェロウによる著書『Letter to My Daughter』(2009)年にインスパイアされ、「架空の娘」に向けて書かれたアルバムです。ちなみに「The End of the Affair」は、イギリスの作家グレアム・グリーンの同名小説からタイトルを拝借しているとのこと。自宅の地下にあるスタジオでデモを制作し、彼女の長年のコラボレーターであるイーサン・ジョンズとの共同プロデュースによりレコーディングが行われました。また、「The End of the Affair」は前作のプロデューサー、ブレイク・ミルズとの共作。ここにもまたブレイク・ミルズ。「名盤の影にブレイク・ミルズ」ありですな。

「Alexandra」はレナード・コーエンの「Alexandra Leaving」、「Blow By Blow」や「For You」はポール・マッカートニーの作風からの影響を本人が認めていますが、他にもローリング・ストーンズやルー・リード、ジョニ・ミッチェルらのエレメントを受け継いだ確かなソングライティング能力が彼女の魅力だと思います。

● 「Abracadabra」 Jerry Paper


前作『Like A Baby』(2018年)でもポップマニアっぷりを発揮していたJerry Paperですが、今作はより「宅録っぽさ」が増していて最高。聴きながら連想するのはポール・マッカートニー、ブライアン・ウィルソン、ビル・ウィザース、細野晴臣、マック・デマルコ、Yogee New Waves……などなど。ソウルやジャズ、ソフトロック、AOR、アヴァンポップ、エキゾといったジャンルの壁を、ゆるゆると横断しながら紡ぎ上げた至極のポップ・タペストリー。嫌いなわけがない。ジャケットはもちろん、ダニエル・ジョンストンのオマージュですよね?

● 「græ」 Moses Sumney

前作『Aromanticism』からおよそ5年ぶり、モーゼス・サムニーによる待望のセカンド・アルバムは、今年2月にデジタルでリリースされた12曲に新曲8曲を加えた2部構成。ノースカロライナ州アシュビルに拠点を移し、そこで書かれた楽曲をもとに、サンダーキャットやラシャーン・カーター、ミゲル・アトウッド・ファーガソンら数多くのアーティストとコラボしながら制作された意欲作です。白と黒の間のグラデーションを意味するタイトル通り、ジャズやフォーク、ソウルなど様々な要素が入り混じったサウンドは前作以上にヴァラエティに富んでいて、まるでモーゼスの脳内に迷い込んでしまったようなめくるめくサイケデリアに目眩がします。

実はモーゼス・サムニーにこのタイミングでインタビューをさせてもらっていて、『CDジャーナル』次号に掲載される予定なのでよかったらチェックしてみてください。

そんなわけで、2回にわたって紹介してきた上半期ベストアルバム。楽しんでいただけたら幸いです。世の中いろいろありますが、下半期も頑張って乗り切りましょう!

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