![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/164291175/rectangle_large_type_2_146153fd50dbadb34bd25a0c0e77857f.png?width=1200)
54.飛行機嫌いのためのラウンジ
![](https://assets.st-note.com/img/1733305436-wjYkKWpfEse1mNcdQS67D803.jpg?width=1200)
杉山は、飛行機が嫌いだ。
高所が苦手だからだ。
かといって、恐怖症ではない。
人に恐怖を隠せる程度には適応できる。高所苦手症。飛行機苦手症。観覧車苦手症。脚立苦手症。
仕事で、かなり飛行機に乗る。
本当は、日本のどこであっても鉄道で行きたい。それは叶わない。アポに間に合わないからだ。高額を支払って苦手なものに乗るほど、バカくさいことはない。だが、やむを得ない。
飛行機嫌いのための、隠しラウンジがあるそうだ。
空港ではない。
機内に、である。
座席にある、オーディオやリクライニングのスイッチを駆使し、特殊な隠しコマンドを入力すると、トイレのそばの隠し扉がフィーッと開く。
中に入ると、管制室みたいな暗い部屋に出るらしい。
「――ゴンチバ。ラウンズデ、アルダデヤ。モウ、アンシヌ、デチル。アビナイオモイ、センダヤデー」
「好きなところに座ってよいの?」
「サイ。ボチロン」
「じゃ、ここにしようかな」
そこでは、いま乗っているはずの飛行機を、第三者目線で見られるばかでかいモニターがあり、高そうなソファーがあり、バーカウンターがあり、コンシェルジュがおり、シートベルトはなく、救命胴衣もなく、揺れもなく、したがって恐怖もない。
ただ、入場料はとられる。
「カネ、トリマス」
「は」
かなり高い。
片道運賃の、きっちり3倍だ。
これを払えば、しかし着陸のときまで、まるで他人事のように飛行機はゆく。次にフィーッとドアの開いたときが、到着のときだ。
「トゥキバシタ」
「うわ、ほんとだ」
このラウンジは機内にあるのではなく、やはり空港にあるんだと言う人もいる。きっとテレポーテーションの技術を使っているんだ、とその人は言った。いや、それならはじめから空港から空港へとばしてくれと言ったら、いや、それもできるって。だけど8倍かかるらしいよ。ケッタイな話である。
――こんなラウンジは、もちろん実在しない。
本当にこんなラウンジがあるなら、使わせてほしい。
あるなら、本当に。
払うから。
だれか。
![](https://assets.st-note.com/img/1733306508-fINJPZV3YKL2x8QuFlpkWy9w.jpg?width=1200)