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ノーツ第二号をようやく読了。

建築コレクティブ「GROUP」が手がける書籍『ノーツ 第二号 引越し』を読み終えた。

『ノーツ』は、掲げられたテーマ(今回は引っ越し)についてのインタビュー集とそれに対するたくさんの注釈が束ねられた本だ。正直、本のつくりとしては少々読みづらい。

この本を手に取ったのは、映像エスノグラファーで東京経済大学准教授の大橋香奈さんのフェイスブックで知ったからだ。大橋さんは彼らのインタビューを受けていた。

私は以前、TARL(Tokyo Art Reseach Lab)の「思考と技術と対話の学校」で、〝東京プロジェクトスタディ〟というゼミに参加した。そのときにナビゲーターを務めていたのが映像エスノグラファーの大橋香奈さんだった。とても映像エスノグラフィーを学んだとは言えないけれど、自分で映像もつくり、齧りはした。だからもちろん第一の目的は、大橋さんのインタビューを読むことだ。日本人の平均引っ越し回数(たしか三回程度)を大幅に上回る移動を繰り返した大橋さんが〝引っ越し〟というテーマで何を語ったのか。普通の人とは違った視点がありそうだと思って、大変興味深く読んだ。サラ・ピンクの日本語訳を大橋さんがしてくれないだろうか。

大橋香奈さんのインタビューページ冒頭

大橋さんの他にもインタビューを受けている人のラインナップを見てわくわくした。

最初が芥川賞作家の滝口悠生さん。アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加したときのことを綴った『やがて忘れる過程の途中』でファンになってしまった作家さんだ。
そしてURGというアート・コレクティブ。そのコレクティブのメンバーの中に黒坂佑さんがいた。黒坂さんは東京藝術大学の卒展・修了展で拝見していて、びっくりしてしまったアーティスト。そのときの「絵にならない」という段ボールやペンキなどで制作された実家リビングの原寸大の模型作品に、このノーツの中で再会したのは嬉しかった。
そして濱田晋さん。オープンレターというギャラリーでお目にかかったことがあって、そのときにZINEを交換したのだった。

『ノーツ第二号』Contents

面白くてスイスイと読み進めたのだが、アウレリ&ジュディチの論考「身近なホラードメスティック・スペースの批判に向けて」(これはインタビューではない)が個人的にあまりにも難解で、大ブレーキがかかった。すべての住宅にホラーが潜んでいるというのだが、いつもすぐに寝落ちしてしまっていた。それを集団読書(サイレントブッククラブ)の力を借りて読み切ってみると、面白い言説がいろいろとあった。

以下に引用してみる(原文ママ)。

実際、ほとんどの社宅は、 裕福でない人々のためにつくられただけでなく、 その人々を従順な中産階級の消費者の集団に変えるためにつくられたことを忘れてはならない。 どちらの場合も、乱暴な生産の世界から隔離された安息の場である室内は、 市民の不満を解消する場所であると同時に、その不満の原因でもあるのだ。 掃除され、 改装され、 整備されるように設計された家やアパートには費用がかかり、 労働者はそれを改善するためにもっと稼ぐように促され、さらに女性はそれを維持するために無給の労働を強いられる。 その理想形は、 アパートではなく家の所有であり、労働者を借金漬けにすることである。
こうして原始的蓄積は完遂され、性別、年齢、 そしてある程度は階級にさえ関係なく、誰もそこから逃れることはできない。 なぜなら、 中産階級は最もインテリアのイデオロギーによる消費不安に最も陥りやすいからだ。 皮肉なことに、 このシステムが最も搾取的になるのは、2008年のアメリカのサブプライムローン危機に代表されるように、家庭用建築が労働生活のプレッシャーを和らげる代替物として提示される時である。 家は、私たちが自由に選ぶことのできない人生のモデルや一連の野心、 欲望 (財産を所有したいという願望や、核家族を形成したいという願望) を投影している。 女性の場合、 職場や政治の場で解放されても、料理や掃除、 装飾に優れていなければならないという、家の建築物そのものがもつ構築された欲求は解消されず、 この構築された欲求の最終的な目的は、これらの努力が賃金労働者としての貢献に加えて行われる無給の労働であるという事実を隠すことにある。
この状態は、 ヴィルノの造語である 「身近なホラー」と定義することができる。 これは、家庭が多くの社会的・経済的問題の根源として構築されていることに気づいた時に生じる恐怖であり、 それは、社会が自然ではない、あるいは避けられない心理的な制約や欲求のもつれに巻き込まれていること、つまり、人々が自分の欲望によって支配されていることに気づいた時の恐怖である。

『ノーツ第二号』p186〜188

〝個々人の生が抱える私的な問題が土地の文脈や時間の経過と複雑に関係し合う〟引っ越しを問い直すとした本書。かなり長い間、一か所に住み続けている私は、どのように土地の文脈と関わっているのだろう。


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