[archives] / [livereport] 毛皮のマリーズ,TOUR 2011『Who Killd Marie?』 : Nov.2011
artist/毛皮のマリーズ,TOUR 2011『Who Killd Marie?』
at/難波Hatch
date/11/20,2011
open/17:15,start/18:00-close/20:00,total/120min.
ticket/3,300yen
全国各局のラジオ局をジャックして志磨が告げた、発売当日まで伏せられていたニューアルバムのタイトルは『THE END』。それと同時に、リリースツアーの終了をもって毛皮のマリーズを解散させる旨を発表したのは、2011年9月7日未明のことだった。
10月8日に茨城・水戸ライトハウスからスタートしたツアーは既に17公演を終え、あとには12月5日の日本武道館でのツアーファイナルを残すのみとなった、大阪・なんばHatchでのセミ・ファイナル。間近に構えるのは、毛皮ズが過去、幾度となくギグを行ってきた難波ROCK RIDER(現・難波Mele)。ワンマンライブとしては若干早めのOPEN17:15/START18:00にも関わらず、 しかも折しも気候が一段と冷え込み、川べりの風が吹き付けるなかで今や遅しと場外で整列していた長蛇の列を、開場と同時にキャパシティで10倍ほど違うなんばHatchは飲み込んでいく。公式には2階席まで含めると1600人弱の収容だが、おそらくその数字では間に合わないだろう。
SEは唐突に鳴り止み、間髪を入れずに客電が落ちて、『THE END』のジャケットと思わせる照明とスモークが炊かれる中に、まずは富士山、栗本、越川と現れて、3人で一気呵成に音を鳴らす。マイク・スタンドに勢いをつけて志磨が登場すると、毛皮ズは1曲目から圧倒的だった。立て続けに3曲、ハードに展開する演奏は、なんでこんなにかっこいいバンドが解散しなきゃいけないんだろう、と身も蓋もないことを考えてしまうほどに、異常なまでにソリッドな志磨のステージングとバンド・サウンドは渾然一体として異様な熱量を帯び、今日のギグにとんでもない予感を漂わせながら、志磨の「せっかくだから、ゆっくり楽しんでいってよ」という一言に様々な感情を渦巻かせる。
新旧を取り混ぜながら、ライブ映えするエッジの効いた曲からミドルチューンに続き、7曲目にして初めて演奏された『THE END』からの2曲が、このツアーにおけるギグを象徴していた。毛皮ズは、彼らのバンド・サウンドをもって、これが毛皮ズと彼らの、毛皮ズと「マリーズマニア」たちとの、最後の狂宴であることを語っていた。これで終わってしまわないほうが逆におかしく思えるほどに、完璧なまでの表現力。まさしくその瞬間に、毛皮のマリーズは絶頂に立っていた。
さようならの悲しみは、きっとここで終わっていたのだろう。栗本がメインボーカルをとる“すてきなモリー”は、一転して、このツアーにおける悦びの象徴だった。この日のハイライトといっても差し支えがないだろう、志磨は栗本の頬にやさしくキスをする。そして「一番長く隣でギターを弾いてくれていた」越川の頭を抱きかかえて、祝祭と化した空間に、毛皮ズは次々と幸せを投げかける。しかし多くの観客が、その姿を前に泣いていた。もうどうにも涙を堪えられない女の子を隣にして、<もう二度と君を泣かせたりはしない>と歌う志磨に、ふざけるんじゃないと思いながら、僕も泣いていた。
またも『THE END』から2曲を立て続けて、リード曲の“HEAT OF GOLD”の旋律を響かせてからは<止まると 俺 死ぬから>とリフレインし、志磨はちぎれんばかりに高く飛んだ。なんという美しい、いや、あまりに美しすぎるギグだろうか。志磨は「これはキミの歌だよ」とささやき、<私は 人生複雑骨折>と歌いだす。すべてを狙い澄ましていたかのように、<ビューティフルに ビューティフルに 生きて 死ぬ、ための 僕らの人生 人生!>ーーそれ以外の言葉は必要がなくなり、まるで冗談のようにビューティフルであり続けた毛皮のマリーズのなにもかもは、そこに集約していた。
アンコールの手拍子は当然、鳴り止まない。しかしふたたび出てきてしまえば、今度こそ本当に毛皮ズは終わってしまう。
アビーロード・スタジオでのレコーディングを終えて帰国した志磨は、最後に1曲、追加でレコーディングをしたと語っていた。
ラスト・アルバム『THE END』のリリースツアーであり、毛皮ズのラストツアーである『Who Killed Marie?』のラスト・ソングは、そんな1曲だった。
すべてを録り終えたのちに、すべてを締めくくるようにレコーディングされた曲が、すべてのステージが終わったのちに、すべてを締めくくるようにプレイされる。
ある時代において、狂おしいほどに美しくあった毛皮のマリーズの終焉は、“ジ・エンド”と高らかに歌い上げてーー。
毛皮のマリーズは、完膚なきまでに美しすぎる残像を残して、僕たちの前から姿を消してしまった。そして、ついに12月5日、日本武道館で完結する。世界から毛皮のマリーズがいなくなってしまうとき、毛皮のマリーズがいる世界は、どれほど美しく輝くのだろう。その輝きのかけらが、瞳に焼き付いている。