『Nice Painting ! vol.1』覚え書き その2
全曲、作詞・作曲・編曲・演奏・歌・録音 by 高野寛
4:On & On (and On) (1994)
90年代中頃にはよく、沖縄の八重山諸島を旅していた。特に日本最西端の島・与那国島が好きだった(土曜ソリトンSide-Bのロケで行ったこともあるので記憶にある方も多いかもしれない)。与那国島には「ユキさんち」という素敵なカレー屋さんがあって、そこに立ち寄った時買ったカリンバ(親指ピアノ)を持って、観光客が絶対来ない秘密のビーチに降りて、一日中弾いていた。そこで生まれたのがこの曲。後に『Sorrow and Smile』に1コードのシンプルなアレンジに変えた短いバージョン(『On & On』)が収められることになる。
実はこの頃、大ブレイク前のSMAPのベスト盤を聞いていて、その中に入っていた『がんばりましょう』という曲の歌詞が結構好きだった。30歳になって、階段を登り続けるように働く日々のしんどさもそれなりに身に染みてきた頃。日々を乗り切るためのワークソングとして、つくった曲。
機材は前の曲とだいたい同じ。アコギはギルド、パーカッションはProcussionかな。カリンバは西洋楽器と違って決められたチューニングを持たない。この楽器は買った時にメジャー7thっぽいチューニングだったので、結局20年間ずっとそのままで、この曲のためだけに使っている。左手で付点4分、右手で8分の6拍子のリフを刻む奏法。(ちなみにいつもカリンバを包んでるバンダナは、高校の時バンドでヤマハのコンテストに出た時の参加賞。32年前か....)
5:Cat Walk (1996)
元々酒はあまり飲めなかったのに少しずつ飲み方を覚えて、30代前半には結構明け方まで飲み歩いたりしてた。青山で朝まで飲んだ後、ヨウジヤマモトの隣のビルの駐車場に尻尾がピンと伸びた猫がいるのを見つけた。ヨウジの服みたいに全身真っ黒だった。首輪はなく、少し埃っぽいけどきれいな猫だった。人懐こく近づいてくるのでさんざん撫で回して遊んだ。酔った勢いでそのまま家まで連れて帰ろうとしたら、さっとかわされる。でも、また近づいてくる。そして連れて帰ろうとしたらやっぱり逃げられる。。。空も白み始めた午前5時あたりに、そんな戯れを小一時間して、後ろ髪ひかれる思いで家に帰った記憶、それがこの曲のイメージの原型。たしか、歌詞から先に書いた気がする。
この頃はレコーダーがA-DAT2台、シーケンサーはPower book 180c+パフォーマーだったと思う(PB180cの想い出はこのブログに)。エレピとブラスはJV-2080か。ベースはプレベの60年代のやつ。間奏でちょっとだけでてくる猫の鳴き声はスライドしながらヴォリュームペダルとワウで演奏。エイドリアン・ブリュー的奏法。『AWAKENING』の『てにおえ』でもやってる。多重コーラスをついつい録ってしまうのはトッドの影響。得意技ではあるが、ライブで再現できない録音限定の特殊技でもある。多重録音で得た全能感は、ステージの上ではあっさり打ち砕かれてしまうのだ。