どんべえメモリアル日記⑦ 『どんべえの受難〜後悔と懺悔の17年〜(後編)』
手作りごはんによってなんとかどんべえの信頼を勝ち取った我々だったが、初めて犬を迎えた「ビギナー」が飼い主となったどんべえにとっては、その後も「受難」は続いた。
今思い返せば笑える話も、彼が亡くなって5ヶ月経った今になっても思い出すたび冷や汗が出るエピソードもある。懺悔の気持ちと、我々のような失敗をどうか他の方にはしていただきたくないという思いも込め、前編と後編に分けてここに記していこうと思う。
どんべえ、歯が欠ける
どんべえを向かい入れて初めて知ったのは、犬には「噛む」欲求があり、ストレス発散や、飼い主と引っ張り合いをするための「噛んで遊ぶおもちゃ」が豊富にあるということだ。どうぶつの形を模したモノや、骨の形をしたモノ、ボールやフリスビー型のモノまで形もさまざまで、素材も繊維やゴムなど、硬いものから柔らかいものまである。
どんべえは顎の力が強いのか、ヤワなおもちゃなど一瞬にして破壊してしまう。これまで一体どのくらい「噛むおもちゃ」に費やしただろうか。
そんな中、一時期よく使っていたのが「牛の蹄」だった。おもちゃというか、犬のオヤツとしてペットショップによく売っているものだ。硬いし、きっとスルメみたいに味もあるのだろう、どんべえはこれがお気に入りで、暇さえあれば恍惚の表情でガリガリやっていた。
そんなある日のことだ。いつものように居間で仕事をしている傍ら、当時5歳のどんべえが蹄ガリガリに夢中になっていた。ところが急に「ギャン!」と泣いたので、なにごと?と思ってよく見ると、床に小指の爪くらいの大きさの、白い物体が落ちている。……どんべえの歯だ。どうやら蹄を齧りすぎて、歯の一部が欠けてしまったのである。
「ギャン!」と泣いたあとは特に痛がっていなかったものの、もちろん出血もしているし慌てて病院へ連れて行った。前々回のnoteにも登場した、ちょっと癖の強い熱血系の獣医師がいるところだ。
歯の欠けた場所を見せ、蹄のオヤツを与えていたことを話すと彼は大きく溜息をついた後、おそらく怒鳴りつけたい気持ちを抑えて我々にこんこんと説教をしたのだった。
「これねえ、ペットショップとかで勝手に売ってるんだけどさ、そもそも犬の歯のエナメル質ってそんなに硬くないんだよ? 牛の蹄なんかより、よっぽど柔らかいの。こんなのあげてたら歯が欠けてもおかしくないんだから、二度とあげちゃダメだよ!」
すみません…と謝ったものの、「そんなもんを売ってるペットショップってなんなんだよ」という憤りも当然あった。が、今はそれどころではない。
歯の専門治療医へ
「これ、欠けたところをちゃんと洗浄して詰め物を入れないとダメだね。全身麻酔が必要だし、それなりの技術が必要だから専門の病院を紹介します」
そうおっしゃっていただき、埼玉県上尾市にある歯科治療専門の『フジタ動物病院』で診てもらうことになった。藤田先生によれば、どんべえの歯は神経ギリギリのところで欠けていて、念のため神経を抜いて、そこをしっかり洗浄した後で詰め物をする、しかし雑菌が100パーセント除去できているか分からないので、半年ほど定期的にレントゲンを撮って確認しましょう、ということだった。
全身麻酔の手術も無事に済み、その後は雑菌など繁殖することなく亡くなるまで詰め物も持ってくれた。とはいえ、我々の情報不足によってどんべえには本当に大きな負担をかけてしまった。まだ若かったとはいえ、全身麻酔と手術、定期的なレントゲン検査(この時も鎮静剤を使用した)などしんどかったと思う。
ちなみに蹄のオヤツは今も普通にペットショップで売られている。飼い主の需要があること、コストを抑え利益も大きいこと、規制の緩さなどがその要因らしい。しかし獣医が推奨していない代物を、なんの注意喚起もなく売っているのはどうかと思う。
これを読んだ飼い主さんで、もしワンちゃんに牛の蹄を与えているようであれば、どうか注意してもらいたい。
温室育ちの箱入り息子
他にも、どんべえには受難ともいうべき体験を色々させてしまった。虫が嫌いで、部屋の中にハエ1匹入ってきただけでブルブル震える彼を、いっときよくキャンプへ連れて行き、ほとんど寝られない夜を過ごさせてしまったり(そのうち慣れるだろうと思ったけど、最後までダメだった)、一度ものすごい嵐が来て「テントが吹っ飛ばされるんじゃないか?」という中、2人と1匹で縮こまって一晩を過ごしたり、朝霧ジャムやTAICOCLUBのような、犬連れOKの野外音楽フェスへ連れて行ったはいいが、重低音におののき何度も脱出を図ろうとするくらい怖い思いをさせてしまったり……。
そもそも「温室育ちの箱入り息子」で、車に乗るのも嫌いだったんだよな。それでもよく付き合ってくれたと思う。
唯一どんべえが好きだった登山も、少し高度のある山へ連れて行った時は、張り切りすぎて疲労と酸素不足で舌が紫色になってしまい、青ざめたことがあった。すぐに元に戻ったし、無事に下山できたので良かったものの、「ワンちゃん、元気に歩いて偉いね。飼い主さんより頑張ってるね」なんてすれ違う登山客に声をかけられ、我々もどんべえも調子に乗りすぎたのだ。
こんな未熟な飼い主と、17年と11ヶ月も一緒にいてくれて本当にありがとな。
近況報告です。
どんべえのフォトブック制作が、いよいよ佳境に入ってきました。今月後半には仮の完成品が届き、それで色味などをチェックして、完成版を何冊か印刷しようと思っています。その制作過程はまた追ってお知らせしたいと思います。
それと、先週から保護猫と暮らし始めました。名前は「ぶんちゃん」です。その話もおいおいできたらいいなと思っています。
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