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57.チャールストン・ゴースト
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私は、ホテルに勤務しています。
数年前に、近くの高校の、同期会が行われたんです。
コロナの前でしたから、300人近い団体でした。ホテルのいちばん大きなパーティ会場をあてがいました。
パーティ自体は、つつがなく終わったんです。
けれど、ある女性から電話がありました。
財布からお金がなくなっていたと。
聞けば、参加費が1万5千円で、2万円支払ったから、5千円札のおつりがきたと。それが、財布からなくなっていたという話でした。
会場の外に物販はありませんから(たまに、校章の入った文房具や、校友会誌を販売する団体もあります)、お酒に酔って、5千円をなにかに使ったことを忘れている、ということもなさそうでした。まあ、会場を出たあとのことは知りませんけれど――。
前置きが長くなりました。
上司と相談して、とりあえず、パーティ会場の監視カメラを見てみることになりました。
私が見たのです。
下っ端ですから、時間のかかる雑用のお鉢が回ってくるのには慣れています。
それで――
あの透明人間を見つけたのです。
宴もたけなわ、座が乱れはじめたころでした。
タキシードを着た――
いえ、タキシードだけが、会場の端から、スウッと現れたのです。
透明。
透明――透明人間?
けれど、周りの人たちは見向きもしません。
見えていないのでしょう。
タキシードは、ふらふらと、会場の中ほどまで進みました。
タキシードは――
踊りはじめたんです。
うまいダンスでした。
少し古風で――
趣味でピアノを弾くのでわかりますが、あれは、チャールストンという、アメリカのダンスです。
タキシードは、誰にも、見向きもされぬまま、ひとしきりチャールストンを踊りおわると――
フウッと、煙のように消えてしまいました。
本当です。
消えてしまったのです。
翌日、例の女性から、電話がありました。
考え違いで、5千円札はあったと。お騒がせしました、ということでした。
お金の話が収束したので、透明人間の話も、私どまりで済みました。面倒なことにならなかったのは良かったと思います。
あの透明人間が何者だったのか、いまだにわかりません。
いま振り返ると、彼女は、私に透明人間を見せるために騒いだのだろうか。そうも思いますが、考えすぎでしょうか。