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Photo by
kirico_katori
13.推す、燃す
古代の話――
唐代に、本当にあった出来事だ。
幽州の賈島という青年が、科挙を受験するために長安を訪れた。ところが、生真面目な賈島は、都に来たことのない田舎者だったため、すっかり舞い上がってしまい、なけなしの金を使って飲み食いをし、切望していた女を買うことも、もはやできなくなってしまった。
それを横目に、ある僧侶がハイヤーから降り立ち、淫猥な笑みを浮かべながら、娼館へ消えていった。
賈島は、地団太を踏んだ。地面を敲いて、敲いて、敲きまくったが――どうしようもないので、詩を作ることにした。
さっき、門の向こうへ消えた僧侶のことを詩おうと思った。賈島は、一切迷うことなく「僧は推す、月下の門」という句を作った。
しかし、これではあまりに風情があり、あの僧侶の俗っぽさが出ないと思いなした。
そこで、僧侶を、仏道を汚す非道な破戒僧に見立て、そのメタフォアとして火を思いつき、「僧は燃す、月下の門」に直し、満足した。
この詩作との関連は不明であるが、娼館は、その夜出火し、全焼したとのことである。