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86.ヤミー・マミー

 

千切りはお手の物だ


 飲食店の店員を恫喝したり、なじったり、馬鹿にしたりした者を懲らしめる用心棒。
 その姿はマミー(ミイラ男)で、得物は出刃包丁である。王朝期の古代エジプトに生きた宮廷調理人で、相当腕が立ち、時の王に可愛がられた。その王が死んだとき、併せて殉葬された。
 定食屋でメシを食べ、ごっそさん、と店を出るとき、厨房から「ありがとうございました!」と爽やかな男声が聞こえてくる。ああ、姿は見えなかったけど、あれが調理人か、と思いながら店を出る。じつは、半分くらいはヤミー・マミーである。
 店員に対して舐めた態度をとる輩は「わたしは相手によって態度を変えます」という下品な人間であるが、それだけに、出刃包丁を持ったヤミー・マミーが登場すると、あれだけギャーギャーわめいていた癖に、途端に怖気おじけづいてしまう。
「ウワア!」
「――きみ、たぶん病気だよ。さよなら」
 ヤミー・マミーの名誉のために申し上げておくと、出刃包丁を振るったことは、過去に一度もない。
 
 
 


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