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世の中の様々な値段がどうやって決まっているのかを解き明かす「値段の方程式」。きょうのテーマは「みかん 猛暑で値上がりの謎」です。冬の果物の代表格、みかんが値上がりしています。東京の大田市場の卸値を見ると、昨年12月は平年に比べおよそ1割高く、過去5年で最も高くなっています。

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜〜金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。

1月の出荷価格も1割高

全国のスーパーで産地直送の野菜や果物のコーナー「農家の直売所」を展開する農業総合研究所によると今年1月の出荷価格も前の年に比べて1割高くなっています。

1袋あたりの個数も減る

店頭の状況はどうでしょうか。東京都墨田区のスーパーイズミで取材してきました。果物の販売に苦労している都内のスーパーを取材しました。最も目立つ入り口付近の売り場。みかんやイチゴは目立つところにありますが、リンゴは奥に置かれ、柿は見当たりません。並べられているみかんも平年より3割以上高いそうです。

「今年は定番の果物がすごく高いので、非常に売りにくい状態が続いています」と五味衛社長は明かします。五味社長は税抜299円の特売品を手に取りながら、「普通だったら入ってあと2個から3個余計に入って198円で毎年売っているんですが…」とつぶやきました。私たちが取材している1時間ほどの間に特売品はどんどん売れましたが、ちょっと高めのものはほとんど手に取っていく人はいませんでした。

ミニ知識
私たちが食べている温州みかん。英語で何というか、ご存知ですか。正解は「Satsuma mandarin(サツマ・マンダリン)」です。欧米では「Satsuma(サツマ)」だけでも通用するようです。明治時代初期にアメリカ大使館の関係者が温州ミカンの苗を当時の薩摩国、今の鹿児島県で購入し、アメリカに送ったのが由来とされています。昔のみかんは今ほど甘くなく、肥料や水の与え方を工夫することよって徐々に今のように甘さを増してきました。

猛暑でライバルの果物が減少

今シーズンの高値の最大の要因は昨年夏の猛暑です。日本の夏の平均気温は平年と比べて+1.76度と、これまで最も高かった2010年の+1.08度を大幅に上回りました。
「猛暑であまり収穫できなかったから値上がりしているのか」と思うかもしれませんが、事情はちょっと複雑です。みかんの収穫量は平年並みか平年よりやや良いぐらいなんです。雨が少なく小粒になったものの、甘さは増すという、それほど悪くない状況だったのです。
猛暑の影響を大きく受けたのは競合するほかの果物でした。特に秋〜冬の果物のリンゴや柿です。リンゴは日当たりの良い場所で育った実が猛暑で大ヤケドといわれるぐらい日焼けしてしまい東京市場の入荷量は前の年と比べて3割減少しました。柿も実が落ちるなどして4割減少しています。出荷量が大幅に減ったリンゴや柿の代わりに売り場のスペースを埋めるためにみかんが必要。取り合いとなって値上がりにつながっているんです。

ここできょうの方程式です。

みかん値上がり=猛暑(リンゴ・柿の不作+みかん人気↑)

ライバルの果物が猛暑によって不作となる一方、甘さが増したみかんの人気が高まったということです。先ほどのスーパーに来ていたお客さんからも「味は例年より甘い」という声が聞かれました。

今後はどうでしょうか。この夏が例年並みの気候だったら、今シーズンよりは安くなるかもしれませんが、値段は徐々に上がってきているんです。消費者物価のグラフを見ると2000年代まで多少の上下はありましたが、ほぼ横ばいで推移しています。ところが2010年以降は右肩上がりに推移しています。

甘くなれば値段も上がる?

値上がり基調が続く背景には生産者の高齢化と甘さの追求という2つの要因があります。高齢化はほかの野菜や果物でも同じ現象がありますが、日当たりをよくするためにみかんの栽培は傾斜地が多いです。年齢が高くなると作業が厳しくなり、生産そのものをやめてしまって収穫量が減るのです。
一方、消費者は甘くて食べやすいものを求めるようになっています。農家は甘さを増すために、樹の周りにシートをかぶせて水の量をコントロールしているのです。手間をかけた分甘くなりますが、樹にストレスがかかるので、翌年の収穫量が減るというのです。
果物は全般的にその傾向にあります。甘さや食べやすさを求める消費者のために農家が高単価品種の作付けを増やしたり、付加価値を高め果物のブランド化をすすめる傾向にあります。総務省の家計調査では2023年の果物への支出額は物価の上昇分も勘案した実質でマイナスです。家計防衛でし好品である果物への支出が減減っている現状も見えてきます。


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