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『LIVE 1992 th@nks』 セルフライナーノーツ

*この記事はbandcampから2023年10月6日(金)配信リリースのアルバム
『LIVE2023 th@nks』の紹介です。

https://takanohiroshi.bandcamp.com/music

LIVE1992 th@nks / 高野寛

1.国境の旅人 3:32
2.夜の海を走って月を見た 4:41
3. MC-1 (bonus track) 0:36
4. See you again 5:24
5. いつのまにか晴れ 3:57
6. MC-2 (bonus track) 1:23
7. 二十歳の恋 4:24
8. 友達について 4:00
9. エーテルダンス 4:11
10.島 5:26
11.目覚めの三月 6:12
12. Smile 3:42
13. かならず 5:08
14. ベステンダンク 4:30
15. 虹の都へ 5:11
16.*弾き語り (bonus track) 5:25
17. 泡の魔術 06:00
18. th@nks 6:19

*1992年秋、アルバム「th@nks」発売後の学園祭ツアー最終日の録音より高野寛:guitar, vocal
今堀恒雄:guitar
有賀啓雄:bass, cho
松永俊弥:drums, cho

*ほぼ全曲無料試聴可。定価¥1,500(またはそれ以上)でご購入いただけます。ハイレゾ含む様々なフォーマットでダウンロードしてお楽しみください。ご購入特典としてMCとアンコールの弾き語り音源(曲は聴いてのお楽しみ)もお聴きいただけます。


『記録と記憶、ライフとライブ』

引き出しから「学園祭ツアー(1993?)」とだけ書いてあるテープが出てきた。DAT(ダット)という名前の、もう廃れてしまった8mmビデオくらいのプロ用デジタルテープ。手元のデッキが壊れて聴けないので、コピーサービスに出してやっと中身が確認できた。

MCから、時期とメンバーがわかった。1992年、アルバム『th@nks』をリリースした後の秋の学園祭ツアー最終日、福岡・西南学院大学での録音。

折に触れて述懐している通り、デビューしてからの3〜4年間はずっと忙しすぎて、記憶がところどころ飛んでる。この学園祭ツアーのことは、実はほとんど忘れかけていた。音を頼りに思い出を巻き戻す時間は、若かった自分(27歳)と久しぶりに対面する気恥ずかしさから始まる (笑) この酸っぱい感じ、誰もが若い頃の写真を見たりすると感じるんじゃないかな。

音源は記録用だったので決していい状態ではなかったが、くすんでいた音を磨いて、細部が見えるようになればなるほど、ステージ上の自分の精神状態まで伝わってくる。音って本当に凄いと思う。その頃の回想は、30周年のときに書いたこのエッセイに詳しい。

このライブのメンバーは、
高野寛:guitar, vocal 今堀恒雄:guitar 有賀啓雄:bass, cho 松永俊弥:drums, cho(パール兄弟)というキーボードレスの4ピース。音楽性は違えど、ビートルズと同じ編成だ。ギター二人の4人バンドで言えば、第二期キングクリムゾン的な趣もたまにあるかも。

今堀さん、松永さんという手練れの先輩と、僕と同い年だが10代からバリバリにセッションマンとして活躍している有賀くん。3人になんとか食らいついて行かねばと相当練習したと思う。ツアー最終日、バンドらしい厚みのあるアンサンブルは、改めて聴くととても新鮮だった。僕はと言えば、歌もギターもあまりに今と違って荒削り、30年前の自分はもう別人。

聴き返してまず驚いたのは、歓声の大きさ。黄色い声と茶色い声が混じっているのは福岡らしいかも。後半、歌がシャウト気味になっていくのは、そんな客席に煽られたのも大きかったんじゃないかな。あの頃は、カラカラになるまで力を出し切らないと気が済まなかった。明日のことなど考えず燃え尽きる、それが若さというものだ。とかなんとか。

最小限の編成なのに、今堀さんの細部まで練られたギターアレンジと、松永さん・有賀くんのツボを押さえたプレイ、コーラスワークに支えられて、音の薄さはまったく感じない。

僕はこの頃、P-PROJECTのストラトとテレキャス型のエレアコ、ピーターソン(XTCと渡辺香津美さんが使っていた、ソリッドステートのアンプ)がメインで、とにかくジャキっとした音が好きだった。ヴィンテージギターにはまだ興味がなかった頃、侘び寂びなど知らない。気分はエイドリアン・ブリューだったのか、とにかくカッティングしまくっている。

デビューからの5枚のアルバムは、打ち込みで描いた音にゲストミュージシャンを加えて仕上げた「スタジオで仕上げた宅録」的な音像だった。対して、このライブアルバムから聴こえる曲たちは、バンドサウンドによって新しい命が吹き込まれているように感じた。

デビューから4年、『th@nks』は初めての完全なセルフプロデュースによるアルバムだったし、デビューしてからもヴォーカリストとしての経験が浅かった自分が、やっといいバランスでライブでも弾きながら歌えるようになってきた時期だったのかもしれない。

アンコールの「ヒロシ」コールは、実際はもっと大きかった気がする。大盛りあがりだった音源を聴き終えて、さまざまな思いが去来した。

そう、ベースの有賀くんは、癌に侵され、今年2023年2月にこの世を去った。僕が有賀くんと正式に録音した音源は『確かな光』(2004) に収録された『1.2.3.4.5.6.7.days』1曲しかない。

想い出深いのは、ちょうどこのアルバムを配信する10月6日の深夜に再放送される『細野晴臣イエローマジックショー』(2001) のハウスバンドで有賀くんと共演したこと。故・小坂忠さんの『ほうろう』、シーナ&ザ・ロケッツの『You may dream』、「どてらYMO」など、二度と巻き戻せない貴重な日本のポップ・ロック史の奇跡的な映像資料なので、間に合う方は何が何でも観てほしい。本当に貴重な番組。僕はギタリストとしての他に、忠さんの『ありがとう』をヴォーカリストとして歌わせてもらった。

そう、
たまたま、この間何の気なしに手に取ったテープに、有賀くんと回った唯一のツアーの音があって、たまたま、そのリリースの夜に『イエローマジックショー』の再放送がある...こんな偶然の必然も、2023年という忘れられない年のエピソードとして、きっと記憶に刻まれるのだろう。

レコーディングは文字通り「記録」、そこには「記憶」も刻まれ、音楽家は「ライフ」に「ライブ」を重ねながら、それでもいつかは舞台を去る。
日々は戻らなくても、記録はずっと今に何かを語りかけてくれる。


*最後に
bandcampは、アメリカの独立系ミュージシャンを中心とした配信サービス。サブスクリプションやダウンロード販売の配信サービスとは違って、試聴フリー&投げ銭→ダウンロードを基本とした形態で、根強い人気を誇っています。

2023年10月現在、高野寛bandcampには46アイテム・270曲以上の、ここでしか聴けない音源がアップされています。大半は無料試聴可能です。

コロナ禍が始まった2021年、ツアーができなくなったミュージシャンを救済するために、bandcampは毎月第一金曜日に限り、決済手数料を除く売上のすべてをアーティストサイドに還元するサービス「bandcamp friday」を開始。日本でも高野寛、カーネーションなど多くのアーティストが音源をbandcampで発表し、ファンとのコミュニケーションを深めました。

コロナによるイベントの制限がほとんどなくなった2023年も、bandcamp fridayの継続がアナウンスされています。僕も音源があるかぎり、リリースを続けようと想っています。いつもサポートありがとうございます。

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この「サポート」は、いわゆる「投げ銭」です。 高野寛のnoteや音楽を気に入ってくれた方、よろしければ。 沢山のサポート、いつもありがとうございます。