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日テレの”インパクト投資”について(建設的に)思うこと

(トップ画像は日本テレビWebサイトより)

先日、日テレさんが「インパクト投資」の2号案件として、株式会社GOKKOへの投資を発表しました。

この投資活動、僕も少し前より伺ってはいたのですが、それに対して明確なスタンスを出せていませんでした。というのも、「これがインパクト投資なのか?」について色々思うことがあり、モニョモニョしていたのです。

そんな中、今回のリリース直後に、桂大介さんやtalikiの中村タカさんがいち早く意見を出されていました。

(桂さんとは直接の面識が無いのですが、引用させていただきます🙇)

こういったお二人の発信について、素直に素晴らしいなと感じました。

なので、中村タカさんがX(旧twitter)で言われていた「正しく批判する精神が大事」という姿勢に見習い、本件について僕の思う点をまとめておきます。

なお、以下の内容はあくまで松井個人の意見です。
もちろんその内容は、僕の所属するKIBOW社会投資ファンドの経験を踏まえたものですが、「個人と所属先の意見は必ずしも同じではない」という前提でご覧ください。



① まず、日テレさんにはインパクト投資へのリスペクトがあると思います

まず前提として、今回の投資をされた日テレさんが、従来のインパクト投資に対して悪意があったかというと、そうではないと思います。

これは自分が見聞きしたことですが、日テレさんの中にはKIBOWの活動に関心を寄せてくださった方もいらっしゃいました。

そのお話からは、インパクト投資を素直に実施されたい意向があったと記憶しています。

実際、今回の投資検討でも、彼らは「ロジックモデル」を作成されています。

出所:https://lab.ntv.co.jp/topics/2024/07/gokko.html(日テレWebサイト)

このロジックモデル、やってみると分かるんですが、作るのとっても大変なんですよね。

日テレさんの場合、ケイスリーさんの協力の下でこれを作成したとのことなので、全てを自前で実施したわけではないかと思います。

それでも、このロジックモデルを作成される中では、小さくないコスト(手間やお金)をかけられたことと思います。そこには、インパクト投資に対する一定以上のリスペクトがあると個人的には感じられました。

その意味で、本件に関しても、インパクト投資のプレーヤーから、建設的な批判はあれど過度な批判がされる必要はないと思っています。

むしろ、これを基に、今後より良い形を実践できる方向を模索する方が建設的じゃないかな、と感じています。


② 一方で、「ロジックモデルの整理=インパクト・デューデリジェンス」ではない、という点は確認したい

一方、本件について僕自身の意見を持ちたい点もあります。

具体的には

・「ロジックモデル」のフレームワークで情報を整理し、
・それに沿って「指標」を定め、
・「指標」における数値を提示すること

だけでは、必ずしもインパクトの検証(デューデリジェンス)はやり切れないのではないか、という点です。

特に注目したいのが、今回のロジックモデルで、長期アウトカムの到着点が「ドラマ領域で世界シェアが増える」となっている点です。

アウトカム(≒社会インパクト)の定義は諸説ありますが、少なくとも「社会課題状況のポジティブな変化」という点には関係者のみなさんも一致している(はず)です。

それを踏まえると、今回の「ドラマ領域の世界シェア」は、事業課題ではあるものの、社会課題とは考えづらいと思うのです。

ロジックモデルで大切なのは、

「フレームワークに沿って情報を整理すること」

よりも、

「社会課題をポジティブに変える戦略を、起業家と投資家で合意すること」

だと僕は考えます。


その意味で、今回の投資は、

・ロジックモデルの作成
・関連指標の定量化

は確かに実施されている一方、

・インパクト(社会課題のポジティブな変化)が検証されたのか
・ロジックモデルを通じて社会を変える戦略は立っているのか

については未明であると自分としては理解しました。


なので、今回のロジックモデルをブラッシュアップするとしたら、「長期アウトカムについて社会課題(あるいは課題の当事者の方々)の視点からアップデートしてみる」ことを提案したいと思います。


(注)この点について「そんな偉そうに言う、お前はどうなんだ?」というブーメランが生じると思います。なので僕なりの実践内容について、以下の記事リンクを貼り付けておきたいと思います。
ロジックモデルの作成が、アウトカムに向き合う決断に繋がった――ライトライト 齋藤隆太氏×KIBOW社会投資対談』
前編:https://globis.jp/article/58386/
・後編:https://globis.jp/article/58387/


③  で、インパクト投資家はどう向き合うのが良さそうか?

繰り返しますが、日テレさんは、決してインパクト投資にリスペクトが無かったわけではないと思います。(むしろリスペクトしてくださっていたと思います)

それを踏まえ、本件にインパクト投資の実践者が本件にどう向き合えば良さそうか?

勝手に1つの案を上げるならば、

「インパクト投資のベスト・プラクティス」をきちんと実践・発信・周知する

というのが、個人的な案です。

これまでインパクト投資のプレーヤーたちは、目の前の活動に試行錯誤することを優先し、その実践内容を広く届けることをやり切れていなかったと感じます。
(この点、「お前だって全然発信できてないじゃん」という反論には、ぐうの音も出ません・・)

特に近年、日本のインパクト投資は、「投資の実行」に加え、「投資の”出口”の実現」が求められるフェーズにあると思います。

具体的には、「インパクト投資やりました!」だけではなく、その投資がどのような帰結をもたらしたのか?に対するインパクト投資家のコミットメントが求められるフェーズにあると思います。

「投資実行 → 事業伴走 → 出口実現」という一連のサイクルをやり切る。そして、その実践知を丁寧に伝える。
それが、インパクト投資の実践者ができることかなと現時点で感じます。

その実践知が新しいインパクト投資プレーヤーに届けば、「インパクト投資」の輪郭がより具体的になると思うのです。

そんな営みを通じて、日テレさんとも「インパクト投資」への目線を合わせ、協調投資の可能性を考えられるといいなというのが、自分なりの描きたい未来です。


この点、自分の狭い頭で考えただけなので、他のご意見ぜひお聞きしたいです。

★    ★ ★

正直に言うと、インパクト投資にそれなりに携わる立場として、本件について意見を出すのには勇気が要りました。
(「こんなこと言ったら、あの人どう思うかな・・」とか、結構気にしながら書いてます)

ただ、こういった議論が複数方面からきちんとされることは、やはり良いことだと素直に感じます。

今回の件を機に、(過度な批判ではなく)建設的な意見を踏まえ、インパクト投資に対する考え方・スタンスの豊かな議論ができるといいなと思います。

そして、あわよくば、僕もその議論の中で、自分の見方・考え方をアップデートする機会をいただきたいなと思いました(下心)。


本稿の内容に対しては、色々な考え方があるかと思います。
ですので、皆さまからも多様な意見をお聞かせいただけると嬉しいです。

異論や反論、批判等どんな意見でも、お待ちしております!


#インパクト投資

p.s. 当然ですが、本稿を通じて誰かを攻撃する意図は毛頭ありません。万が一、不快な思いをされる方がいらっしゃったら申し訳ありません…


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