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製作日誌 2016年3月20日

今年はいつになく花粉症が軽くて、薬飲まなくても大丈夫だし、鼻水もあまり出ない。そりゃそうだ。ほとんど外には出ず、ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと家で曲作ってるから。

曲作りしてるミュージシャンは機を織る鶴みたいなもので、その過程を誰かに見せることはあまりない。ドキュメンタリー番組でそういうシーンを見かけることはたまにあるけれど、あれは、ミュージシャンが流した汗と涙のほんの一滴だと思ったほうがいい。

曲作りしてるミュージシャンは、決してドラマチックな映像にはならない地味で無様な逡巡を、際限なく続ける。恋に落ちた時のように4小節のフレーズのことを寝ても覚めても考え続けたり、ノイローゼにかかったみたいに歌詞の1ワードだけを執拗に探し続けたりする。。。。

僕もかつてはそうだった。でも、50歳手前くらいから、何かが変わった。
表現の中心がライブ活動になって、作品を録音することとライブで納得の行く状態に仕上げることが、同義になった。机にばかり向かって悩み過ぎないように。できた曲は録音する前に歌ってみる。声が言葉を選び、メロディを整える。そんなふうに体で曲を仕上げて、ツアーでずっと歌って、それを一発で録った。

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京都精華大学の「特任教授」になって3年が経った。

2015年度は2回生と3回生、計30名くらいを担当して、毎週彼らの作りかけの作品を聴いて、アドバイスする日々だった。

元々、メソッドやセオリーで音楽を学んだわけではないし、弾き語りもラップもメタルもボカロもロックもEDMもいる学生に一律同じことを教えても無意味なので、一人ずつ聴いて、一人ずつサジェスチョンする。野戦病院にズラリ並んだベッドに横たわるクランケを次々執刀していくブラックジャックのイメージで(笑)なんとかこなしている。

正直しんどいが、プロデュース感覚は研ぎ澄まされて、判断と作業はとにかく速くなった。スキルのない学生が無心に作った作品に心を打たれることも多くて、ベテランになってしまった自分がこだわっていたポイントは「伝える」ためにはそれほど重要じゃなかった、という気付きもあった。

同じ耳で自分の過去の未発表デモを聴いてみたら、アイデアが溢れてきた。
しかも、学生より全然いい(当たり前だ)。捨てかけてた曲やフレーズが、宝の山に聴こえてきた。こいつ、頑張ってきたなあ、とも思えた。俺がちゃんとプロデュースしてやらなきゃ、とも感じた。そんな初めての、俯瞰したモチベーションで、粛々と曲作りが進んでゆく。時々、部屋の片隅で、小さくガッツポーズをする。いつか細野さんみたいに踊れるといいな。

今はまだ、過去の高野寛を今の高野寛がプロデュースしている段階。
手応えは十分あって、曲作りのアルゴリズムが新しく開かれてきた感覚が、久しぶりにある。半分はスタジオやコンピューターの環境整備やテストを兼ねているので、まだまだ表現の深みを掘り下げるところには至らない作品も多いけれど、それでもここでもらうリアクションが、曲作りというとてつもなく地味で仲々頂上の見えない登山を続ける自分にとっての酸素ボンベのようで、今は全然苦しくない。

締め切りがないって最高だ。

此処から先は、誰も知らない道のりになる。登って行くと、ある時霧が晴れて、急に視界が開ける瞬間があるはずだ。何度も経験してきたことだ。この新しい山でもそれを目指して、まだしばらく山登りは続く。それがいつなのかは誰にも分からないし、その景色をみることができるのはアーティストとプロデューサーだけ。つまり、今は自分ひとり。

さあ、いつになるのかな。

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