[review] 『PENIS』 / 四万十川友美

僕たちからみたら、それはとても、とても些細なこと。

けれど彼には、まるで3月の河原沿いの土手を道草しながら歩く子どものように、そういったものが目に留まる。

春のそよ風がたんぽぽの種子をひとつ、ふわり、と飛ばしてしまったようなことにひどく感動し、感傷にもひたり、その根底で、それがとても、とても些細なことであるとも理解しながら、そのひとつひとつがいちいち気になって仕方がない。そうして野道を歩き続けてできあがった歌は、いつのまにか服にひっついてくる「ひっつき虫」のようで、彼が連れてきたそれは小さなトゲを僕に刺し、そのチクチクとした淡い刺激に、気づくことを忘れていた自分に気づかされる。

普段、何気なく通りすぎる地元のアーケード街が妙に気になって、歩き慣れた駅までの道のりがいつもと違って見えてくるような、新しくないけれど新しい発見。

このアルバムに費やした3年の月日を思い、ギターの音色と歌声から沸き起こるこの空想を僕は肯定するのだった。

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