見出し画像

音楽シーンの曲がり角(2024年・秋)

一年を振り返るにはまだ少し気が早いけど、今年2024年、音楽シーンは大きな曲がり角に差し掛かった実感がある。

1.SNSの変容

ふと気づけば、フォローしているはずの友達の投稿を最近全然見かけなくなった→ 気になって検索してみると相手は頻繁に投稿していて元気そうだ→ でも自分のタイムラインには全然表示されなかった…
みなさんにもそんな経験はないだろうか?

XもインスタもスレッズもFaceBookも、いつからか「おすすめ」タイムラインがデフォルトになっている。

案外気づいていない人も多いのかも

「おすすめ」には、フォローしてない誰かのバズってる投稿がガンガン流れてくる。バズってるだけに目を引くものが多くて、ついつい見てしまう。うっかり「いいね」してしまうと、同じような投稿が次から次へと押し寄せる。動物の動画とか、つい観ちゃうよね。

特にツイッターがXになって、収益化可能になってからは、バズを狙った投稿が洪水のように溢れてきていてキリがない(インプレゾンビってやつだ)。それが理由でXから離れた人も多いと思う。僕は「X-zombie-killer」っていうGoogle Chrome拡張を入れて、だいぶマシになった。

ちょっと前置きが長くなった。

ミュージシャン同士が集まると「最近、SNS難しいね〜」という話がよく出る。SNSが発達して以来、ミュージシャンにとってSNSは重要な告知ツールになった。特にツイッターは拡散力と即時性に優れていて、便利だったが、Xに代わったことで告知メディアとしての力は急速に衰えてしまった。

Xもインスタも、今年からハッシュタグ検索があまり役に立たなくなってきた。調べようとしても見つからない。届けたいところに届かない。能登震災や水害の情報も、以前ならもっと拡散して話題になっていた気がする。もちろん、世界中で大きなニュースが頻発して、ひとつひとつをフォローしきれなくなっているので、その影響もある。

僕はX、インスタ、スレッズ、FBのアカウントを持っているけれど、Xだけ他の4倍ほどフォロワーがいるので、なかなか切り捨てられない。(noteは20,000人強、Xに次いでフォロワー多し)

複数のSNSをしっかりチェックしている人は多くないし、インスタでもストーリーズしか見ない人もいる。結局、全てのSNSをぐるぐる巡回している。結構大変。さてどうする? まあ、いろいろやってみる。

【宣伝】高野寛メルマガ(無料)に登録すると、もれなく情報が届きます


2.AIの台頭

イラスト、写真、動画に次いで、音楽でも生成AIの台頭が凄まじい。
たとえばこんな。AIが作った80年代シティポップのプレイリスト。

ちゃんとした再生装置で聴けば、AI生成特有の音の圧縮感やにじみのようなものは感じられるけれど、音楽的破綻はなくよく出来ている。こんな曲あったかもしれない、と違和感なく聴けてしまう。おそらくアートワークもAIが生成したものだろう(テキストがAI特有の英語風だけど崩れた文字)。

以前から言われていたように、ある職種がAIに代替されていく予測は既に現実になっていて、「作詞・作曲・編曲」の分野もその対象になった、ということだ。tofubeatsくんはAIの作品に感動したことがあるらしい。僕はまだない。


去年の5月には、すでにこんなニュースがあった。

僕自身、作曲のAIは遊び程度にしか試したことはないけれど、普段から翻訳やマスタリング(音を整える工程)でAIを多用している。AIが提案してくる例は時々的はずれなので、サイコロを振るみたいに何度か試してそこから選んで、自分の手を加える。あくまでAIはアシスタントで、共作している感覚もある。当たり前だけど、AIすべてが悪ではない。

生成AIは既存のデータを学習して特徴を掴む。音楽で言えば、ヒップホップ、アンビエント、シティポップなどはフォーマットがはっきりしていてシンプルなジャンルなので、AIが模倣するのに向いている。

ざっくりいうと、「どこかで聴いた(見た)ことのあるような作品」なら今後は、AIが類似品を簡単に量産できてしまう時代になったということ。作家には、今まで以上にオリジナリティが問われる。ハードルが上がったな…

じゃあ、人間にしかできないことは何なのか?真っ先に浮かぶのはライブ。結局、音楽はライブに戻る。
録音だと、歌の個性は今まで以上に大事になってくる。あとは、ありきたりじゃない音を作る。言うのは簡単だけど。


3.気候変動と野外イベント

今年の夏の暑さは厳しかった。

僕はずっと原稿を書いていたので夏フェスには参加しなかったけれど、今年は楽しいはずのフェスが、出演者・スタッフ・観客それぞれにとってかなり厳しい状況もあったと聞く。

夏が無理なら春か秋に、という意見もあるけれど、限られた連休にイベントが集中したり、秋も(今年は比較的少なかったけど)台風のリスクがある。来年はどうなるのか?

フェスはアーティストにとっても新しいファンに聴いてもらう大事な機会だが、この気候変動が今後も続く限り、真夏の野外イベントが厳しくなっていくのは避けられない。


4.まとめ

と、音楽シーンを取り巻く状況は大きな転換期にあって、正解はなかなか見つからない。

この混乱、なんだか既視感もある。
35年プロとして続けてきた。平成のCDバブルとその衰退、ライブとフェスの時代の到来、そしてコロナ禍でライブができない状態になり、また復活…今までもそんな大きな変化を何度も経験して、その度にサバイブしてきた。
音楽業界はまた変わっていかざるを得ないけれど、それも気候変動と同じく、抗えない変化なのだろう。地球全体が変わっているのだから。

時代を超える音楽を作りたい、とずっと願いながらやってきた。振り返ると、それは間違いじゃなかったと思う。
怖がらず、この曲がり角をゆっくり曲がって、この先を観てみよう。



*11/11に35周年記念エッセイ「続く、イエローマジック」
 11/27に35周年記念アルバム「Modern Vintage Future」
 が発売されます。よろしくです。

↓エッセイ発売記念トークショーのお知らせ。2024.4.12(土)。


この「サポート」は、いわゆる「投げ銭」です。 高野寛のnoteや音楽を気に入ってくれた方、よろしければ。 沢山のサポート、いつもありがとうございます。