土曜ソリトンSide-B : あれから20年③
その3:All over, Starting over
1995年1月。僕は月〜金でドラマの撮影をしながら、土・日でレコーディングをしていた。準主役、初めての演技、しかも運動が苦手な自分が、時にバイクに乗ったり(もちろん二輪免許はないので、バイクを降りるだけの演技をしたらあまりのぎこちなさにスタッフから苦笑が漏れて、それ以降は却下された)スポーツカーを駆る(急ブレーキで停めるシーンなどはスタントマンが代わりに)。そんな悪役を演じるという無理難題。
シリアスなプロットと常に張り詰めた空気の撮影現場。忙し過ぎて誰にも会えず、毎日必死で台詞と動きを覚え、自分なりに「役作り」していた。日本は震災後の悲しみと不安に染まっていたけれど、さいわい友人・知人の無事が確認できた僕の日常はまた違った意味で、極めて不安定で特殊な、悲しんでいるヒマなんかない状況に置かれていた。
ずっと自分のイマジネーションだけをアウトプットしてきた不器用なミュージシャンが、似つかわしくない他の人格を演じるのは、ひどく苦痛だった。それでもあの経験は、不可避な、遅すぎる成人への通過儀礼のようでもあったと、今になって思う。今だったら楽しめるのか?と訊かれたら「No」と答えるけれど。
撮影後の週末のレコーディングはくたくただったが、100%自分のままでいられる音楽の世界がオアシスのように居心地よく感じられた。アルバム「Sorrow and Smile」に満ちている充実感は、そんな「二度目の初期衝動」の所産だと思うし、震災後の決意や慣れないドラマの現場で鍛えられたメンタリティも強く影響しているはずだ。
「Sorrow and Smile」には何曲か、今でも大事に歌い続けている曲がある。最後までなかなか歌詞が完成しなかった曲、「きみを傷つけてた思い出がつらくても」というフレーズだけ決まっていたその曲を、震災からの再生の歌として書き上げた。完成した曲が「All over, Starting over」だった。
レコーディングが終盤に差し掛かった頃、NHKから「土曜ソリトンSide-B」という新番組の司会者としてのオファーを頂いた。テレビで話すのは得意ではなかったけど、やりがいのある仕事だと感じた。ただ、苦手なトークだけでは自分を表現しきれないという思いもあったので、エンディングで弾き語りをやらせてもらうことを条件に。もう一人の司会・緒川たまきさんのことは知らなかった。写真をみたら、手塚治虫の漫画に出てくるキャラみたいな人だな、なんて思った。
そして「All over, starting over」が新しい番組のオープニングテーマに決まった。
(続く)
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