[livereport] Theピーズ30周年日本武道館 / 2017年6月9日(金)

 ほとんど18:30きっかりに客電が落ちて、左右のビジョンに30年間のハイライトが映し出されていく。アビさんが抜け、小五郎が加入し、数々の加入と脱退、活動休止、6年の沈黙。そしてピーズは復活する。アビさんとシンイチロウを引き連れ、ビジョンの中のハルが「ごめんなさいおかあさん、ハルくんは今日からまたバンドを始めてしまうのでした」と宣言して。雨の降りしきる25周年の野音でアビさんが咆え、ついに30周年。

 1曲目に選んだ曲が『ノロマが走っていく』だとわかった瞬間に、ビジョンの映像からすべてが繋がって、ピーズにまつわるものから個人的な思い出までが突然にシンクロする。紆余曲折と自暴自棄の先で自分をノロマだと自嘲しながら、それでも今日という日を満席の武道館で迎えたピーズ。今日はやたらとピーズが自分に重なる。戻らない人生も半分はとっくだな。今更リセットもないさ。外道にもなれた、卑怯にでも。ノロマが走っていく。たとえノロマでもいつか、こんないいところまで辿り着けるんだと、込み上げた思いが目尻から止め処なく溢れ出て止まらない。殊に今日は、他の誰からも絶対にもらうことのできない類の絶大な励ましを放っている。

 『とどめをハデにくれ』から『鉄道6号』へ。

 ステージ上には電飾に飾られた武道館仕様の大きなロゴが1枚。もちろん音響も照明もステージの大きさも、普段とは比べものにならない規模だ。SEにあわせてピーズの3人が小躍りしながら登場し、左右の舞台端で手を振りながら客席へ挨拶を終えたときにはまだ、ピーズもまた、お客さんのようだった。武道館に招かれた僕たちと、ピーズ。それほどのスケールがこの場所にはあった。比較的、観客の年齢層が高めなのは否めない。そしてその皆様の個性的なこと。多数の芸能人、バンドマンも駆けつけていると聞く。伝聞でしか知らないが、なにせあの百花繚乱、有象無象のバンドブームの真っ只中で、この諸先輩方はTheピーズに付いてきたのだ。そのピーズは今もなお、今日という日は30年の時を経て武道館のステージでライブをするのだ。それはもうチケットもソールドアウトするし、物販の列も途切れることなく、最後尾の位置は昼過ぎから変わらないどころか何時間経っても伸びていく。開演を前に、熱気とは違う静かな興奮にロックの聖地が包まれていく。玉ねぎの内側に吊るされた極大の日の丸の下に、今日はTheピーズがいる。

 「こんなのやったことねー」と言いながら『シニタイヤツハシネ』のサビフレーズで武道館中に響き渡るコールアンドレスポンスを繰り広げ、なんだこれー! と無邪気に笑うハル。スベって、ウンコ漏らして、そっからでしょバンドは! と熱弁するアビさん。俺が何にも考えずに喋ってたことがこんな大きなことになっちゃって、正直ビビってますと語るシンイチロウ。

 その一体感は、すぐに空気を僕たちとピーズのものに変えていった。

 武道館で何のてらいもケレン味もなく『オナニー禁止令』を演れるバンドなんて他にいないよ。しかもほとんど30年も前の曲なのに、一切の古さも感じさせないし、僕たちもそれをピーズであればこそ当たり前に受け止める。まるでピーズのお誕生日会のようで、その歴史に自分を重ね合わせたり、温かく見守っているような雰囲気。

 アビさんが言う。

 「ピーズの音楽がさ、みんなの中に入っていって、ドクドクドクドク駆け巡って、血になって、骨になって、それで明日も生きのばしてみっかって思ってくれたら嬉しいです」。

 そうだ。多くの人にとってピーズは自分自身であるんだ。僕たちは今日、自分の晴れ舞台を見ている。ダメな時代の甘い思い出、思いだすたびに苦くて切ない思い出、それらをピーズとともに噛み締める、まさにピーズと出会ってから今日までの記念日なんだ。

 この日、ハッキリとわかったことは、30年前から少しずつでも「ピーズの音楽が体の中に入っていって、ドクドクドクドク回っていって、血になり、骨になった」ファンが増えて離れられなくなったから、ハルもファンも「ピーズを聴いてるやつなんてどこにいんだよー」と思っているのに、いざっていうときにこれだけの人が集まる。それで『デブ・ジャージ』を演っても活き活きとしている。

 ピーズは新しくも古くもならず、30年前の曲も最近の曲も同じように演っていて、僕らファンも、ピーズもずっと、これからも変わらずにいるんだろう。そう簡単に人間も人生も変らないし、生きるっていうことはただ単純に生きのばしていくことでもいい。

 巨大なミラーボールの灯りに乗せて歌う。「君は僕を好きかい」って、好きに決まってんだろうが。

 ドリンクを手に持たせて、ハルが叫ぶ。

 「乾杯! みなさん、生き延びてくれてありがとう。それだけだ!」

 僕たちは日々、開き直って生きている。仕方がないことを受け入れて、その目が死んでいたとしても、それはただの絶望じゃない。僕たちは開き直ることで生きることができていて、それを歌にできるバンドがTheピーズなんだ。ネガティブでも、諦めでもない。ピーズは、けっして簡単には死ねない僕たちが、明日を生きのばしていく術だ。その、生きのばした先にある輝きがまさに今日なんだ。

 中途半端でも迷いながらでも、酒の力でも女でも何でも借りていけばいいんだと、他の誰でもないピーズが武道館のステージで言っている。

 ダブルアンコールのラストで武道館の客電が一気に明るくなり、改めて満員の座席をしみじみと眺めていたら、「10年前も10年先も同じ青な空を行くよ」と『グライダー』が始まった。10年前も10年先も、同じ曲を聴いて、同じように泣いている。ピーズを好きだということが、自分を強く強く肯定してくれる。煌々としたライトの下で、全員が穏やかに笑う顔がより眩しく輝いていた。

 終演後、SEで『好きなコはできた』が流れはじめると、客席全体からの大合唱が始まる。もう楽器を置いたはずの3人はお互いに手を取り、ステージの中央でグルグルと回りはじめた。武道館でピーズが作り上げたあまりにも幸せな瞬間。それを背に受けて、明日まで生きのばしていく。その先にある美しい景色をきっともう一度見るために。

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