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68.カーブの怪


カーブの怪

 前方80メートル、緩やかなカーブの出口付近に、雪煙が舞っている。シフトダウン。減速する。黒いワンボックスが、路肩に乗り上げている。スタックだ。
 カーブを抜けたところに車を停め、歩み寄る。
 やはり、スタック。まただ、とぼくは思った。
「白い、人の影のようなものが見えたんです」
 ほら、また、同じことを言っている。
「それが、道路を横断するように見えたので、慌ててフットブレーキを踏んだらスリップして――」
 とりあえず、スコップで最低限の雪をどかし、牽引ロープで引っ張ってやった。ほどなく、脱出した。
 このカーブは、やはり変なのだ。
 この道路自体が、リゾートホテルの私道で――
 したがって、まっすぐに、巨大なスキーリゾートにつながる道なのだが、出来た当初から、このカーブでだけスタックやスリップが多発しているのだ。それほどきついカーブでもないのに、である。
「ありがとうございました」
「はい、お気を付けて」
 ――決まって、人影が現れた、と言う。
 それも、白い、お化けのようなものが。
 さっきの人も、人を轢いたかも知れない割には落ち着いていたが――なんとなく、これは人じゃないな、というのは察知したのかもしれない。人の現れるわけがないのだ。この道のほかは、深い雪原なのだから。
 とまれ、原因は不明である。
 カーブの怪、としか言いようがない。
 リゾート開発のときに、なにか土地神とか、もっと古くからいた人の気に触ったのだろうか? とも思うけれども、本人に訊いてみることもできないし、地元の人間としては、ただ気をつけようと、それだけである。

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