61.夢に見たマーケット
夢の中のスーパーマーケットは、通路がみな、池であります。鯉や、鮒が泳いでいます。水蓮が浮かんでいます。水草が揺らいでいます。水は存外きれいです。お客さんは、みんな泳いで買い物をします。
「まったく、不便きわまりない」
ぼくは、ゆたゆたと水中を歩きながら、不平をこぼしました。
「こんなスーパーがあってなるものか」
すると、店員さんがこれを見逃さず、
「だけど、健康のためになるでしょう」
「そりゃなるでしょうけど、お年寄りや、子どもはどうするんです。買い物に来れませんよ」
「だから、ここを泳げるように、努力なさるんです。すると健康になりますでしょう。どのみち、当店は健康志向のスーパーマーケットなのですよ」
「詭弁だね」
「詭弁じゃありませんよ。そら、論より証拠」
見れば、通路には、海水帽と、ゴーグル姿の人が泳いでいたり、おばさんたちが談笑しながら横並びで歩いていたりしていました。かと思うと、ボートに乗り、買い物をしている人もいました。ぼくみたく、立ち泳ぎをしている人など、わずかしかいません。
「いかがです」
「たしかに、順応している」
「お、順応。いい言葉ですねえ。そうなんです、順応。はじめは奇妙でも、いつの間にか適応している。順応。いやあ、いい言葉だ」
それから、ぼくは言いました。
「じつは、一足先に、彼女が来ているんです」
「そうですか」
「そうですかって。見ませんでしたか」
「どんな人」
「こんな人」
店員に、スマートフォンを見せました。
店員は、うん、と頷きました。
「お見えでしたよ。ずいぶん泳ぎが上手なのですね」
「はい。高校まで水泳部でしたから。で、どこにいましたか」
「バックヤードで面接を受けているはずです」
「面接?」
「アルバイトの募集に応募したのだと思います」
「そうかな。彼女もぼくも、勤め人なんですが」
「勤め人でも、この店の店員にはなれる。仕事をお辞めになれば」
「そりゃそうですが、辞めないと思いますよ」
「そう思いますか? では、あれをご覧ください」
店員が、かなたを指さしました。
そこを――
ぼくの彼女が、カジキマグロのような猛烈な速さで、横切るのが見えました。
「あれは?」
「彼女、立派な店員になりそうですよ。泳ぎの得意な人は、きっと、立派な店員になるんですから」
言うと、店員は、ざばあ、と水音を立てて、その場に跳び上がりました。
その下半身は――
魚。
おひれと、しっぽの――
人魚だったのです。
「あなたは人魚になれない以上、帰らねばなりません」
ざぼん!
ぶくぶくぶく。
「あの人はどうなるんです」
ざばん!
「むろん! ここが棲家となります」
「うそだ」
「本当です。ここの店員になるとは、そういうことですから。それでいいのでござんす。そういうスーパーマーケットなんざんしょ。早く帰ったほうがようござんす」
次のシーンで、ぼくは、迎えに来ていた友だちの車に乗り込もうとしていました。
友だちは、
「池だの人魚だの以前に、こんな値段の高いスーパーはじきに潰れると思うよ」
と言いました。