ラフ族の村への訪問 ④ ~手紙~
『ラフ族の村 3日目』 ~手紙~
今日も朝4時から鶏がけたたましく鳴きだしました。みんなそのうるささに必死に対抗してどうにか睡眠を確保しようとしていたのですが、さすがに脳天を突き刺すようなその鳴き声は無視しきれないらしく、うんうんとうなりながらもがいていました。
僕は6時半に起床。寝袋をたたみ今日の天気の様子を伺いにと、ちょっと外を覗いてみました。するともう何人かの子供たちが僕らの家の前で遊んでおり、チラチラとこちらの方をたまに見ているのです。それは明らかに僕とか上奈路さんが出てくるのを待っていると言った素振りでした。僕は慌てて家の中に戻りました。子供達が僕らを待っててくれているのは嬉しいことなのですが、朝の6時半から子供達に捕まったらとてもじゃないが1日体がもちません 僕は3日目ですがすでに体がバテ気味でした。8時半から朝食となったのですが食事はほとんど喉を通りませんでした。暑さのせいもあるのでしょうが体がとても疲れていました。いわゆる夏バテでしょうか。
食後はたまっていた日記を書こうと思い、学校のある高台まで登って行くと早くも子供達が集まってきました。子供達が集まってくるとどうしても“何かして遊んであげなきゃいけないんじゃないか” という気持ちになります。期待されるとどうしてもそれに答えなければいけないと思ってしまうのです。そうこうしてるうちに一人の男の子が“鬼ごっこやろう”と言い出しました。どうもこの村の子は鬼ごっこが好きなようです。子供達は本当に楽しそうにはしゃいでいます。
そこは学校とは言っても今は使われていない校舎なので、子供達は柱に登ったり机の上を飛び回ったりと好き放題暴れ待っています。しかしそれに合わせて動き回る僕と上奈路さんは大変しんどい。ふと上奈路さんの顔を見ると朦朧とした顔つきで動き回っています。きっと彼女も疲れているのでしょう。
しばらくたって本当に疲れてきたので、とりあえず一旦家もと戻りました、 無理のし過ぎはよくありません。僕らが家の中に入った後も子供達は家の入り口付近でたむろし、僕らが出てくるのを待っています。僕らは“頼むちょっとだけ休ませてくれ”と言って少し横になっていました。 家の中は風通しもよく当然日陰となっているためとても涼しいのです。
だんだんと元気に回復してきた頃、一人の男の子が トコトコと家の中に入ってきました。今まで入り口の近くまで来ても子供達は家の中まで入ってきたことはなかったのですが、“何かあったのかな”とちょっと気になりました。7歳ぐらいのその男の子はトコトコと僕らの前まで歩いてくると、それまで手を後にして隠し持っていたものそっと僕らに差し出しました。それは二つの花束でした。小さな黄色い花をいくつも集めそして綺麗に束ねた花束でした。その花束は決して大きな花の派手な花束ではなかったけど、その男の子の優しさに優しさを伝えるには十分な花束でした
午後は芝浦工大の人たちはみんなで“滝”へ行くと言っていました。 僕ももうすでに一回入っているし家の中で休んでしまうかと思っていました。ですが子供たちも滝へ行くというので、そうすると僕と上奈路さんは当然子供達に“行こう”とせがまれると思いますし、もうこれが最後のイベントとなるためもう一度だけ行くことにしました。
食事(昼食)を済ませ外に出ると、もうすでに子供たちが集まっています。はたして滝へ行くということが子供たちに伝わっているのでしょうか。滝へは複雑な道を通って行くため子供達が先案内人となってくれなければ僕らは滝へ行けないのです。僕は子供たちにジェスチャーで話してかけてみました。山の向こう指さし泳ぐ真似をしてみたら子供達は OK だと言います。 まあまず間違いないのでしょう。そして道案内役の子供6~7人と芝浦工大生中12~13人、そして僕と上奈路さんは滝へと向かいました。
山の中では子供たちがとても頼もしく見えます。トゲのある草があったら手で押さえてくれたり、川の中でよろけたら手を差し伸べてくれたり。山の中ではとても10歳前後とは思えないような男らしさを彼らは見せるのです。滝への道は片道40分ほどで、途中から川の中をジャブジャブ入り川を上っていくという結構ハードなコースとなるのです。僕は芝浦工大の人達は大丈夫なのかなと結構心配でした。女の子もいたし。しかしそんな心配をよそに彼女らはキャッキャと言いながらも楽しそうにジャブジャブと川を上っていきます。 彼女らは意外にみんなタフ揃いのようです。
40分ほどするとようやく滝へと着きました。この滝は 2.5~3メートルほどの落差しかなく大したことはないのですが、何よりこの滝の魅力は飛び降りることができることです。子供たちは滝の上まで登りそこから飛び降ります。滝はあまり落差がないため、当然に滝壺もそれほど深くはなく膝ぐらいしかありません。子供たちは楽しそうにポンポン飛び込んできます。 大学生たちにも子供たちがとても楽しそうに見えたのでしょう。何人か滝へ向かっていきました。
滝の上に出るにはまずその横にあるが崖を登らなければいけないのですが、またこれが怖いのです。手をかける場所や足を置く場所があまりないのです。崖の途中で身動きが取れなくなっていると子供達がアドバイスしてくれるのです。「こっちの岩は安全だから、この岩につかまった方がいい」「この岩は崩れやすいからだめだ」などと教えてくれるのです。そしていざ滝上を出てみるとその落差が下から見た時以上にあるように見えるのです。これはけっこう怖い。水深があるならともかく浅いため、その恐怖心は余計に高まるのです。女の子は何度も飛び込もうとするのですがもう一歩が踏み出せないらしく、何回も自分自身と格闘していました。そしてようやく「キャー」という声とともに落ちたと思ったら、腹から落ちたらしく顔中がしゃびしゃになっていました。 でも、彼女の顔にはすぐ爽快な笑顔が浮かんだのは言うまでもありません。
このダイブは全員が行いました。 典型的な都会っ子に見えた芝浦工大の学生がこれほど楽しそうにはしゃいでくれるとは思っていなかったので、僕も何と何となく嬉しくなってきました。最後にみんなで滝壺に入り記念撮影をしてから滝を後にしました。
帰り道、子供たちが大きな葉が出ている木、なんの木か草か分からないのですが、その木より葉っぱを必死に取ろうとしています。“何をしてるのだろう?”と見ていると、ようやく取れたその大きな葉を僕に“はい!”と言って手渡してくれました。どうもその葉は“日傘代わりに使え”ということらしいのです。その緑色をした大きな葉は確かに頭の上にかざすと日傘代わりになります。“こりゃいいや”と僕はありがたく頂戴することにしました。
すると彼らは次々に葉を取り始めました。芝浦工大の人たちにも、その大きな葉をあげるためです。彼らは決して一人だけを贔屓にするような真似はしません。必ずなんでも平等に分け与えるのです。数人の小さな子供たちが十数人分の大人の傘を作り出すことは容易ではありません。その葉は“むしれば取れる”と言うようなヤワなものでなく、草をなぎ倒すようにして折らなければ取れないのです。しかも葉と茎の部分がなかなか引きちぎれないらしく、子供達は歯を使って噛み切っているのです。「いいよお前達そんなことしたら歯が欠けちゃうよ」と言っても子供達は「平気だ」という感じで作業を続けるのです。そんな子供達がとてもいじらしく、可愛く見えて仕方ありませんでした。
村へ着くともう街へ帰る際のトラックが来て待っていました。僕らはあまり休む暇もなく帰り支度を始めました。 僕は支度が終わると、滝へはい一緒に来なかった子供達に、 別の挨拶をしに行ったのですが、畑作業手伝いに行ったのでしょうか、あまりも家には子供たちはいませんでした。それでも何人かの子供たちを見つけ彼の手を握り、「じゃあな、ありがとな!」と言うと彼らは照れたように笑い手を振ってくれました。そしていよいよ出発するというとき、僕はバックからまだ使っていない新品のテニスボールを取り出し、子供たちの年長者の男の子に放って渡しました。そしてジェスチャーで「それでみんなで遊んでくれ!」と言うと彼は OK という風にニッコリと笑って見せました。
トラックにみんなで乗り込み村の人達が見送る中、トラックはゆっくり走り出しました。子供達に向かって手を振ると、また彼らも振り返してくれました。