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『Nice Painting ! vol.1』覚え書き その1


アマチュア時代から『MEMORANDUM』というタイトルで、日々書き散らかした曲やメロディの断片をテープに録りためていた。大学時代~91年くらいまで46分か60分のカセットが十数本、その後60分のDAT(ダット、Digital Audio Tape)で39本。

『Nice Painting ! vol.1』はDATで『MEMORANDUM』を録っていた1992〜2000年の録音から、できのいい未発表曲を集めた作品。ライブ会場限定販売で、ライブを楽しんでくれた人のおみやげにと思って作ったCDだった。「出来がいい(=Nice painting)」のに今まで作品化されなかったのはなんでか? 理由は様々。似た曲があったから、インストは要らなかった、アルバムの他の曲と相性が悪かった、アレンジに凝りすぎてライブで出来そうになかった、etc....

数年前までずっと、アルバムを作る時は『MEMORANDUM』のアーカイブの中から新旧交えてアルバムとしてまとまる曲をセレクトして作ってきた。だから発表されてなかった曲が10年、15年経ってアルバムに収録される事もあったのだ。「捨て曲」をアルバムに入れるという感覚が、僕にはまったくない(若い人のために解説すると、「捨て曲」っていうのはアルバムの中にある割とどうでもいい「箸休め」みたいな曲のことだ)。

録音芸術はいつも、録音メディアの容量と形式に合わせて変化する。iTunes matchも始まったし、これから「アルバム」の概念は薄れて、「ジャケ買い」同様「捨て曲」も死語になるのかもしれない。いい曲書かなきゃ。

*2022.5.追記:
現在このアルバムはbandcampから配信リリースされています


以下、各曲について。
せっかくなので普段あまり語らない録音の細かい話も。
全曲、作詞・作曲・編曲・演奏・歌・録音 by 高野寛。

1:あきらめが肝心 (1993)
確かタイトルから思いついて「あきらめが肝心 忘れるが勝ち」のメロディをつくったところから始めた気が。ウジウジと引きずる性格だった若き日の自分に言い含めるように書いた詞だったかもしれない。サウンドはXTCとか、YMOのデイトリッパーとか、トーマス・ドルビーの「彼女はサイエンス」とか、そんなイメージを元に。
シーケンスはNEC98note+Tool de music。リズムはE-muのProcussionとALESIS HR-16、シンベはRoland JD-800だったか。ヴォーカルとギターはFostex R-8(オープンリールの8tr)に録ってシンクさせてた。エレキはG&LのASAT classicをSANS AMPに通して。マイクはAKGの451しか持ってなくて、かならずDBX 160Aのかけ録り。

2:電話機の向こうで(1993)
詞のテーマに時代を感じるな〜。まだ携帯よりポケベルが一般的だった時期。機材は『あきらめが肝心』と共通、ドラムはKAWAI XD-5のような気が。電話の音はKERZWEIL k1000の音か?声にリバースエコーがかかってるのは『Before and after science』『Another green world』あたりのイーノの影響。『AWAKENING』の『こだま』でも同じことをやった。あの時はトッドに頼んで、マルチテープをひっくり返してかけてもらってボーカルにリヴァーブをかけて別トラックに録音、それを元に戻して再生した。だから歌より先にリヴァーブの余韻が来る。その手法は今でもDAWでたまに使う。(リージョンをリバースしてセンドで別チャンにリバーブを録って、歌素材のリージョンと別チャンリバーブリージョンをふたたびリバースする)

3:分かちあいたい (1993)
転調の仕方が矢野さんぽい。サウンドの感じもホール・アンド・オーツの影響ありつつ、80年代の坂本さんアレンジの矢野さん・大貫さんの影響も。この曲の音源はほとんどがKERZWEIL k1000だったと思う。クラリネットとクラップの音色が好きだった。

それにしても、機材のことはよく覚えてるな。自分でも驚く。。。
この頃のスタジオの写真はこれです

『Nice Painting ! vol.1』覚え書き その2に続く >


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