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【車中泊旅2024夏7/2~】8/2 Day32:表銀座縦走三日目 大天荘から西岳~ヒュッテ西岳テント泊
北アルプス表銀座縦走三日目。穂高連峰と槍ヶ岳がバランスよく見える大天荘からの壮大なモルゲンロートで始まった今日。西岳への道は途中から難易度が高くなってきました。西岳で出会う人も今までの登山者とは違って、プロっぽい人も多い。だんだんと自分が北アルプスの深い部分に入って来ていることを実感した一日でした。
〇大天荘でのモルゲンロート
大天荘では日の出が見られる場所と穂高連峰と槍ヶ岳へのモルゲンロートが見られる場所が少し離れているので、どちらかを選ぶ必要がありました。
私はモルゲンロートが見たかったので西側を向いた場所で待機。夜明けは午前4時50分頃でした。大天荘のテント場付近からは穂高連峰と槍ヶ岳がバランスよく全て見られます。今日はモルゲンロートそのものよりも、その直前の背後のグレーからピンクのグラデーションを背負った穂高連峰と槍ヶ岳の凛々しいグレーの岩肌の風景が、めちゃくちゃ素敵でした。
もちろんモルゲンロートもスペクタキュラー。ほんの数分間の劇的なショーを今朝も楽しめました。
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〇朝ご飯の語らい
今朝は山荘の玄関で販売されているコーヒーを買いました。昨日、食堂でコーヒー豆を挽くミルがあるなぁと思って見ていたのですが、ここのコーヒーは山で飲んでいるとは思えないクオリティで、非常に美味しかったです。
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山荘前の外のテーブルで、昨日と同じくお湯を沸かして、インスタント味噌汁とふりかけを入れたアルファ米に注いで15分。待っている間に隣に座っていた男女とおしゃべりを楽しみました。女性は大学生くらいで来年はニュージーランドにワーホリに行くらしい。男性はオーストラリアやニュージーランドへの旅の経験もあり、有機農業などを経て現在は山梨県で「ぴたらファーム」というオーガニックファームコミュニティを主催されているという方でした。
朝ご飯でちょっと話をするレベルじゃなく盛り上がってしまったのですが、それぞれに予定があるので残念ながら話を切り上げてお別れしました。朝から濃い人に会えて面白かったです。
〇大天荘から西岳へのトレッキング
まずは大天井の山のすそ野をぐるっと下がりながら大天井ヒュッテへと向かいます。この道が石がゴロゴロとする瓦礫の道で、かつかなりの急降下。1時間、浮いた石に足を載せないよう慎重に足を運ぶ必要があって神経を使いました。
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昨日、西岳に電話をかけて確認したら、ランチを出す食堂はないという情報でした。パンやカップヌードルも売っているが、いつ売り切れるかわからないとも言われました。困ったなぁ。到着した大天井ヒュッテのランチメニューには美味しそうなソーセージを使ったホットドッグ、冷麺、本格的なカレーなど魅力的なメニューが並んでいます。しかし、現在朝8時。食堂オープンは朝9時半なんですが1.5時間も待った上に、ランチには早すぎる時間の食事になってしまうので、諦めました。売店ではアンパン、はちみつ入りドーナツなどが売られていたので、アンパン一つ300円、ドーナツ6つ300円を購入。このドーナツは小分けになっているので、後々までも小腹が減った時に助けていただきました。
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大天井ヒュッテから西岳まで、最初の30分は尾根の上までは登らないマキミチを歩くので、そんなに登らないし、平坦で木陰もある道で楽でした。
しかし「ビックリ平」から結構な岩肌を登ったり、片側が断崖絶壁の細い道が時々あったりと、だんだんと難しい道が2時間半続きました。そうそう、途中で槍ヶ岳から帰る人にすれ違って挨拶をしたら、昨日、大天荘でおしゃべりしていた27歳の女性でした。朝一番で大天荘から槍ヶ岳に行って登って、今日は大天井ヒュッテに宿泊するんだそうです。いやはや、バイタリティが凄い。我々は、出発から3時間半、午前10時半にヒュッテ西岳に到着しました。
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ヒュッテ西岳は目の前にドーンと槍ヶ岳の見えるロケーション。いよいよ槍ヶ岳が近づいてきたなぁというのが第一印象です。
〇ヒュッテ西岳で予想外のランチ
ヒュッテ西岳のテント場は予約必須なので予約していました。食堂もないと言われていたので、とりあえずテント受付してテントでも立てようと受付窓口を訪れました。
その際に、売店にカップヌードルとパンが売られているのを確認したのですが、同時に「メニュー」と書かれたボードに「カレーライス、牛丼」などと書かれていました。あれ?食堂ないって言ってなかった?
ご主人に聞いたら11時から14時まで食事は出すが、山荘宿泊者以外は外のテーブルかベンチで食べてもらう事になるという事でした。だから、食堂はないって言ってたのね。
11時まで時間があったので、まずテントを張りランチ注文に再び山荘受付を訪れました。
二人とも注文は牛丼。ご主人に「大盛りありますか?」と聞いたら「ありません」との回答。仕方ないので足りなかったらカレーライスを注文するか、パンでも買って食べようかと思っていました。
外のテーブルで待っていたら、スタッフの男性が牛丼とお水を外のテーブルまで持ってきてくれました。同時に宿のご主人が、屋根の上で布団を干しながら「ごめんねー、大盛りってのはないけど旦那さんの方のご飯、多めにしといたから」と叫んでいました。見たら、かなりの大盛り。逆にお金を取って大盛りメニュー作ったらいいのに、と思ってしまいました。
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そうなんです。ここのご主人、たぶんちょっと不器用ないい人なんだと思います。テント予約の為に電話した時も、細かい注意事項を強い口調でおっしゃる。多分、到着時に色々と戸惑わないための親切だと思うのですが、その言い方だと気持ちが通じない。食堂の件も「食事は出すけど、日陰のない外で食べてもらう事になっちゃうんですよ」と言ってくれなかったのは、あまりに強い日差しの下で食べさせるくらいなら「食堂はない」と言った方が親切だと思ったのかもしれません。
予想外のランチの存在、そして大盛りサービス。西岳への印象がグッとあがりました。
〇絶景のテント場
テント場は3か所ありました。山荘と同じ高さで山荘の少し先に3-4テント張れる場所、その先の左手に崖の下で日陰もあるが槍ヶ岳などは見えない場所、その先の坂を上がり切った穂高連峰と槍ヶ岳が目の前にバーンと見える場所。最後の場所が一番広いテント場でした。
一番奥のテント場から山荘宿泊棟とその隣のトイレ棟までは徒歩2分くらい離れていて、やや不便です。しかし、その分、テント場は視界を遮る物が何一つなく、目の前に槍ヶ岳の雄々しい姿を漫喫できる贅沢さがあります。自分たちで張った我が家の白いテントと、その背後にそびえる黒々とした槍ヶ岳の姿は本当に惚れ惚れする美しいコントラストで、狂ったように写真を撮ってりたくなる魅力がありました。
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〇西岳山頂へ
牛丼を堪能した後は、西岳山頂へ向かいました。山荘から山頂までは20分弱。本当に目の前に槍ヶ岳が迫る迫力ある景色でした。左側に目を向けると前穂高と涸沢カールまで見えますが、西岳山頂に立つと、やはり迫ってくる槍ヶ岳に目を奪われますね。
山頂にいたら、男女二人組が荷物のない軽い装備で上がってきました。トレランの人のようで、これから西岳を降りて藪漕ぎして、大天井から上念経由で蝶ヶ岳に向かうとかおっしゃってました。要は私たちが何日もかけて歩いてきた距離を、午後だけで走り抜けるような事です。
次に上がってきたのは若い一人の男性。彼は昨日、我々が今回の登山を始めた中房温泉から槍ヶ岳まで行き、今日は槍ヶ岳から中房温泉に戻る途中なんだそうです。
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西岳までくると、超人的な人ばかりに立て続けに出会い、その点でも自分たちがかなりアルプスの中心に来たんだと確信しました。
〇バータイムのおしゃべり
西岳山頂から戻ってくると、先ほどまで日影がなかった山荘の東側に日陰ができていたので、そこのベンチでバータイムスタート。今日お隣に座ったのは40代の会社員の男性。普通の会社員です。と仰るこの男性は、マラソンからどんどん長距離にはまって、今では数百キロを歩く大会に出場している方でした。この日は今度参加するイタリアのトルデジアン(330kmを150時間以内で歩く)の練習で西岳を訪れているそうです。
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今までにタイ北部、フランスのシャモニーと2回参加しているそうで、今回は3回目。タイ、イタリア、フランスには旅行したことがあるので、多少の共通の話題もありましたが、それよりも彼について興味深くて色々と聞いてしまいました。330kmの他に400kmを超える距離の大会も一緒に開かれるそうで、今回のイタリアの大会には日本から60人くらい出場するそうです。そんな超人が日本に60人もいるなんて!
スポンサーはついているのかと聞いたら、笑って「そんな、こんな僕につくわけないじゃないですか!」。その明るい謙虚さがまた眩しかったですね。
本当にここで出会う人は桁はずれな人ばかりで面白かったです。
〇ヒュッテ西岳での夕焼け
それからも何人かの人が、入れ替わり立ち代わり隣のベンチに座って、その度にお話させていただき西岳の時間がゆっくりと過ぎていきました。午後6時半。そろそろ7時前の夕焼けイベントが始まりそうなのでテント場に戻りました。
今日は夕日は槍ヶ岳の後ろにさっさと落ちるパターンです。日没にはなっていませんが太陽は槍ヶ岳の後ろに隠れ、黒くシルエットになった槍ヶ岳の上の雲が刻々と色を変えていくのを楽しむのが西岳流なようでした。また、東側には常念岳と大天井が見えています。こちらの山にかかる雲の色が茜色になっていくのも美しい景色でした。
西岳のテント場からは左を見れば常念岳、右を見れば槍ヶ岳という景色なので、ぐるぐると左右を見ながら夕景を楽しみました。
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さ、今日も日没後に歯磨きして就寝。明日はいよいよ今回の最大難所だと私が思っている東鎌尾根を超えて、いよいよラスボスの槍ヶ岳に向かいます。