タトゥー
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銭湯にさえ入れるなら、タトゥーを入れたいと思っている。どうせ入れるなら図柄などではなく、外国人アスリートのように自分の信念や大切にしていることを体に刻み込みたい。
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日本人でありながら「日本語のタトゥーを彫った外国人」のようになりたい。「COOL」を「涼しい」と彫るあのどうしようもなさや、面白さよりも心配が先に来る感じが一周回ってかっこいい。あれは外国人にしかできない。
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僕がタトゥーを入れるとしたら、まずは右腕に「落ち着いて冷静に考える」と入れる。落ち着いて冷静に考えればわからないことは何もない。次に、左腕に「常に前向きに考える」と入れる。つい考えるが被ってしまったが致し方ない。これも今の自分にとっては大切なことだ。今が最悪だと思うなら、そこからどうやって良くなっていくかを考えるしかない。
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二の腕は彫ると痛いらしいが、勇気を出して右腕の裏に「感情に振り回されない」と入れる。これは2つで1つのことだ。感情的になって良いことなど何もない。冷静であればこそ感情の原動力を活かせる。感情はケルベロスのようなものだ。手懐けられないと全てをぶち壊す諸刃の剣になる。これは20代の頃の自分に一番言い聞かせたい言葉だ。
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左腕の裏には「シミュレーションをする、後手後手にならず、先回りしてやっておく」と句読点ごと入れる。まさかの3分節なので適度に改行したい。これはもうメンタリティを超えて具体的な行動だ。落ち着いて冷静に考えて、前向きに考えて、シミュレーションをすればネガティブな感情も乗り越えられる。最悪な状況を思いつく限り想定して、対処法を常に考えておく。経験上、万一、トラブルになって「どうするんだ」と怒られても、「こうしようと思ってます」とすぐに答えられたらそれ以上はあまり怒られない。
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胸には「噂話をしない」「次の世代の糧になる」「人を悪く言わない」「視野を広く持つ」「短絡的な思考をしない」「批判の前に熟考」「多様性を認める」「優しい人になる」「ロック」「野球」「音楽」「ラジオ」「筋トレ」「大谷翔平」「M-1」「つけ麺」「銭湯」「サウナ」「岩盤浴」「スーパー銭湯」などなど、思いつく限りの好きな言葉を下腹部まで書いていく。皮肉なことに、そのせいで岩盤浴やスーパー銭湯には入れなくなる。
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そのうちそれはお経のようになる。首にも、背中にも、太ももにもびっしりと自分にとって大切だと思うことを書いていく。手の甲にも、足の裏にも、瞼の上や顎の下にまで書いていく。その頃になると、多すぎる自分の信念に縛られて、人の話に耳を貸すことができなくなる。
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そして耳にだけ書き忘れてしまい、耳を落武者の霊に持って行かれる。「聞く耳なし芳一」というお噺でした。過ぎたるは及ばざるが如し、「考え方は柔軟に」と最後は心に刻む。お後がよろしいようで。