1997.4.24『バンコク⇒ チェンマイ バスでの移動』②
1997.4.24『バンコク⇒ チェンマイ バスでの移動』②
VIPバスは夜の8時にバンコクを出発した。予定では明朝の6時30分頃にチェンマイに着くはずである。バスは想像以上に豪華であり、日本でも乗ったことがないデラックスバスだった。となりに座ったのはタイ人の女性であり、推定35歳。人の良さそうな人だった。
シートの倒し方だとか、いろいろと懇切丁寧に教えてくれる。しかし彼女は全く英語が話せないようで、意思の表示はすべてボディランゲージと目でおこなった。
バスは昼間なら景色を見られていいが、夜だと暗くて何も見えない。何か考え事をするか、ボォーとしているか、どちらかしかできない。俺はとりあえず最初は考え事をしていたのだが、そのうちボォーとするようになっていた。
となりに座っていたタイ人女性は携帯で音楽を聞いている。すると彼女は片方のイヤホンをはずし、俺のほうに差し出してきた。「聞いてみろ」というそぶりをしている。これには俺は驚いた。というのは今までは「親切な人なんだなあ」という程度だったが、見ず知らずの外国人に対し、イヤホンを共有するなどというこては、日本ではとうてい考えられないことだからだ。
多分、日本でバスにおいてとなりに座った外国人に対し、このような行為は絶対にしないだろう。絶対に「怪しまれる!」と思うからだ。
俺は少々とまどいながらもイヤホンの片方を借りることにした。聞いてみると聞いたことのあるアメリカ人歌手の声だった。「アメリカン ポップス?」と聞いてみたが彼女は「何を言っているのか分からない」という素振りをした。俺は非常に困惑していた。
俺はいろいろ考えてみた。これらの親切はタイ人における仏教のせいなのかと思った。しかし俺が聞いたところ、タイは小乗仏教でありこの親切とはどうも結びつかない。
彼女の親切はこればかりではなかった。バスの中のエアコンは非常にと寒く、フリースの上着を着ても毛布をかけてもまだ寒かった。やがて鼻水がダクダクと垂れてきたがティッシュを持っていなかったので、手でこすっていた。
その仕草を見られるのが恥ずかしくて、彼女に見られないと思われる角度において鼻水をふいていたのだが、彼女は気づいたらしく、そっとティッシュを渡してくれた。その渡し方がとてもさりげなかった。俺の「恥ずかしい」と思っていた心を多分意識してでの『そっとした渡し方』であった。ものすごく感謝した。
また夜中の12時頃にサービスエリアのような所に着き、俺は小用をすましたあとバスに戻ろうとしたら、バスの乗客は、サービスエリアでは無料でお粥を食べられることを教えてくれた。そして「韓国人の女の子の2人組みも呼んでこい」と手振りで言っている。そして食べ方がよく分からない俺たちひとりひとりに、お粥をよそってくれたりした。
バスは朝の6時半にチェンマイに着いた。俺はあまり眠れなかったためボォッーとしていると、彼女は小走りで近くの売店に行きシュウマイを買ってきてくれた。俺に「あとで食べなさい」いう素振りで差し出してくれた。
俺は感謝の気持ちをどのように伝えたらいいのか分からず、タイ語で唯一知っている2つの言葉の一つである『コークン(ありがとう!)』という言葉を繰り返した。あとは精一杯の笑顔をすることしかできなかった。