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05.遊戯

「弟のクラスで、妙な遊びが流行っているの」
 俊郎にそう教えたのは、クラスメイトの原みどりだった。たしか、みどりには、年子の弟がいたはずだ。
「妙な遊び?」
「オセロのボード、あるでしょう。あの上に、将棋の駒を並べて遊んでいるらしいの」
「オセロに将棋?」
「サイコロも転がしているらしいわ」
 意味がわからない。
 そんなメチャクチャ遊びがあるものか。
「ねえ、見に行きましょう」
「は」
「行きましょうよ。さとるちゃんは5組だわ」
 有無を言わさず、みどりが俊郎の手をとった。
 はたして、昼休みの1年5組は、メチャクチャ遊びの真っ最中であった。
 ふたりの生徒が、机を向かい合わせて対峙していた。その一人は、さとるだった。クラスメイトは、ぐるりを取り囲み、ふたりに見入っていた。
「チェックメイト!」
 さとるがわめき、オセロ・ボードの王将をとった。
 その代わり、碁石をいくつか相手に渡すと、相手はサイコロを振った。
 そいつは、五の目が出たと言って大喜びした。
 そうかと思うと、さとるは王将をそいつに返し、負けましたと言ってうなだれた。
 まったく、わけがわからない。
「いったい、どういうつもり?」
 たまらず、みどりが言った。
「こんなメチャクチャな遊びがあるかしら。ルールもなにも、あったものじゃないわ」
「だまれ!」
 さとるが叫んだ。
「これは、れっきとした遊戯だ。ぼくらが考案したんだよ」
「そうよ! ひとつ年上だからって、口を出すのはやめてちょうだい!」
「帰れ! 帰ってくれ!」
「帰ってちょうだい!」
 こうして、俊郎とみどりが教室から押し出された翌日には、もう、メチャクチャ遊びは一年生ぢゅうの流行となっていた。
 男子生徒も女子生徒も、暇さえあれば、遊戯に血眼になり、いつしか、麻雀牌、トランプ・カード、花札まで取り込まれたらしく、猪鹿蝶とダイヤが揃ったからチンロートウだの、ポン! とわめいて飛車角をとるだのといった、珍妙千万な遊びが繰り広げられた。
 それから、どうなったか。
 やはり、どうかなった。
 ある日、一年生の、ほとんどの生徒が、学校を休んだのだ。
 みな、そろって高熱だそうである。
 さとるも、例に漏れないが……
 原因不明なのだそうだ。
 とにかく高熱が出て、悪寒がし、二三日伏せったあと、うそのように恢復するのである。
 メチャクチャ遊びと発熱との因果関係は、わからない。
 わからないが、もしかしたら、メチャクチャ遊びを始めたころには、すでに妙な病にかかっていたのかもしれない、と俊郎は思った。
 
 

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