家出 : Aug.2012
大金持ちの一人息子が、男友達の家に押し掛けて早一週間。
何もかもある実家より、何も無い一人暮らしのワンルームの方が居心地がいいと言ってきかない。
しかし、一人息子の行方を案じる両親から捜索願が出されていた。
それを知らせる友人。両親の心配ぶりに、家に戻ることを決める。
迷惑をかけたお詫びに、友人に200万を受け取らせようとする。
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(二人、くつろいでいる)
「(家の主。両手を後ろについて体を支えながら座り、テレビを見ている。)」
「(一人息子。寝転がって漫画を読んでいる)」
「(テレビから目線を逸らさずに、次第に笑いながら寝転がっている一人息子の肩を叩く)」
「(一度、友人に目をやり、テレビに視線を移す)」
(二人、次第に大笑いしながら、顔を向かい合わせる)
「はっはっはっはっは!」
「はっはっはっはっは!」
「はっはっはっはっは!お前……いいかげん、ウチから出て行けよ」
「……この、タマネギ野郎が!」
「……(首を傾げる)一人暮らしがしたいんだったら、俺も家探し手伝うからさ」
「バカ、この家が居心地がいいんだよ」
「どこがだよ。何も無い、6畳一間のワンルームだぞ」
「そこがいいんだよ。男の一人暮らしって感じで、落ち着くんだよ。たとえこの部屋に、電子レンジと洗濯機しかなくても」
「もっとあるわ」
「例えばの話だよ。実家にはいろいろありすぎて、逆に落ち着かねえんだよ」
「大金持ちのボンボンの考えることはわからん」
「あと、お前の料理。この微かに香るスパイスの香り」
「カレー粉の調合してたから」
「今日も炒めるんだろ!?タマネギ、飴色になるまで炒めるんだろ!?この、タマネギ野郎が!」
「…………。」
「ウチなんかさーおふくろの手料理なんて喰ったことないぜ」
「自慢か?」
「飽きたんだよー!だから俺は、たとえ、この部屋に電子レンジと洗濯機とガラムマサラしかなくても」
「だからもっとあるわ。なんで家電とスパイスしかねえんだよ」
「例えばだよ。(再び寝転がり、漫画に目をやる)とにかく、俺はいま、生まれて初めて充実した生活を送ってるの!」
「……なあ」
「(無視して漫画を読み続ける)」
「なあって」
「なんだよー(振り向く)」
「捜索願(捜索願を開く)」
「(再び漫画に目を落とし、驚いてもう一度振り向く)」
「なんだこの写真、犯罪者か?」
「写真撮るとそんな顔になっちゃうんだよ」
「懸賞金200万」
「「……引くわー!!」」
「だから嫌なんだよー」
「親御さん、本気で心配してんだって。帰ってやれよ」
「…………。」
「これ以上おおごとになったら俺もかまいきれない」
「…………。(一息つく)迷惑かけたな」
「帰るか」
「(小さく頷く)。お前さ、この200万円、もらっちゃえよ」
「いいよ、そんなの」
「いいからいいから。俺がこの部屋にいましたって証拠に、写真でも撮っとけよ」
「……(携帯を向ける)」
「(捜索願の顔になる)」
「(シャッターを切る)」