春の少し手前、山形へ。
東京ではもう桜が咲き始めていたその日、
其処はまだ少し春の手前、冬から春へと移りゆくちょうど境目のようだった。
山形は、わたしにとってなんだか特別で、とても思い入れのある場所だ。
恋人の出身地だということもあるし、前職で数年間山形県を担当させていただき、何度も足を運びそこに住む方々と深くお付き合いをさせていただいたということもある。
物静かだけど実はとても情に熱く、とにかく底抜けに優しい、山形の人がわたしは大好きだ。
三月の終わり、そんな山形県でずっと泊まってみたかったお宿に泊まる機会をいただいたので、備忘録として残しておきたい。
東京から車で四時間半。
久しぶりの車の旅に浮かれ、立ち寄ったサービスエリアであれやこれやと買い込んでしまう。
お宿に向かう前に、気になっていたカフェに二軒立ち寄ることにした。
一軒目は、side slide coffeeさん。
打ちっぱなしの壁が美しい、スタイリッシュな店内。
少し緊張してしまうような雰囲気かと思いきや、物腰柔らかで穏やかな店員さんと、絶品のハンバーガーにカフェラテ。
店内には小さい子どもがいる家族連れも居て、そのアットホームな空気がとにかく心地よくてあたたかい。
二軒目は、cafe+gallery 青田風さん。
窓の外に広がる雪景色を眺めながら、
訪れたひとは皆、温かい珈琲など飲みながら思い思いの時間を過ごしている。
紅茶を啜りながら、季節を少しだけ巻き戻したような、しんと冷えた冬の日を思い出すような、不思議な気持ちになった。
そうして、おやど森の音さんに到着。
館内の至るところから、木の温もりを感じる。
お気に入りは、やはりこの暖炉。
ロビーの真ん中に火がある。
それだけで空間が暖まり、暖炉の周りに集まる人たちの表情も心なしか、ゆるりほぐれていく気がする。
やわらかな灯りのともる客室。
窓からは、水墨画のような山々を眺めることができた。
夕食は、山形の食材をふんだんに用いた絶品料理の数々。
お酒に強くないわたしたちが頼んだ葡萄ジュースは、とっても濃厚で衝撃的な美味しさだった…
食堂の窓の外には大きな桜の木が生えていた。
春には、どんな景色が見られるのだろう…と想像して、なんだか幸せな気持ちになる。
夕食後は温泉に浸かって、旅の疲れを癒した。
山の中の一軒宿、静かな、静かな夜が更けてゆく。
迎えた翌朝。
昨日までの雨が上がり、うっすらと日が差していた。
つやつやのお米、朝ご飯をいただいた後は、
お宿で過ごす最後の時間をじっくりと愉しむ。
洗練されているけれどどこかあたたかい、ほっと一息つけるような。
センスの良い内装に惚れ惚れしてしまう。
名残惜しい気持ちを抱えつつも、
お宿の皆さんの柔らかい笑顔に見送られ、森の音を発つ。
お蕎麦を食べたり道の駅に寄ったりしながら、少しずつ東京を目指す。
帰京する途中、車の窓から見えた青空に映える雪山。
厳しい冬を越えた東北にも、もうすぐ春がやってくる。
春も夏も秋も冬も、いつだってここはとびきりに美しくてあたたかい。