わからないまま佇む。
「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」
楽しみにしていたドミニク・チェンさんの企画展。
ディレクターズ・メッセージ
翻訳とは通常、ある言語で書かれたり話されたりする言葉を、別の言語に変換することを指しています。しかし、一つの言語で言葉を発するプロセスそれ自体も、一種の翻訳行為とみなすことができます。
(中略)
わたしたちは、ただ生きて、呼吸をしているだけの時でも、周りの世界から様々な色や形、香りや手触りといった膨大な量の情報が体に流れ込んできます。それらが無数の神経細胞を走り、身体感覚が感情に転化され、「なんて気持ちの良い日なんだろう」とか、「ああ、悲しい朝だなぁ」などという言葉がひとりでに口から出てきたりします。この時、わたしたちは目の前に広がる真っ青な空の色や、肌寒い冬の空気の冷たさといった、自分を取り巻く世界そのもののあり方を翻訳していると言えるでしょう。
このような翻訳を行う時、誰しもが少なからず「うまく言い表せない」もどかしさを感じます。わたしたちは常に、精一杯の語彙や身体表現を用いて、沸き起こる様々な感情をなんとか他者に伝えようとしますが、そもそも自分でも完璧にその感情を翻訳しきれることはないのです。
(中略)
わたしたちのコミュニケーションには、根源的な「わかりあえなさ」が横たわっています。それでも、わたしたちは互いの「言葉にできなさ」をわかりあうことはできます。
(中略)
この展覧会では「翻訳」を、わかりあえないはずの他者同士が意思疎通を図るためのプロセスと捉えて、普段から何気なく使っている言葉の不思議さや、「誤解」や「誤訳」によってコミュニケーションからこぼれ落ちるイミの面白さを実感できるような、「多種多様な翻訳の技法のワンダーランド」をつくろとしました。
(中略)
ひとつの言語が「すべての言語の海」を漂っているのだと実感できれば、日常で使う言葉に対して新しい感覚が生まれるでしょう。また、異なる文化の中で生み出された、他の言語への翻訳が困難な言葉について知ることで、わたしたちの感性はより多様になります。
(後略)
この展示は21の作品から成り立っている。
1.トランスポート(ここで、ドミニク・チェンさんが1センテンスの中にいくつかの言語を“ちゃんぽん”して!メッセージを読み上げている)と、
2.ファウンド・イン・トランスレーション以外の作品は、三角形の柱がランダムに点てられた中に点在している。その柱たちは視界を遮るものではなく、他の作品や鑑賞者も見え隠れしながら視野に入ってくる。
森のようでも海のようでもないが、何か奥深いものに包まれているような感覚がある。
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「多種多様な翻訳の技法のワンダーランド」とドミニク・チェンさんが言っているように、そこにある作品は多彩だ。すでに見たことのある作品もあったが、初めて出合うものも多くあった。
2.ファウンド・イン・トランスレーションは、そのビジュアルのあり方から大好きなオーディオ・アーキテクチャーを思わせた。もちろん扱っているのはオーディオではなく言葉だったけれども。いや、言葉もサウンドという側面をもっているので、あながち的外れではないかもしれない。
作品数が多いので、もう一つだけ。永田康祐さんの料理から翻訳を考える
13.トランスレーション・ゾーン。
料理という行為を構造にまで削ぎ落としてしまうと、おでんとポトフが同じものとして翻訳される。しかしそれはまったく違うものだ。そのとき、こぼれ落ちてしまったものは何なのか。あるいは日本の食材で外国料理をつくるときに生じる複雑な文化的なねじれとはどのようなものなのか。
このムービーを見ながら、反対にどれだけのことが混じり合っているのだろうと考えた。そしてそれは悪いことではないなとも。
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「わかりあえなさ」。
そもそも私たちはその、糊代のような部分を“誤読”し続けている。
いやいや、ドミニク・チェンさんがいうように、
自分自身に対してさえ
理解できないことや表現しきれない部分がいくつもあるわけで。
だから、“わからない”は常にお互いにまとわりついているということを前提にしようというのが「『わかりあえなさ』をわかりあう」ことかななんて、ミッドタウンの中で考えていた。
トランスレーション展 概要
会期/2020年10月16日(金) - 2021年3月7日(日)
会場/21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
休館日/
火曜日(11月3日、2月23日は開館)、年末年始(12月26日 - 1月3日)
開館時間/
平日 11:00 - 18:30(入場は18:00まで)
土日祝 10:00 - 18:30(入場は18:00まで)
企画展「トランスレーションズ展 -『わかりあえなさ』をわかりあおう」は、2020年11月18日のご来館より事前予約が不要となります。11月16日までは、事前予約が必要
*事前予約
http://www.2121designsight.jp/reservation.html